後編
魔眼は魔法とは違い、見るという肯定のみで術式を成立させる才能だ。
多くは血筋で継いでいくものだが、稀に後天的に得られることもあるという。
おそらくシウトは後者であり、急に魅了の魔眼に目覚めたタイプなのだろう。
「あぅ、はぁあ」
「ん、ああ……♡」
アデリアとセレインが魅了に囚われている。
彼女達の心はシウトのもの。洗脳とは違う、魂の奥底から溢れてくる愛情を二人はシウトに向けていた。
「さあ、おいで。俺の女たち」
「ああ、好き…シウト、愛してるのぉ……」
「尊敬してるのはゼル様なのに、あなたを見ると心が溶けてしまうの、です……」
勝ち誇っているシウトだが、いつまで経っても彼女達は動こうとしない。
その姿に苛立ち怒鳴りつける。
「なにをしている! 俺のところに来いと言っているんだ!」
イケメンくんが地団駄を踏む姿はなかなかに滑稽だ。
くすりと笑えば、怒りの目がこちらに向かう。
「シウトくん、お前は魔眼の使い方をわかっちゃいない」
「なっ?! ……そうか、お前は魔法使い。魅了を防ぎやがったのか」
「は? 何言ってんの?」
的外れな指摘だったので、思いっ切り馬鹿にした目で見る。
「あのね、魔眼って言うのは魔法とはまた違う存在なの。魔法は術式、魔眼は特質。鳥が空を飛ぶように、魚が水を泳ぐように魔眼は発動する。そもそも魔力で発動するもんじゃないから、成立した効果は魔力じゃ防げない」
ただし成立した効果が起こした現象をどうにかすることは可能。
傷を与える魔眼なら、その効果の締結自体を防げなくとも傷は治せる。
魅了自体は防げないが、対応する解呪魔法を使えば正気に戻すことはできるのだ。
もっとも今回は解呪していないけど。
「アデリアもセレインも間違いなく魅了されてるよ。だけどね、魅了の魔眼には弱点がある」
「なん、だと」
「この魔眼はあくまで魅了であって洗脳じゃない。お前に対する愛情を増大させても、思考能力は正常だし、人格は以前のままだから自己判断もできる。ついでに身体機能の変化もない。つまるところ、やばいくらい惚れさせる以上の効果はないんだ」
まあ尋常じゃないくらいの愛情を植え付けるから、他の男に対する態度が悪くなるけど重要なのはそこじゃない。
魅了の魔眼は、異性の愛を容易く奪うことができてしまう。
同時にそれこそが最大の弱点となる。
「いいか、それはつまり! どれだけ陵辱しても心折れず! “心は愛しい人のもの…でもカラダはご主人様のものなのぉ! あぁん嫌なのに感じちゃうぅ!”プレイをずっと楽しめるということだ!」
そう、創作エロでよくみられるアレです。
しかも魅了によって心を奪われているので即オチはあり得ない。どんだけ快楽にまみれても愛は消えない状態を維持できるのだ。
「…………は? え? はぁ?!」
「だからぁ、絶対心は負けないのに、カラダだけ快楽堕ちしちゃう状態を維持できるんだよ? 楽しくない?」
無理矢理やっちゃってるのに絆される子もいるからね、男女問わず。
なんで男が入るかって? 俺は可愛かったら男の子でも問題なくできちゃうタイプです。
「なので俺はまず魅了の魔眼でお前の虜になったセレインを襲った。媚薬を使ったうえで一晩中焦らし続け、アソコも頭もグズグズになるまで弄った後も挿れてあげなかった。その結果!」
「好きなのに、シウト様とかどうでもいいからお願い挿れてください……そう言わされたのです」
頬を染めてセレインが言う。
魅了の効果で彼女は間違いなくシウトに恋をしている。しかし情欲の視線を向けるのは俺である。
「アデリアに関しては、俺と傭兵時代からの付き合いだしカラダの関係もあったのにシウトくんに靡いたからね。そこを責めつつキスと抜かずの四発とかやっちゃった。嫌がるアデリアがナカダシするたびに素直な反応になってくのはよかったなぁ……」
