魔装騎士メイディ×リリィ

いち亀

寝ても覚めても君に夢Chu☆

 平和な街に突如として現れた、時空の裂け目。

 そこから大挙として降り立った鋼鉄の悪魔たち――機械生命体ガンベイド。


 ガンベイドたちは未知の兵器を操り、飛び回りながら街を壊しては、人々を生け捕りにしようと襲いかかってきた。

 突然の侵略者に誰もが混乱し絶望した、その同時刻。


「――はじまったね」

「すぐに行こう」


 郊外では、二人の女子高校生、詩葉うたは陽向ひなたが行動を開始した。

 二人は学校の屋上へ駆け上がり、人目がないことを確かめる。これまで別世界で何度も訓練してきた、いよいよ地球での初実戦である。


「リングよし、」

 異世界の天使から託された、お揃いで色違いの指輪をはめる。

誓いますオース!


 指輪を向け合いながら唱える。詩葉の水色の、陽向の真紅の魔宝石マジュエルが輝きはじめ、天使が囁く。

〈Girls, let's Chu-ning〉


 二人は迷いなく応じる。指輪をはめた手を重ね合わせながら、キス。

 唇を通して二人の愛と勇気が響き合う。授けられた、聖なる戦士の力を呼び覚ます――テレポート・チューン。


〈Holy Knights, diving time!〉


 直後、二人の姿が光に包まれてかき消える。



 次の瞬間、二人はガンベイドに襲われた街の遥か上空へワープしていた。


「うっわ、たっか!!」

 詩葉は悲鳴を上げつつも、陽向にしがみつく。

「しかも寒いし! ・・・・・・けど変身すれば平気なはず、」

 二人は自由落下しながら、息を合わせる。


「「Listen to our music of jusitice」」

 綺麗なハーモニーで唱えられた呪文、そしてキス――アーマード・チューン。


 空中で二人の身につけた学生服が変化していく。ぴったりと肌を覆う繊維、その上を守る堅固な甲冑。風に艶やかになびくマントと、きらめくティアラ。陽向の紅と詩葉の蒼、フォルムは同じだがカラーリングは正反対だ。

 

 変身すると、あらゆる能力が格段に強化される。魔力で引き上げられた視覚で、二人は地上を探る。

「ヒナ、あの公園!」

「確認、」

「助けるから、」

「ぶっ飛ばす!」


 二人が目指す先の公園では、幼い姉弟がガンベイドたちに取り囲まれていた。泣き叫ぶ弟を抱きしめつつ、姉は叫ぶ。

「助けて!!」


 その瞬間、詩葉リリィは植物属性の魔法を発動。

「――おいで!」

 周囲の地面から木を生やし、姉弟を空中へ打ち上げ、抱きかかえる。


装填ロード、」

 同時に陽向メイディは無数の砲門を召喚。

捕捉ロックオン――発射ゴー

 獲物を見失って焦るガンベイドたちへ、狂いなく砲弾を叩きこんだ。


 爆炎を背に、二人は道路に着地。

「ありがとう、おねえ――」

「じゃあね!」

 会話もそこそこに、リリィは姉弟を避難所へと転移させる。心苦しいが、時間が惜しい。


「次、」

「あっちの交差点」


 ビルからビルへと飛び移り、ガンベイドの隊列の中心へと飛び込む。

「――、――!?」

 突然の侵入者へと叫ぶガンベイドへ、リリィは名乗りを上げる。


「魔装騎士メイディ×リリィ、」


「!!」

 リリィへ襲いかかろうとした一体を、メイディが撃ち抜く。

「これより正義を開演します――詩葉に近寄るな殺すぞ!!」


 怒鳴ったメイディは周囲を見渡してから、小声で付け足す。

「いや、どっちにしろ殺すんだけど」


「!!!」

 ガンベイドはすぐに陣形を組み替えるが、リリィが次々と生やした木に阻まれる。混乱するガンベイドたちを、二人は瞬く間に斬り伏せていく。地球人にとっては未知の金属装甲だが、メイディ×リリィの光の刃シャイニー・ソードには容易く切り裂かれる。お互いの死角を補う完璧なコンビネーションは、ガンベイドたちの反撃を寄せ付けない。


「リリィ、後は任せて!」

 魔力のリチャージを終えたメイディが叫ぶ。

「了解、お先!」

 

