第151話:出立。
――出発の為に陛下からのお言葉でも頂くのだろう。
そう思っていたのに、またしても来客……というか来訪者が居たようだ。どうやら今回の事に関係するようで、物凄く顔色が悪い。今にも倒れそうな状況なのだけれど大丈夫なのだろうか、そう頭に浮かんだ瞬間。
――陛下ご入来!
ここ最近よく聞くようになった声が耳に届くと、暫くすると陛下が表れ玉座へ腰を据えた。
「国王陛下、この度は我が国の者が申し訳なく」
「アルバトロス王、此度は我がギルドの冒険者が貴国に多大なご迷惑をお掛けし、真に申し訳ありませんでしたっ!!」
どうやら銀髪オッドアイくんが所属していた国の使者とギルドの長みたいだ。なんだかすごく言葉を並べているけれど、それは全部言い訳にしか聞こえないだろうから、言わない方が良いような。
「……」
陛下、キレているのか何も言わない。ギルド長も困惑しているようで、言い訳のバーゲンセールトークが消沈していた。どうするつもりなのだろうと眺めていると、宰相さまが口を開く。
「此度の件、アルバトロス王国から望むことは、貴国とギルド双方は事態の説明の為、亜人連合へ我々との同行、あのような冒険者を任命したギルドの責任――」
まだうんぬん続いている宰相さまの説明に、さらに顔色が悪くなる。青を通り越して土気色になっていた。止めてあげて、彼のライフはもうゼロだよ。
「は、はい。真に……真に申し訳ありませんでした…………」
ああ、最初の勢いもなくかわいそうなくらい項垂れている。立てる状態かな、あれ。とりあえず彼らも事態説明の為に、私たちと同行するのが決定したようだ。
規模がどんどん大きくなっているのだけれど、彼らも大変。銀髪くんの突拍子もない行動の波及が凄いな、本当に。ああはならないように気を付けないと、と肝に銘じて出発に際して陛下からお言葉を頂いた。
「我が国の命運は聖女ナイに掛かっておる。――同行者一同は側面支援せよ」
フォローで足りるのだろうか。政治の場面に立たされるなんて考えてもいなかったから、本当に素人なんだけれど。
今更どうこう言ったところで決定事項だから、口には出さないけれど。心の中で迷ったり、悩んだり毒を吐くのは許してほしい。
そうして陛下は下がって行く姿をゆっくりと目で追っていた。
「聖女さま、よろしくお願いいたします。本当はわたくしもついて行きたかったのですが、わたくしの分はソフィーアさんに託します」
ふいに声を掛けられる。セレスティアさまだった。その横にはマルクスさまも居て真剣な顔で『頼む』とただ一言告げて頭を軽く下げられる。
公爵さままでやって来るし、ジークとリンが籍に入ったラウ男爵さまの息子さん、もとい伯爵さままでこちらへとやって来て、彼もまた『国を頼みます』と礼を執る。知らない人にまで頭を下げられる始末で、今更ながら私が背負っているモノを認識させられる。
「行こう、出立だ」
そうしてソフィーアさまに声を掛けられて、謁見場から移動して転移魔術陣がある場所へと向かう。
多くの人が見送りに来てくれるようで、ぞろぞろと王城の中を移動しているので、まるで大名行列みたいだった。先陣を切っているのは第一王子殿下、その後ろに私である。勿論前には案内役兼護衛の近衛騎士さんが歩いているけれど。
私の立ち位置を認識させようとしているの、コレ。後ろで良いのに。
「聖女さま、大変でしょうがよろしくお願いしますね」
「はい」
魔術陣が展開されている部屋へと入ると、殿下に挨拶をしてから副団長さまが私に声を掛けてくれた。この人、魔術馬鹿だけれど王国にちゃんと忠誠心があるようで、こうして駆り出されてる。
どうやら魔力タンク兼起動詠唱者として呼ばれたようだった。暫くすると同行メンバー全員が部屋に入って少しすると、暴れないようにガッチリと拘束されている銀髪オッドアイくんに、エルフ二名。
エルフの女性二人は銀髪くんほどの拘束ではないけれど、近衛騎士に囲まれてやって来た。そして銀髪くんが所属していた国の使者とギルド長も。
「……ふがっ!」
銀髪くん猿轡を噛まされていた。何か言いたそうだけれど言葉にできない。あ、ギルド長に殴られた。黙っておけ、余計なことはするなということか。彼の綺麗な顔には青タン増えている。
見た目がとても悪いのだけれど、亜人連合の人たちと会う時大丈夫かなと心配になる。こちらが暴力的だと捉えられたら、どうするつもりなのだろうか。私が直前で治せばいいのか。なんだか道中でも増えそうだし、忘れないでおこう。
「魔術転移で一足飛びに、大陸北西部の国へ行けるわけではありません。ですので、次の地点からは聖女さまに託します」
いくつかの国を中継すると聞いている。今回の事態を他国に事情説明すると、返答が直ぐ返ってきたそうだ。
――阿呆な冒険者が迷惑を掛けた、手配するので魔術転移の使用を許可すると。
どうにもアルバトロス王国と他国では冒険者の価値観に相違があり、下手をすると冒険者システムが崩壊しかねない事態を危惧しているみたい。裏を返すと、冒険者自体が悪いので、冒険者ギルド組織に圧力をあまり掛けないで欲しいということなのだろう。
魔物の討伐に冒険者を利用しているし、非常事態にも彼らは駆り出されるらしい。もちろん軍隊や騎士団も抱えているのだろうけれど、平時の主力は冒険者で非常時や国の危機に公的な機関が出ていくのだろう。
国によって運営方法が全然違うのね。もし私が他国で生まれていたら冒険者になっていたのかも。孤児っていうのは変わらないだろうし、学がなくとも就けるみたいだしなあ。それもそれで自由気ままで楽しそう。もちろん命を掛けなきゃいけない時があるけど、それは今も一緒だし。
「承りました」
「では殿下、よろしいでしょうか?」
「ああ頼む。ヴァレンシュタイン」
「はい。では皆さんお気をつけて」
副団長さまが魔力を練ると、その魔力に反応して魔術陣が光りはじめる。お腹の中身が浮くような、この慣れ始めた感覚に苦笑いを浮かべて、最初の目的地へと転移したのだった。
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