第49話:ちょっとした変化。

 ――昼休み。


 久方ぶりに穏やかな時間が流れていた。食堂で昼食を済ませ図書棟から借りてきた本をいつもの定位置、ようするに中庭の隅っこで三人一緒に本を読んでいる。

 ぽかぽか陽気で気持ちいいし寝てしまいそうだけれど、寝たら確実に授業に遅刻する。頑張って目を開けておかないとなあと本に視線を落としていると、影が差した。


 「おい」


 立っていたのは、騎士団長子息の赤髪くんに魔術師団長子息の青髪くんだった。


 「はい」


 「アンタたちと話がある、いいか?」


 あんた"たち"というのだから三人一緒なのかと、横に居た二人に視線を投げてどうすると聞いてみると、どうやら大丈夫らしい。


 「わかりました」


 立ち上がろうとすると赤髪くんがどっかりと芝生の上に座り、青髪くんがゆっくりと腰を下ろして対面する羽目になったのだった。彼らが芝生の上に座っているのだから、このままだといけないので私は正座になる。ジークとリンも居住まいを正して彼らに向かう。


 「あーその、なんだ……。一昨日は助かった」


 「ありがとうございます。貴女たちがいなければ、魔獣は倒せなかったでしょう」


 その言葉にきょとんと三人で顔を合わせる。一体なにが起こったというのだろうか、若干むず痒さを感じながら言葉を口にした。


 「いえ、聖女としての務めを果たしたまでです。――どうかお気になさらず」


 倒したのは魔術師団副団長さまなので、私はその補助というかあまりにも高すぎる火力に周囲に被害が出ないようにと障壁を張っていただけだし。

 それに私的にはいつものように仕事をこなしただけである。どうやら臨時ボーナスもでるらしいので、危ない目にはあったけれどこれからの生活費を手に入れられたので文句はない。

 

 「アンタは俺たちのことが嫌いじゃないのか?」


 「何故そう思うのですか?」


 「その……アリスのことで突っかかっちまったからな。だから助けてはくれないだろうと考えていた」


 「ええ、そうですね」


 「それとこれとは分けて考えるべきかと」


 私情で見捨てたら怒られるのは私だし。しかも高位貴族のお坊ちゃんたちである。恋愛にうつつを抜かしているとしても将来は国を背負って立たなきゃいけない人だし。

 それにあのくらいで彼らを嫌いにはならない。呆れるくらいである。それに運が良かったのかソフィーアさまが割って入ってくれたし。不良の脅しとかヤクザの恐喝より怖くなかったしなあ。前世での経験もそれなりにヤバいことがあったよなあと、遠い目になる。アハハ。


 「まあ、アリスのことに関しては謝るつもりはないが……」


 ないんかーーいと心の中で突っ込みを入れてしまった。いや、いいけれどそろそろあの状況が不味いと自覚しよう。赤髪くんは伯爵家嫡子で婚約者はセレスティアさまなんだし、気付かないとあの人そろそろ切れるぞ。

 

 「とにかく、だ! すまなかった、ありがとう」


 そういって頭を下げる赤髪くんと青髪くんのつむじを見つつ、おかしなこともあるものだと首を傾げたのだった。


 まあお礼を言えるだけ素直なのか、な?

 

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