第48話:日常再開。
公爵家に呼び出されてから二日後。
本来、二泊三日の合同訓練を終えた後はお休み。森から王都の学院へと戻った際には、教諭たちから予定通りに今日から授業を行うと通知されていた。
怪我人とかいるというのに進学校みたいなものだから、この処置は仕方ないのか。用意した通学用の乗合馬車に指定の時間に乗り込んで、暫く揺られてようやく目的の場所まで辿り着く。学院の大きな門扉まではすぐそこで、馬車から降りてくるお貴族さまたちが使用人に見送られながら門へと入っていく。
――視線が刺さるなあ。
とくに一年生から。身に纏う制服はみんな同じではあるが、ネクタイの色で学年が分かるようになっている。
「聖女さまだ……」
「……聖女さま」
お貴族さまが多く通う学校だから、あとから保護者の人から苦情がでないよう、となるべく治癒魔術を施したのが裏目に出たのだろうか。
魔獣を倒したことも、何故か曲解されて広まっているような気がするし、噂の流れ方が異様で尾ひれがつきまくっている。二年生や三年生にも噂が広がるのは時間の問題だろうなあと考えていると、この一ヶ月間一緒に並んで歩いている二人が両隣に居ない。
「なんで下がって歩くの二人とも……」
立ち止まり後ろを振り返る。
「立場があるだろう」
「ごめんね」
しれっとした顔で言い放つジークと耳を垂れてしゅんとしている犬のような雰囲気のリン。二人とも四日前までは普通に隣で歩いていたじゃないかと、不貞腐れる。
「聖女と露見したんだ、諦めろ」
理解はしているけれども、納得がいかないというかなんというか。二人とは主従関係ではないけれど、公の場に出るとどうしてもそうなってしまう。はあとため息を吐いて、前を見て歩き始める。耳に届く声は相変わらず『聖女さま』というものと『あれが?』という上級生たちの疑問の声。
聖女の役に就いている人の特徴は美人が多いし、スタイル抜群のばんきゅっぼんである。一説には豊富な魔力量が身長や胸の生育を促すのではと噂されていたりするが、絶対嘘である。だったら私はこんなにチビではないはずだ。
畜生と毒づきながら途中で二人と別れ、特進科の教室へと入る。少し早い所為かまだ生徒の数がまばらで、席が埋まっていない。ヒロインちゃんは無事に解放されたのだろうかと、意識を巡らせていると教諭がやって来たのだった。
「よーし、訓練では散々な目にあったが、みんな怪我もなく無事で戻ってきた。しっかり授業を受けろよ~」
担任教諭がそんな声を上げながら一日が始まったのだけれど、教室のど真ん中の二席は空のまま。ヒロインちゃんは解放されていないし、第二王子殿下はソレについて騎士団に抗議をしている最中なのだろう。
他の側近くんたちは登校しているけれど、いつものイケメンオーラが萎れている。んー、ヒロインという太陽がいないから仕方ないのかもしれないが、あからさま過ぎて少々哀れというか……なんというか。
ソフィーアさまとセレスティアさまは普段通りである。ぴしりと背を伸ばして机に向かっている。
他の人も概ねいつも通り。――というか問題児のヒロインちゃんが居ないから、教室は平和という皮肉っぷり。関係者は萎れているけれどね。
ヒロインちゃんは牢屋に捕らえられたまま一生そこで過ごすのか、それとも解放されて自由を得るのか。
彼女次第かなと苦笑いをしていたら、授業開始の鐘が鳴るのだった。
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