「ええと、あれされるとやっぱり逆らえないよね?」
てへへ、と恥ずかしそうにアデリアがはにかむ。
「つまりこれが魅了の弱点だ。いくら恋愛感情や忠誠心を増大させても、心を裏切るくらいにカラダを調教すれば何の問題もない!」
「ドクズじゃねーか?!」
「違う! 俺はただ……愛しい人の面影を心に抱く一途な女の子が、嫌がりながらも快楽に屈服し熔けていく姿を見たいだけだっ!」
決して女の子にひどいことをしたいわけじゃない。
だいたい導入こそ無理矢理だったが最終的には「ください」っておねだりされてるんだからほぼ和姦です。
「その点、アデリアもセレインも最高だった。シウト様ごめんなさいと言いながら、でも気持ちいんですイッちゃう~なんて理想的な反応だった。ありがとう、シウトくん。君の魔眼のおかげで素晴らしい夜が堪能できたよ」
俺は心からの感謝を満面の笑みで伝える。
ぶっちゃけ今まで雑用してまでこのパーティにしがみついてた理由は寝取りプレイがしたかっただけだ。
うん、涙を浮かべプルプルと震えている姿はちょっとかわいそうかもしれない。
「ゼル様、あまりシウト様をイジメないでほしいのです」
そんな彼をセレインが優しく慰める。
「セレイン……」
「逆に、シウト様も誤解しないでください。ゼル様は大乱交にシウト様も呼ぼうとしていました。それを拒否したのは私なのです」
「えっ? な、なぜ……」
「この心はシウト様のもの……でもこの体はご主人様のものなのです。他の男を受け入れる訳にはいきませんから。それに、乱れた姿を見られるのも……」
セレインは頬を赤く染めている。
この子、意外と照れ屋さんなの。俺の前だけビッチ、最高です。
「ゼルフィルド、きさまぁ! 俺の女たちになんて酷いことを!」
「そもそも魅了の魔眼の方がひどいことじゃないですかね?」
あのね。このパーティの女の子、みんないい子だからね?
いい子は普通、誰かを下げるような物言いする奴を好きにはならないのよ。
なのにクズに強制的に惚れさせられるとか罰ゲームにもほどがあるわ。
「そうです。シウト様、やはり魅了なんてよくありません」
「ユノ……なぜ浮気なんて。お前だけは、俺の力なんか関係なく……」
聖女ってのは始龍に選ばれた存在だ。たぶん魅了の魔眼も効果を発揮しなかった。
だからこそ、シウトにとっては特別な女性だったんだろう。
けれど縋るような目で見つめられユノが戸惑った顔をしている。
そして溜めに溜めて、恥ずかしそうに言った。
「その……プレイ、です」
「意味が、分からない……。プレイって、ただセックスがしたかったてことか……?」
「いえ、そうではなく。分かりやすくいいますと」
~回想~
『ああん、やめてゼルフィっ。私にはシウト様という恋人がぁ』
『へへ、おいおい聖女様。体は嫌がってねぇぜ。ほれ、お前のココはぐちゃぐちゃに濡れてるじゃねえか』
『はぁぁぁん♡ おっきぃ、奥まで届いてるぅ♡』
『どうだ、恋人のモノとどっちがいい』
『彼とは、まだしていませんっ』
『そりゃあかわいそうにっ! こんな良く締まる肉壺をお前の恋人は知らないわけかっ?!』
『は、はいっ♡ これからもさせません♡ 私のカラダはゼルフィだけのものですぅ♡』
『ならたっぷりしてやるぜぇ! ……あ、ちょっとダメ。セレインちゃん、やめて。演技中に俺のお尻の穴舐めるのやめて。ワル男ムーブできなくなる。あっ、舌でほじらないでセレインちゃん?!』
~回想終了~
「……ということです」
昨夜のイベントより抜粋。
つまるところユノちゃんは魅了とか関係なく寝取られプレイをしたかっただけで、最初からシウトくんに恋愛感情を抱いていた訳ではないのだ。
俺と同タイプの変態だね!