 リリィは空中へ舞い上がり、見晴らしのよいビルの屋上に陣取る。

「みんな、お願い――レスキュー・プランツ!」

 植物の精霊が街じゅうに散らばり、避難する人々を守るように枝や蔓が生える。それらは周囲のガンベイドを追い払いながら、市民を集めていく。一通り集合させたところで、リリィは再び転移魔法を発動。転移先に警察や消防が展開しているのも確認済みだ。


 一方のメイディは。

「マスター・オブ・ダスター、」

 ガンベイドの攻撃をかわしつつ、両腕に巨大なショットガンを装備。

「はいお掃除!!」

 散弾と爆炎のコンボで、残ったガンベイドを粉砕していく。空間ごと押しつぶす圧倒的な威力に、ガンベイドたちは為すすべもなかった。


 市民の避難とガンベイドの掃討が終わったところで。

「!? ――、――!!」

 

 時空の裂け目から現れたのは、敵の総大将と思しき鋼の怪獣、ギガンベイダー。

 

「来たね――リリィ大丈夫?」

「平気! 一気に終わらせるよ、メイディ!」


 二人は再び、向き合って唱える。

「「Welcome to the climax justice」」

 清らかな和音、そしてキス――クライマックス・チューン。二人はオーラを纏いギガンベイダーの前に立ち塞がる。


 まずはリリィ。

「そこでじっとしてなさい――フローラル・ジャム!」


 ギガンベイドを囲むように、巨大な花のアーチが現れる。その花々から無数の粒子が放たれ、ギガンベイドを包む――どんな生命体、あるいは非生命にも拒否反応を起こさせる魔法の粒子、いわば強制花粉症状態だ。


「!!!!!!!!!!!!」


 ギガンベイドの謎の叫びは、恐らく「かゆい」と言っているらしかった。崩れ落ちて隙を晒したギガンベイドへ、二人はとどめの一撃を放つ。


「やっちゃえ、ヒナちゃん」

 リリィがメイディへ、残りの魔力を注ぎ込む。

「ありがと、これで万人力」

 メイディは巨大な砲台を召喚し、ギガンベイドへ狙いを定める。


 そして二人の美しいハーモニーで、究極魔法が発動する。

「「ファイナル・ファイア・フォルテシモ!!」」


 放たれた熱線は、ギガンベイドの巨体を跡形もなく焼き尽くし――二人はその場から飛び立つと、上空で勝利のキスを贈りあった。









「っていう夢をみました・・・・・・」

「うん、えっと、うん」



 恋人の陽向が電話で語ってくれた夢の話を反芻しつつ、詩葉は言葉を探す。


 突っ込みたいポイントは無数にあった。

 魔法少女らしい雰囲気なのに戦い方がえぐかったし。

 なんなら陽向は重火器で暴れていたし。

 詩葉は植物に詳しくもないし。柊詩葉って名前は植物感ありありだけど。

 やたらハモっていたし。

 敵がやたら弱そうだったし・・・・・・いや、私たちが強すぎたのか?


 けど、それよりも。


「あのさヒナちゃん」

「うん」

「・・・・・・そんなに私とキスしたい、ってこと?」


 街の危機で戦いの真っ最中のはずなのに、キスばっかしてたぞ私たち!?


「ああ、アレなんだけどね、魔法を使うためにはキスで二人の回路をつなげる仕様というか」

「真面目に夢を解説しないで!?」

「いやこういうの真面目にやった方がいいかなと」

「そういうの、まれくんだけでいいよ」

「実際アニメであるらしいの、戦いの都合でヒロインとキスするの」

「確かに香永かえとかキヨくんあたりが話してたけど!」

「それで、さっきの質問だけどさ、そりゃチューしたいですよ今だって。詩葉もでしょ?」

「うん、したい、したいけど・・・・・・さすがに戦いながらは違くないかなあ?」

「まあ、すごい隙だからね」

「すごい好き・・・・・・いや隙間の隙ね、うん、いやじゃなくて、」


 その後にこんな言い方をしてしまう辺り、詩葉も手遅れなのだろう。


「ヒナちゃんとチューするときは、何かの都合でとか嫌だもん・・・・・・ヒナちゃんのことしか考えたくないもん」


 受話器越しに聞こえた謎の叫びは、おそらく「かわいい」と言っているらしかった。

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