第148話:御前。

 そうしてパーティーメンバーが双子に一斉に襲い掛かる。近接攻撃には疎い二人だ。俺が引けという命令を出す前に捕まった。


 「え?」


 「なっ! 魔力が……」


 双子の奴隷が脱力し地面へと膝を突く。何をした。腕輪のようなものを身に着けさせてから、双子に変化があったように思える。


 「この国の魔術師団所属の方が譲ってくれたんだ、魔力封じにって」


 あっさりと二人はパーティーメンバーに捕縛され、残りは俺だけになる。


 「何故、アルバトロス王国の魔術師の話が出てくる!」


 「ああ、それは――」


 どうやらアイツらは、入国後に王城へと赴き陛下への謁見を願ったそうだ。冒険者ギルド本部から派遣されたお偉方と一緒に。アルバトロス王との面会は叶わなかったが、第一王子とは話が出来、土下座を全員したようだ。

 同じ冒険者として迷惑を掛けたと頭を下げたこと、生け捕りを約束するのでなるべくギルドに厳しい処分を下さないで欲しいと願うと、返事はされなかったがアルバトロス王には話を通しておくと確約された。


 その時に一緒に居た魔術師団副団長から魔術具を借り受ける。

 必ず生きて連れてこいという意思表示なのだろう、と。


 「本当は強大すぎる聖女さまの魔力を制限する為のものらしいけれど。こんな魔術具を作ることが出来る国に喧嘩を売ったこと、ちゃんと反省するんだよ」


 そう言ってヤツは俺へと向かってくる。癖で大剣を手に取ろうとしたが、そうだった回収し損ねていたのだった。


 「なっ! お前……!」


 仕方なく未だに使い慣れていない両刃の剣を抜き、優男が抜いた剣と鍔迫り合いとなる。こいつ……中、遠距離担当じゃあないのかよ。聞いてねえぞ。


 「僕も前衛を務められる。――君が居たから、そうする必要がなかっただけ」


 火花を時折散らしながら腕に力を込めてぐっと俺に詰め寄る優男。そしてふっと力を抜き右側へと流され、たたらを踏む俺。

 

 「ふっざけんなぁぁあああ!!」

 

 何度も剣戟を繰り出すが、軽くあしらわれて往なす。なんだ、これは。俺と優男にこんなに力量差があるのか、信じられない。

 

 「悪いね。これ以上暴れられてギルドの印象を悪くしたくないんだ。今回は君をAランクに任命したギルドにも責任があるけれど……」


 アルバトロス王と亜人連合がどう考えるか次第だろうね、と俺の耳元でささやく優男。


 「――ぐっ!!」


 腹に重い一撃をくらって俺の意識が刈り取られた。


 「――……ここは。どこだ……」


 石畳に右頬を付けて倒れていた。明かりは少なく、天井上の採光用の隙間から微かに漏れているだけ。石畳から顔を上げて体を起こして、きょろきょろと周りを見渡す。

 周囲三方は壁、残りの一方は鉄格子がはめ込まれている。完全に牢屋じゃないか。クソ、なんで俺がこんな目に合わなきゃならない。万事順調だったはずなのに、どこから狂い始めた……。いや、まて実力はあるのだから、脱走くらい可能だろう。

 

 着ていた装備は剥かれているな。


 「出ろ、政治犯め……!」


 ぞろぞろと騎士の恰好をした連中が十五人程度やってきた。木製の手錠を嵌められ装備も何も着けていない男一人相手に、随分と仰々しいな。この国の騎士は腑抜けなのだろう。

 数人掛かりで無理矢理に押さえつけられながら、立ち上るように促される。城のような建物の中を進み、とある場所へと辿り着く。一段高い場所には豪華な椅子が一脚座しており、席は空。ステージ下の横には沢山の人間の姿が。あの優男とSランクパーティーメンバーの姿もある。

 そして、黒髪のチビ餓鬼に特徴的な巻髪の女、俺に確認を取っていた女と赤髪の双子に、巻髪を庇った男。あの魔力量が多い銀髪のスカシ野郎もいた。どいつもこいつも良い服を着て、俺に厳しい視線を向けている。


 ――陛下、ご入来!


 そんな声が聞こえてステージ横の入り口から、随分と贅沢な衣装を着込んだ中年男が表れた。そうしてステージ真ん中に置かれている椅子へと腰を掛ける。

 

 「さて、よくもまあお主一人で……いや三人か。ここまで仕出かしてくれたものだよ」


 はあと大げさにため息を吐くアルバトロス王(仮)は俺に射抜くような視線を向ける。なんでそんな目で見る。人を蔑み馬鹿にしたような目だ。


 「はっ!」


 目の前の男に鼻を鳴らす。


 「ぐっ! ――痛てえなっ! なにしやがる!」


 傍に居る騎士が俺の頬を何の遠慮もなく打ち抜いた。手甲の所為で、頬が切れ血が滲む。


 「手荒な真似をするな。ソレと同類にはなりたくなかろう。――さて皆の者、こ奴の処分についてだが本来ならば見せしめに斬首が妥当であろう。だが、殺してはならん」


 男のその声で周囲が騒ぎ始めるめ『甘い』『温い』『慈悲など必要ない』『陛下はなにを考えておられる』……言いたい放題だ。どうやら此処にいる連中は俺を殺したくて仕方ないらしい。


「亜人連合と我々アルバトロス王国の決め事は違うやもしれぬ。勝手に処罰を下し、彼らの掟よりも温いものならば我々が亜人連合から糾弾される可能性もあろう」


 逆もまた然りだ、とアルバトロス王。


 「だからこそ急ぎ彼の国との接触を図っておる。冒険者が我々の要望に応え、生きて捕まえたのだ。魔力封じの魔術具も付けられておる。逃げられるはずもない」


 人の行く末を勝手に決めるな。俺は俺の生き様に従って生きているのだ。抑圧されていた前世から解放されて、清々していたというのに。黙って聞いてりゃあ好き勝手、抜かしやがる。


 「うるせえよっ! 俺の命をてめえが勝手に決めるんじゃねえっ!」


 「貴様、いい加減にっ!」


 俺の傍に居た騎士の一人が激高するが、意味が分からない。キレたいのは俺の方で、公僕に過ぎない騎士が、何故そんなに怒るんだ。


 「よい」


 「しかし、陛下っ!」


 「よいと言うておる」


 「……はい」


 「小僧。――貴様が犯した罪を数えられているのか?」


 討伐依頼の出ていないドラゴンを倒したこと、あまつさえそれを放置し瘴気を孕むようになった責任。

 瘴気に当てられて狂化した魔物が旅人や村に街へと及ぼした被害。討伐に向かった騎士や軍人が被ったもの。フェンリルに怪我を負わせて錯乱させ、王都近郊の森へ野外訓練へと出ていた学院の生徒が襲われ、その中には貴族に王族が居たこと。

 

 そしてドラゴンの瘴気を払うため大規模遠征を行わざるを得なかったこと。その時に聖女と貴族の子女たちへ暴言を吐き手をだし怪我を負わせたこと。勝手にアルバトロス王国へと入ったこと。

 

 「我が国は冒険者を重宝していない故、理解に乏しい所があるがこれだけは言えよう」


 間をおいて、告げられる。


 「お前が犯した罪は、自身では既に償えぬ領域に達しておる。先も申したが、我が国だけでは判断が出来ん。冒険者ギルド本部に周辺国も巻き込むであろう」


 ――どう責任を取る?


 取れるかよ、そんなもの。どうやれば良いのかさえ思いつかない。しんと静まるデカい部屋で俺は黙り込むしかないのだった。

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