「それじゃあ、俺にセックスどころかキスも手を繋ぐのも許してくれなかったのは」
「えーと、プレイを盛り上げるための恋人なので、肉体的接触はあまり……。特段シウト様に好意を持っていた訳ではありませんし」
「聖女なのにクソビッチじゃねーか?!」
「清楚ビッチならぬ聖女ビッチですね」
ふふん、と笑うユノちゃん。
なんでちょっと上手いこと言ったみたいな顔してんの?
「こんな、こんな糞女に騙されていたなんて……!」
「騙したもなにも私から一切アプローチをしていませんが。先に話しかけてきたのは?」
「それは、俺だがっ」
「食事や散歩の誘いは?」
「で、デートのつもりだったんだ! それも、俺の方ばかりだった……」
「というか一緒に行動した際、一度でも私から誘ったことがありましたか?」
「なか、った? だ、だが」
「あなた肉体関係を迫られた際の、私の返答を覚えていますか?」
「……“邪龍討伐という目的がある以上、それはできません。すべてが終わった時に、ね?”」
あっ、そもそも旅が終わったらヤるとも言ってねーわ。
全部シウトくんが一人で盛り上がってただけだわコレ。
「ご理解いただけましたか?」
「そんな、そんなの……俺は……」
「ちなみに昼間にゼルフィにひどい態度をとっていたのもプレイの一環です。その方が夜激しく責めてもらえますから」
「なんで、ゼルフィルドなんかと」
「少なくとも彼は、“なんか”と人を軽んじたりはしません。そもそも私には効かないとはいえ、後天的に得た魅了の魔眼で調子に乗ってる男性に惚れる訳がないではありませんか。ビッチだってちゃんと殿方を選びます」
「ぐ、ああ……」
トドメの一撃にシウトが膝から崩れ落ちた。
「……俺はただ、大切な恋人と肉奴隷に囲まれた穏やかな日々を望んでいただけなのに」
ここに至ってそれを“だけ”と言えるのは正直凄いよね。
とりあえず、こいつ放置しといちゃまずい人間だ。
ということで親指をシウトの右目に突っ込む。
「ひぎゃああああああああああ?!」
「まず魅了の魔眼を潰して、と」
魔眼の効果は大抵大本を潰せば消える。
だから本人を倒すというのが伝統的な解呪手段だけど、俺としては目だけ潰す方が楽でいい。
突っ込んだ親指をグルグル回し、眼球をぐちゃぐちゃに潰し、改めて指を挿入して残骸を引きずり出す。
それを火魔法で燃やせば解呪完了。
「……あ、あれ? 私、なんで」
「ぼんやりしてた頭が、妙にはっきりするのです」
アデリアとセレインが呪縛から解き放たれたようだ。
あのままだったらシウトの肉奴隷にされていた。その前に俺の玩具にできて本当に良かった。
「アデリア、大丈夫?」
「なにが?」
「セレインちゃんも」
「いえ、ですから、どういうことなのです?」
ちょっと記憶が曖昧になってる感じかな。
まあちょうどいい。
「俺さ、シウトくんからパーティ追放されちった。もう出てくけど、アデリアはどうする?」
「は? ついてくに決まってんじゃん。傭兵時代からのコンビでしょ、あたし達。あれ? なのにどうしてシウトなんかを……」
アデリアが首を傾げている。
そこら辺はおいおい説明しよう。
「ユノは?」
「私も共に、とは思いますが、もはや邪龍討伐パーティは機能しません。一度龍神教の総本山に戻る必要があるのでできません。あと、司祭様にお仕置きプレイしてもらわないと」
「君ほんとにビッチだよね。大好き」
後腐れない女の子はみぃんな好きの精神です。
「あ、あの……私。私も、ついていっていい、ですか?」
「お、セレインちゃんも一緒に追放されちゃう? いいよいいよ」
「はい。私のカラダをこうした責任はとってほしいのです」
