第152話:亜人連合国手前。
一度目の中継地へ転移すると、出迎えのお偉いさま方が数名と彼らの護衛であろう騎士の方々の姿が。第一王子殿下と数度会話をやり取りすると、殿下がこちらに振り振り向いて『こっちへおいで』と言うような視線を感じたので、そちらへと歩いて行く。
「アルバトロス王国聖女、ナイでございます」
聖女の恰好をしているのだけれども、教会から借り受けている衣装よりも数段よい生地――てか、絹だろうねこれ。ハイゼンベルグ公爵家が私が亜人連合への派遣団の代表となった日に、お針子さんたちに無理を言って用意したものである。
二日しか時間がなかったというのに、プロの人は凄い。そしてそれを用意できる公爵家も。試着の際に公爵さまとソフィーアさまに『早業』と漏らすと苦笑していたので、特急で仕事を頼んだ時があったのだろう。
「初めまして。――」
自己紹介をされるのだけれど、どうしよう覚えられない。後で補佐官の人に聞けばいいか。外交に特化している人なので、相手国の人たちの顔と名前は憶えている筈だし。
こんな子供を……とか小声で言っているけれど、ちゃんと耳に届いているからね。第一王子殿下が青筋立てているけれど、今回は魔術陣を利用させて貰っているので抗議はしないようだ。
もう諦めているから良いけれど、せめて十五歳という年齢を伝えることが出来れば、この間違った認識を正せるというのに。
「ではこのまま転移されるのですね?」
「ええ。事態は急を要します故」
相手国の人と殿下の話し合いで、このまま転移するようだ。では次の経由地へ連絡を、と言って魔術陣がある部屋から出ていく人。
暫く待っていると、その人とおそらくこの国の魔術師の人が表れた。魔術師の人は魔術式の書き換えをするのだろう。私は魔術陣の行き先変更は出来ないので、先に知らせておいてくれたのだろう。本当に根回しが凄いなと感心しながら『終わりました』と魔術師の人の言葉で、殿下が私を見る。
「――"覚醒せよ"」
本当に起動詠唱って適当だよねえと、心の中で過去の魔術師の人たちのセンスを問いながら、体内の魔力を練る。
「なっ! 凄い馬鹿魔力っ!」
魔術師の人が凄く驚いているけれど無視無視。今はさっさと転移する方が先決。
「――"我らを誘え"」
ひゅっとお腹の中身が浮く感覚に目を細めた数舜後、次の経由地へ。また同じようなやり取りを繰り返して、ようやく大陸西方にある亜人連合と隣接するとある国へと辿り着いた。
「ようこそアルバトロス王国、使節団ご一行。よくぞ参られた」
私たちを迎えてくれたのは、まさかのこの国の王さま。ソフィーアさまがそっと耳打ちして教えてくれた。ようするに粗相はないようにということ。
第一王子殿下が爽やかスマイルを張り付けて、この国の王さまと会話を交わしている。今回の件で小麦を融通することになったようで、王さまは感謝の言葉を述べていた。どうやらこの国は食糧事情があまりよろしくはない様子。アルバトロス王国は穀倉地帯で、余剰分は他国へ輸出している。
こちらの国からすれば美味しい話だったのだろう。亜人連合と国交がある為、渡りをつけてくれたそうだ。
次の移動で最後となり、そこはもう亜人連合。連絡は入れてあるとはいえ、正直な所ちょっと怖い気持ちがある。
亜人の人たちは迫害され大陸北西部地域へと逃げ込み、元々住み着いていた竜の亜人の人たちが保護したことが、亜人連合国の成り立ちだ。人間を毛嫌いしていてもしかたないが、話し合いの席へと付いてくれるのだから理性的である。
「此度の一件、我々としても他人事でなく……。ご協力を申し出られた際は驚きましたが、ギルドへと確認を取れば事実とのこと」
情報が流れるのが早い気がするけれど、誰か流しているのだろうか。魔術のお陰で情報伝達については、バグっているので不思議はないけれど。
冒険者を重用している国では今回の銀髪くんのやらかしを随分と問題視しており、アルバトロス王国に同情的。
無断で国を跨いで悪さを働いたので、同様の事をまた起こされれば自分たちで解決するには随分と難しいらしい。ギルドにも厳しい追及をするとのこと。本当に大事になっている。
「さあ、皆さまお疲れでございましょう。お部屋をご用意いたしておりますので、ご案内いたします」
亜人連合国に入る為には、ここから馬車で約一日なので、そんなに距離はないみたい。転移で入国できないようなので、馬車か徒歩の移動のみ。転移魔術が使えるならよかったけれど、相手の事情もあるのだろうから無理は言えないか。
朝に出発して、中継地で挨拶やら根回しも行っていたので、結局夕方だ。気持ちを削がれたような気分になるけれど仕方ない。
「では参りましょう」
その声と共に来賓用の部屋へと案内される。アルバトロス王国の王城ほどの広さはなく、こじんまりとしている城。余りに豪華だと落ち着かないので問題はないけれど、殿下とかは大丈夫なのだろうか。
「はあ……」
案内された部屋の机の上に突っ伏す。私の補佐役のソフィーアさまとジークとリン以外にも護衛が付けられているし、滞在国の侍女も居る。妙なことは言えないし、妙な態度も取れない。うう、はよ帰りたい。
「疲れたの?」
「リン。少しだけ。……もう面倒だから一気に飛んでさっさと話しを付けたいけど、事情があるから仕方ない」
私はお飾り。心情面なら殿下や宰相補佐さまたちの方が疲れているだろう。この後は晩餐会もあるから参加しろと言われた。ご飯、美味しいかなと現実逃避しつつ、また見目を整えられて迎賓館へと向かうのだった。
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