第33話:前兆。

 目が覚めて、起き上がる。


 「腰、痛い」


 寝床があるだけマシだけれど、痛いものは痛いのであった。欠伸をしながら手を上に伸ばし、固まった筋をほぐしてから立ち上がる。どうやらジークとリンはすでに起きているようで、寝床には誰も居ない。ぼさぼさになっている髪を手櫛で治しながら、外に出た。


 「おはよう」


 「ああ、おはようナイ」


 「ナイ、おはよう」


 「……ごめん、遅くなった」


 陽が昇ると同時に活動を始めるのが王国の民では基本だ。夜に煌々と明かりを灯せるのはお金持ちや貴族の特権であり、それ以外の人間はなるべく暗くなる前に一日に行うべき仕事を済ませてしまう。

 平民に子供がぽんぽん産まれて大家族になってしまう原因はこの辺りだろう。ヤることないものね、そりゃそっちに流れる。とはいえ赤子の生存率が低いので人口が爆発的に増えたりすることは稀だし、農村部では労働力入手の為に増やすという理由もある。


 既に作業を開始していた二人は小脇に燃料にする薪を拾ってきたようだった。一度火を消してしまうともう一度熾すのは手間なので、夜番の間絶やさずにいたのだろう。軍や騎士の人たちも周囲を警戒しつつ、自分たちの食事にありつくようだった。


 「朝ご飯どうしよう?」


 薪拾いは二人が終わらせていたのだから食事くらいは私が用意すべきだろう。といってもいろいろと制限があるので、美味しいものはなかなか作れないけれども。


 「昨日ウロウロしてた時に採ったものでいいんじゃないか?」


 「うん」


 二人の言葉にこくりと頷いて、袋を取り出す。昨日に木の実や果物を採っておいたから、それで済ませてしまおうということだ。

 何か他にも食べたいところだけれど……なにもなかった。干し肉とか作れたら良かったけれど、道具もないしそもそも時期があまりよろしくなかった。諦めるかと、ナイフを手に取り果物を切り分けていき、簡単に朝食を済ませた。


 二日目となると一日目の疲れが出ているのか能動的な人は少なく、貴族の人たちは動くことを躊躇っている。

 動けば喉も乾くしお腹が空くと学んだのだろう。あと一泊あるのだけれどこんな調子で大丈夫なのだろうか。安全は確保されているので死にはしないかと一人納得して、二日目は何をするのだろうか。


 特に指定はされていないし、各々自由に過ごしているようだ。それなら私も適当に過ごせばいいかなと、とりあえずお手洗いを済ませようと茂みの中へと足を運ぶ途中だった。


 「また、狼か?」


 「ああ。よく出るな……それに小物ばかりだが魔物を処理する回数が昨日より増えていると聞いた」


 狼の死骸を前にしながら軍の人たちがそんな言葉を漏らしていたのだった。


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