第149話:謁見の意図。

 辺境伯領から王都へと転移魔術で弾丸移動した日から、二日が過ぎていた。国王陛下より亜人連合へ旅立つまでは公爵邸で過ごせとのことだったので、公爵さまのお屋敷で過ごしていたのだけれど、疲れていたのか殆どを寝て過ごしていた。


 「ナイ、陛下から招集が掛かった。城へ行く、用意するぞ」


 ソフィーアさまが来客室へとやって来て、そう告げた。亜人連合へと渡る手段を確定させたのだろうか。公爵さまにソフィーアさまと護衛のジークとリンに私は、近衛騎士の人たちに謁見場へと案内され中へと入る。

 中にはセレスティアさまとマルクスさまの姿もあるし、王国の高官の人たちも勢揃いしていた。ザワザワと騒がしい謁見場。暫く待っていると銀髪オッドアイくんが、近衛騎士の人たち十数名にがっちりと囲まれて謁見場へとやって来た。


 そしてようやく陛下が姿を見せ、陛下対銀髪くんの勝負にすらなっていない話し合いが、目の前で繰り広げられている。


 ――うーん。


 国の長を務める人を前にして取る態度じゃないよね。なんとなく眺めていたのだけれど、この謁見に何の意味があるのだろうか。陛下がこうしたことに理解が及ばないなと首を傾げていると、早々に謁見は終了したのだった。


 「どうした?」


 謁見場を出て廊下を歩いていると、ソフィーアさまが私の顔を覗きながら問うてきた。


 「今回の謁見に何か意味があったのかなと」


 「確かに意味が無いように見えるがな」

 

 「ええ。意味がないようで意味はあるのですわ、ナイ」


 ひょっこりと現れたセレスティアさまが、ソフィーアさまの言葉を補足するように私の左横に立つ。ちなみに右側にはソフィーアさまがいて、お二人に挟まれている形である。


 後ろにはジークとリンにマルクスさまが。前には警備の近衛兵さん。厳重に警備されているよなあと目を細めつつ、二人の言葉に耳を傾けた。


 「王国内の貴族も一枚岩ではないのは分かるだろう?」

 

 声に出すほどでもないので、頷いて先を促す。


 「強硬派に穏健派、中立派様々ですわね。――で、今回の騒ぎですが……亜人連合の機嫌など無視して裁いてしまえば良いという声が上がりまして」


 アルバトロス王国のお貴族さまたちは理性的だと考えていたのだけれど、どうやら過激な人たちも居るようだ。銀髪くんの仕出かしたことを考えれば死刑一択らしい。うーん、簡単に人の命を奪いすぎのような気もするけれど、向こうもセレスティアさまに弓を引いているから、庇う理由はないのだろう。


 「ああ。どうにも情報が錯綜しているようで、好き勝手に解釈する連中が表れたんだ。で、先ほどのパフォーマンスだな」


 そういえば銀髪くんが犯した罪を陛下が丁寧に解説していたなあ。あとどれだけの被害が出てどれだけの公金が消えていったかも。

 なるほどなあ。理解していない銀髪くんを諭すフリをして、正しく理解できていない国内のお貴族さま向けの解説でもあったらしい。

 

 辺境伯領で被害があったから周辺領だけでなく、辺境伯領と国境を面している国にも被害があった可能性もある。

 私の想像に過ぎないけれど、冒険者の銀髪くんたちが不法入国していたので、アルバトロス王国にもこうなってしまった理由の一端があるだろうから、突かれると痛い部分になるのかなあ。銀髪くんが勝手に入国していなきゃ起こらなかった可能性もあるのだから。上手く誤魔化すか、正当な理由がないと周辺国から付け込まれることにもなる。


 ようするに感情に任せて先走るなと、釘を刺したようだ。


 「これで勝手な行動に出れば、無能を捌く理由にもなりえる」


 「ええ。国に迷惑を掛けるしかない貴族なんて必要ありませんものね」


 アルバトロス王国よりも他国は冒険者を重宝していると聞くから、冒険者の性格や素行は余り加味されていないのだろう。強さ=ランクなのか。

 うーん。どんだけ世紀末列伝なんだろう、他国って。あんなのが沢山居る可能性もあるのか。アルバトロス王国に生まれて良かった。

 

 ただ、どんだけ世紀末伝説であってもルールがある。ギルドも問題を起こした銀髪くんを処罰したいだろうし、アルバトロス王国だけの問題で済まない。確か、銀髪くんを捕まえる為にギルドから精鋭パーティーが派遣されて、直ぐに捕まえたと聞いたし。


 「まあ、兎にも角にも亜人連合へ向かうことが一番優先すべきことだな。どこの国もギルドも、彼の国との戦争は避けたいだろう」


 「ええ。竜騎兵を用意できる国なんて大陸では亜人連合しか存在していませんもの。……大役ですわよ、ナイ」


 空中戦となれば遠距離攻撃を行える魔術師が重宝されるけれど、上空を飛んでいる騎兵を撃ち落とすのは難しいそうだ。魔術も高度な技術を要するし、魔力消費も多いから直ぐにガス欠になる魔術師が殆ど。


 「ああ。私たちの――アルバトロス王国の命運が掛かっているんだ。任せたぞ」


 「私はお飾りですよ。卵を届けるのが役目で政治面は補佐に就く方の仕事でしょうし……」


 やることなんて殆どない。あとは笑って接待してればいいんじゃないのかなあ、多分。


 「……お前は」


 「……」


 ソフィーアさまがあからさまな呆れ顔を浮かべ、セレスティアさまが鉄扇を広げて口元を隠して無言だけれど、目が笑っていない。


 そんなに不味いことを言ったかなあ。お飾りなのは周知の事実だし、政の教育は受けていないのだから無理があるし。本当に軽い神輿でしかない、私なんて。

 一応空き時間には亜人連合について記されている本を読んだけれど、いまいち掴みどころがない。閉鎖的な国だと聞いているし、人間が訪れることはまずない場所。卵を無事に返して、竜の浄化儀式を果たしたことを伝えることが、私が背負うべきモノだろう。

 

 「まあ、いい。戻ろう。――明日には出発なんだ、ちゃんと寝て休めよ」


 なんだか遠足に行く前の小学生みたいな扱いであった。

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