第47話:関知したくないかも。
公爵さまの言葉でしずしずとこちらへとやって来る彼女。
「はい、お爺さま。――昨日ぶりだ、ナイ。体調は大丈夫か?」
突然のソフィーアさまの登場に驚きつつ、立ち上がり礼をする。簡素なドレスに身を包んでいるけれど、生地はかなり高級品で流石は公爵家令嬢といったところ。
「お陰さまで」
何を以て彼女を公爵さまが呼んだのかが読めないので、最低限の会話にとどめると苦笑いをしている二人。
「そう勘ぐるな、裏などない。ただ単純に知り合いだと聞いていたから会わせただけだ」
「ああ。昨日の様子が気になっていたからお前が来ると聞いてお爺さまに頼んだだけだ」
この流れで彼女を呼ぶのは、何かあるとしか思えないんだけれども。だって第二王子殿下の婚約者さまだし、後ろ盾になろうとしている公爵家だって何か思惑があるのだろうし。
「そうですか……」
「ナイ、子鼠をどう思う」
「本心を言ってしまえば、殿下方に取り入っているのは自由にすればいいかと。――その代償をその身で払うのは彼女自身ですから。ただ――」
殿下とソフィーアさまがどういう関係を築いているかも知らないし、ソフィーアさまはヒロインちゃんの存在を認めている節がある。
ヒロインちゃんが愛妾で収まり正妃の座とその誇りを損なわないならば文句は言わなさそうだし、彼女。
「ただ?」
一旦言葉を区切った私に公爵さまが次を促す。
「ジークやリンを困らせるようなことになるのならば、私は彼女を許すことはできません」
もし彼女が殿下たちを頼ってジークやリンを困らせるようなことになるのならば、私は黙っていられない。知らない間に接触を図っていたようだし、一体どういうつもりなのか。内包する魔力が外へと流れ出ると同時に髪がぶわりと逆毛立つ。
「おい、魔力を暴走させるな」
「ああ、すみません。甘くなってしまいました」
ソフィーアさまの言葉で、魔力をどうにか抑える。二人や周囲の護衛の人や侍従の人たちは少々面を喰らったようだけれど。公爵さまとソフィーアさまの状況把握は的確で、直ぐに落ち着いていた。
「丁度いい、二つ目だ。――壊れたものよりいい魔術具を作ってもらう。ただし依頼する先は件の魔術馬鹿だ。覚悟が必要になる」
私が彼と既知だと知っているから、ああいう言い回しなのだろう。ただあの人と再会するのは少々気が重い。
「……閣下は私を戦略兵器にでも仕立て上げるつもりですか?」
本来ならば口答えになってしまうが、つい出てしまった。付き合いはそれなりなので咎められることはないだろうけれど。
「それは流石に……いや、うむ。すまん……」
ジト目で公爵さまを見つめること暫く、先に折れたのは公爵さまだった。多分、魔術師団副団長さまの性格を把握しているに違いないのだ。
魔術の事に関してはどこまでも純粋に追い求めていくタイプである。おそらく私が彼の下へといけば、魔術のイロハから始まって上級魔術以上のモノを習得させられそうな気がするのだ。
「しかし魔術具がないのは問題ではないのか? 先程のように感情に流されて魔力を暴走させるのはあまりよろしくないと聞く」
ソフィーアさまが公爵さまを見かねたのか、黙った公爵さまの後にそう告げて。
「ああ、それに関しては事実だな。暴走させて死んだ人間がいたと随分と昔の文献に残っていたからな。いずれにせよ、急いだほうが良いだろう」
「しかしどうするのです、お爺さま」
「依頼だけだせばいいだろう。お前さんにアレが興味を持っているのならば好都合だ」
確かに公爵さまから頂いた魔術具の制作者には会ったことがないので、会って話をして作るというのは特殊な場合らしい。ただ、その後が怖いなあと広く晴れ渡る青空を見上げて現実逃避を決め込む。
「――戻ってこい」
「……はい」
直ぐに呼び戻されてしまった。悲しい。
「話を元に戻す。――ソフィーア、殿下との婚約を続ける気はあるのか?」
「正直、迷っています。お爺さまの言う子鼠を殿下が飼うのは構いませんが、側近まで熱を入れている始末です」
肉体関係を持って誰の子か分からないなんて洒落にならないものね。愛妾にするのは構わないけれど、厄介ごとのネタを増やされるわけにはいかないし。
「ふむ。ならばどうするのが最善かね?」
「殿下を諫めてはおりましたが、改善される傾向がありません。自身の力不足は否めませんが、愛妾に据えるとも聞き及びません……ですが今回の件で女は騎士団に拘束されましたが」
「子鼠がどうなるかは殿下次第であろうし、陛下次第でもあろうよ」
ということは解放される可能性があるのか。ヒロインちゃんを解放するとダシにして殿下と取引を持ち掛ければ、今の行動が改められる可能性も出てくるし、頭のいい人ならもっといい考えがあるのかもしれない。
「第二王子殿下妃の席は魅力的ではありましたが、現状を考えればその価値は下がる一方かと」
「側室腹で少々甘やかされて育ったお方だ。母親も母親で覚悟の足りん方だからな」
本人の資質もあるのだろうけれど育て方にも問題があった模様。お二人とも私の前で王族をこき下ろしてるけれど、良いのだろうか。最初の挨拶の時の話はどこにいってしまったのか、政治の話に私を巻き込まないでくださいな。
多分、何か理由があるのだろうなあと、遠い目になりながら暫くこの話に付き合わされるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます