第37話 とにかく臭いあ奴らの巣穴



「ん……お餅……モチモチ…………してないやんけぇ~……」


「グギャッギャギャガッ!?」「ギィーグガッガギッ?!」「グラァギャッ!!」「グギャアーボッ?!!」……


──ガッ!ゴガッ!ガリッ!ガコンッ!……


「んっ、んぁ~? 誰じゃボケぇ~……今モチモチしてない草臭い餅出してきた和菓子屋とタイマン中…や…………どこ、ここ?」


 んんぅ~……暗いけど夜、ってワケじゃあ……なさそうだ…つーか臭ぇな、なんだここ? 生ゴミ集積所かよ臭っっさ!


 とにかく何か情報を、明かりは……まだ使わない方がいいか、光に反応して襲われでもしたら敵わんし。なにかしらわかってからだな。


 地面は……土とか岩って感じだけど、なんでこん…痛ったっ?!


 痛っつ~ぅうう……なんで頭にコブが……ってそういやなんか後ろから殴られた、んだっけ?


 なんか殴られて気絶してばっかだな俺、耐えれたのエイミーさんくらいじゃん。


 それでさっきから──


「ギャギャボッ!!」「ギャッグァガガッ!?」「グゲァッ!!」「グギャボォ……」……


──ガッ!カコンッ!ガラッ…ゴッ!……


 ──ってな感じの鳴き声?とか何か叩くような砕くような音が反響して聞こえてくんだけど……いや、一部変なの混じってる気がするけど。


 うーん……このバカっぽいベッタベタな鳴き声、臭くてジメっと暗い洞穴っぽい場所。


 これはもうファンタジーお決まりの、とにかく臭いあ奴ら……なんだろなぁ。


 場所は林から移されたようだな、森林の香りなんて皆無だし。


 ここまで俺を運べるってのは、一匹でも人一人運べる力があると見るべきか、複数で協力して事に当たれる統率力があると見るべきか……


 何れにしろその場で屠殺、お肉でテイクアウトされなくて良かったけどさ。


 これ、どう考えても(お皿に)突撃お宅の晩御飯。ご覧の食卓はイサムのお肉の提供でお送りします。でしょ?


 だとしても、だ。それだとやっぱり生かして連れ帰る必要ないよな? それじゃ他に、あ奴らの習性といえば……っ?!


 えっ、イサちゃんが妊娠っ!? けれどもそれは苗床物語のお話。


 ……やめよバカバカしい。


 拐われたからってそんなアホな話あるか、大体俺は男だっての。


 大方保存技術がないから生かしてるだけだっつーの。ボケてないではよ片すべー……いや?


 ここは異世界。


 ならば俺が知らないだけで未知の技術が、──性転換薬が存在する可能性も……っ?!


 だとしたら気絶していた俺は……既にその薬を飲まされている可能性すらあるというのかっ!?


 あの高校生のようにっ! 黒服さんに飲まされた質量どこ行った薬のようなファンタジー薬をっ?!


 だっ、だとすると悠長に状況を把握している場合じゃないっ!


 ……しなければ。


 このままだと討伐に来た冒険者に|沢山の子供に囲まれアヘ顔苗床エンドな俺/私を《せめてマイルドな薄い本展開であれっ!》見せつけることになる……っ!


 変えなければ……未来を。


 もはやイサ美になることが避けられない身であろうとも……奴らに汚されてなるものか。


 俺は……俺は──ゴブリンにボンバイエぶっ殺せする者…………


「俺はゴブリンボンバイエ他力本願のイサムに……なるっ!」


 はーい気合い充填完了っ!


 どこぞのスレイヤーさんみたいにガンギマりな殺戮劇場?


 いやいや、ムリムリの無理。身も心も日本人よ俺?


 やってらんない見てらんない。楽してお家帰るよ、依頼ゴブリン受けてないし。


 つーか兎にも勝てないのにゴブリンに勝てるかっての。順番を守れ、順番を。


 てなワケ、サクッと帰るぞ~!


「まずはライ……あっ、この暗がりで光らすと寄ってくるか?」


 寄ってくるとあの兎サッカーの二の舞にしかならんわな、ほんじゃどうしようか……魔法ならいけっかな、あれ。


「暗視!」


 おおっさすが魔法! 見えるっ私にも見えるぞっ!! ナイトスコープみたいに緑なあれでっ!


 んー、でもどうせならこんなの出来ないかな?


「色彩補正!」


 おっほぅ! もはやライトつけてるかのように克明に見えるやんけぇっ!!


 これは……ぐふっ、滾るっ! 滾るぞっ!!


 あとは……


「光学迷彩!」


 よっしゃこれで……いや、自分では視認できるの想像したせいで消えてるかわかんねぇや。


 とにかくっ! これで透明に、誰にも見咎められることはないはずっ!!


 これで俺は……


覗きの神某家政婦になるぞおおおおおおおっ!!!!」


「グギャ!?……ウギャェッ!」「グゲッ?! ギギャウガ……」


 おっとマズい、騒ぎすぎて気づかれたか……バタバタと足音が近づいてきてやがる。


 まぁちょうど良いな、このまま様子を見に来た奴をやり過ごして見えないことを確認してやろう。


 そうと決まれば入り口の真正面に……来たか。


「ギギャゥゥ……ゲギャ? ギッ? ギィッ??」


 おーおー、キョロキョロ探してるわ。


 にしてもきっつい顔してんなー、アホ面でお口ぱっかーんしてるから乱杭歯がよく見えるわ。あれがゴブリンかぁ。


 うん、こりゃ完全に成功ですな。あーもう、そんなに慌てて探しても見えないっての。


 もう確認はいいかな? とっとと帰って俺は第一の楽園女風呂に行くんだいっ!


──ザリッ……


 んあっ?! そっ、そういや音消してないじゃーんっ!?


 いっ、今の足音聞かれて……?


「ギッ? ギィィ……?」


 あっ聞かれて……おっおいコラっ、近寄るんじゃねえっ!?


 そこは壁……そう、壁さんだよー? だから鼻スンスンするのやめよー?


 つーか前屈みで動くのやめよ? そこオイラの股間だから嗅ぐのやめよ? 君小っこいんだから、立ってる俺の腹ぐらいの身長なんだからやめ──ふぉあっ?!


「ギーィ?」


 ……っぶねえっ! いきなり腹に向かって手ぇ伸ばすんじゃねえよっ!?


 ぐっ……さっきの足音にビビって片足浮いてる……状…態っだってのに……上体……横にっ逸らし……あっ、もうダ……へあっ?!?!


──ドサッ!


「ギギャッ?!?!」


 あへっ? なんで暗いっ!?


 つか転けた上に明らかにゴブリンに気づかれ……あっまさかっ?!


「すっステータスっ」


 

【イサム・ノウミ】


Lv.13

職業 隷属奴隷(苗床)


HP 731/1250

MP 0/4110


力 5……



 ほっほあああああっ?! やっぱMP切れてるぅうううっ!


 ってことは完全に見つかっ──。


「ゲギャッ!! ギッ!!」


──ガコッ!ガッ!!


「ウボッ?! アギャ! ごっ……うぼぁぁぁ…………」


 ……父さん、母さん。


 覗きの神某家政婦になるには、並大抵でない努力大量のMPが必要なようです。


 第二の楽園女性の寝室は遥か遠く、第一の楽園女風呂すら太陽のように手の届かない場所にあるようです…………



 こうして、悪しき計画覗き行為は計画立案から僅か3分と経たずに廃案を向かえた。


 その立役者ゴブリン愚か者イサムを棍棒で殴り倒し、静かになったことで満足したかのように、騒がしき仲間たちの元へと戻っていった。

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日本語ってむずかしいね、モサモサ…… ~パチもんスキルで異世界を生きていくことになりました オーク_猫 @orc_neco

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