やった、イイ感じにセレインが仲間になった。
代わりにこれでシウトくんは恋人、パーティメンバー、魅了の魔眼、邪龍討伐隊の栄誉を失ったことになる。
さすがに可哀そうになってきた。
「あの、ごめんなシウトくん? 代わりにいい娼館を紹介するよ。かわいい子しかいないし、サービスも満点の店らしいぜ」
「ふぇぇ、ら、らしい?」
泣きながらも興味あるのか顔を上げてきた。
いや、俺は行ったことないお店だからなぁ。
「ゼル様は娼館にいく暇がないのです。今まで私達や町の女性としていたので」
「だよね。10日だと4:2:2の中休み二日だったし。4がセレインなのはびっくりだけど」
「ずるいですよね。私だって、もっとしてほしいのに」
「もうやだぁあぁぁぁぁぁ!?」
流れるような連撃でオーバーキルである。
「出てけっ、このクズ野郎! お前はこのパーティーに相応しくない! 他の奴らも全員追放だ、解雇だっ。即刻いなくなれっ!」
「……分かった。リーダーの言うことだ、素直に従うさ」
俺は追放を粛々と受け入れた。
ただあまりにも可哀そうだったので、最後に声をかける。
絶望に膝をつき立ち上がれない彼の肩を優しく叩き、俺は慰めるような響きで言った。
「まあそれはそれとして、追放されたからにはざまぁするんでよろしくね?」
響きだけで慰める気は一切なかった。
「……は?」
「いや。追放、ざまぁ。これセット、分かる? だって理不尽に追い出されるんだから、そりゃ報復はするよ」
「………………は?」
最後までぽかんとしていたシウトくんを置いて、俺達は去っていく。
頑張れ、きっと君ならいい仲間ができるさ。
「あーあ、妙なタイミングで仕事無くなっちまった」
「まあいいいじゃん。でも、あいつアホだよね。……ホント、私なにが良くて好きだったんだろ?」
「そういうなよ。たぶんキャパ超えてるんだし」
むー、っとアデリアちゃんは悩んでおられる。まあ、魔眼意外に皆無だったからね、好きになる要素。
後ついでに言う、シウトは恋人の浮気のせいで混乱して気付いていない。
いままで金銭管理もアイテムの管理も俺がアイテムボックス魔法で行っていた。それを返却させずに俺を追放したせいで、あいつ手持ちの金しかないのである。
普段使ってる装備もみーんな俺の手の中でございます。
本当にどうするつもりなんだろうか。
「しかし追放かぁ。やっぱり腹立つな」
アイテムを管理していたのは俺だし、金銭管理も俺。戦闘も前衛後衛どちらもこなし、いろんな交渉事も俺がやってきた。
なのに、ちょっとパーティーの女の子をいただいて乱交を毎晩してただけで追放?
ちょっとひどすぎる。
「だがシウト……俺を追放したことを後悔するといい」
理不尽な追放とくりゃ、当然ざまぁ。
まあ正直なところ90%くらいは俺が悪いような気もするが、一応様式美としてざまぁはしとかないといけない。
「せっかく、映像記録魔道具でさっきの光景を記録したことだし。あれ見せて、今度はリズちゃん食いに行こうかなぁ。あと、シウトママが美人だったらそっちも。息子が最低でごめんなさいセックス……あ、ヤバいそそる」
ということで、俺はシウトの故郷に向かうことにした。
こうして俺の、ざまぁ計画が始まったのである。
「普通に考えたら、調子に乗っているのはゼルの方じゃない?」
……こうしてっ! 俺のっ! ざまぁ計画が始まったのであるっ!
魅了の魔眼持ちの勇者に追放されたけど既にざまぁ済みです 西基央 @hide0026
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