第137話:謁見場控室。
辺境伯領の端から辺境伯領領都へと転移して、さらにソコから王都のハイゼンベルク公爵邸、王城へ。
本来ならば十日以上掛けて移動する距離を、一時間も掛かっていないのではないだろうか。魔術って凄いとなあと遠い目になりながら、謁見場控室で副団長さまとジークとリンに私の四人で国王陛下がこちらへと来るのを待っていた。
ふいに謁見場控室の扉が開くと、偉丈夫な年配の男性と若い女性の姿が。誰でもない、公爵さまとソフィーアさまだ。随分とこちらへと来るのが早いのだけれど、公爵家というと小さな国位の力はあるはずだから、転移魔術を使える魔術師を抱えていても不思議ではないなと一人で納得。
「またお前さんは、妙なことを引き起こしおって。ソフィーアから聞いたぞ」
公爵さまの後ろで控えているソフィーアさまが苦笑いをしている。そんなに変なことはしてないつもりなのだけれども。
とりあえず椅子から立ち上がりやってきた公爵さまとソフィーアさまに黙礼をすると、彼が手で制した。そう堅くなる必要はないらしい。
「……好きで起こしている訳ではありませんよ、閣下。それよりも貴族のご令嬢方に暴言を吐いた冒険者を早く捕まえないと」
「それは勿論だ。阿呆の始末は早々に済まさねばな」
国や公爵家、辺境伯家に泥を塗ったのだ容赦はせん、とは公爵さま。突然の高位のお貴族さまの登場に副団長さまが立ち上がり礼を執る。
「会うのは初めてだなあ、ヴァレンシュタイン卿。楽にしてもらって結構だ。――ナイの魔術具作成、感謝する」
「あ……」
公爵さまを見ていた視線が真ん中から左へと移って、部屋の隅を見つめる。やばい、忘れてた。感情に任せてなけなしの魔力を暴発しちゃったから、魔術具に皹が入ったのを完全に忘れてた。
「お初に御目にかかります、ハイゼンベルク公爵閣下。依頼料と制作料はきちんと頂いておりますので、問題はありません――聖女さまどうなさいました?」
どうしてソコで私に話題を振るのかなあ、副団長さまは。でもいずれはバレてしまうので遅いか早いかだけの違い。腹を括ろう。
「閣下、副団長さま」
「ん」
「おや」
「お二人から頂いたご厚意の品を私の未熟さで壊してしまいました。誠に申し訳ございません」
直角九十度の立礼をするのだった。だって誠意を見せる方法がこれしかないんだもの。魔術具作成費用なんて払うと日々の生活に困ることになるし、価値のない頭を下げるしか方法はない。
「また魔術具を壊しおったのか……」
大げさにため息を吐く公爵さまに、面白そうな顔を見せた副団長さま。
「聖女さま、一体どのタイミングで? 浄化儀式でほとんどの魔力を消費していたはずですが……」
「黒づくめの銀髪冒険者がリンに暴言を吐いた時です」
魔力量が万全だったら、魔術具はすぐに壊れていたのかも知れない。
「ああ、あの時に。魔術具の所為で聖女さまの魔力を殆ど感じられませんでしたから、気付きませんでした。しかし、よく皹を入れることが出来ましたねえ、逆に感心いたします」
「お前さんは……ヴァレンシュタイン卿、申し訳ないがまた制作を頼めるか?」
はあと深いため息を一つ零して、公爵さまが副団長さまを見た。
「はい、勿論でございますとも閣下。この問題が終わり次第、取り掛かりましょう」
済まないな、いえいえそれほどの手間ではありませんのでと二人がやり取りをしていると、ソフィーアさまがこちらにやって来る。
「随分と無茶をしたようだが、大丈夫なのか?」
「はい。――まだ全快という訳ではありませんが、魔術を使うこと自体は可能ですから」
魔力が少しづつ回復しているのは感じている。少し休みを取りたい所だけれど、そうも言っていられない状況なのは理解しているし。
「そういう問題ではない。無茶をしてまた鼻血を出すような事態に陥るなと言っている」
呆れつつも心配はしてくれているようだ。眉間に皺が寄っているし、ソフィーアさまにしては珍しい表情。でもなあ……無茶をする時は必ず訪れるだろうし、鼻血くらいで済むなら安いもの。
「ジークフリートとジークリンデがお前を大事にしている理由が分かった気がするよ。――苦労をしているな、黒髪聖女の双璧は」
そう言ってジークとリンの方へと向き苦笑いを浮かべるソフィーアさまに『ええ、とても』と答えるジークに、口には出さないけれど『もっと言って』と顔に出ているリンを見て微妙な顔になる。
でも二人は苦労を確実にしている。
討伐遠征に招集される回数は他の聖女さまと比較すると多いし、お貴族さまからのやっかみやら、男爵家の籍へと入ったことでジークは女性陣から狙われるようになっているし、リンも平民上がりの男性騎士からすれば良物件。
二人に結婚する気があるのならば全力で応援するけれど、今はまだ考えていないようだし、王国の適齢期は十八歳から二十歳前後なので、あと数年は先。
「皆さま、準備が整いました。謁見場へご案内いたします」
近衛騎士二名が部屋に入って来て、私たちを謁見場へと案内するのだった。
――さて、どうなるか。
この件を国王陛下は一体どう捉えて、冒険者ギルドや周辺国に手を回すのか。そして、一連の案件を引き起こし張本人たちにどう対応するのだろう、と足を進めるのだった。
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