夢喰い依頼受け付けます
華楓月涼
episode 1 七味は、ほどほどに
深夜0時00分 『ピコン』 依頼メール一通 開封しますか?Y/N・・・Y
【毎晩・・・汗だくで目が覚めるです。
どんなに逃げても顔のない人影に追いかけられるんです!!
もう、どうしたらいいのか分からないんです。
眠れない、怖くて怖くて・・・。仕方がない。
頭がぼーっとして、寝不足で仕事にならないんです。このままでは、死んでしまいそうです!!
この間は、寝不足のせいか線路に落ちそう・・・うううん、吸い込まれそうになりました。
どうか、お願いします。夢喰いしてください!!】
死の形相で訴えているだろう依頼者のメールに、うんうんと頷きながら読み終えた。
ふ~っと一息ついた後、スクッと立つ。
額に梅の紋様が現れると紅く長い髪を一つに纏め、白装束に着替えて紅を引く。そして、右手には錫杖左手に金剛杵の出で立ちで、肩には、小さく変化した神獣獏を乗せて、颯爽と部屋を出た。
彼女の名は、梅花華。摩利支天様の御用人。主な仕事は、神獣獏と共に夢魔退治。
「さあ、夢魔退治と行きますか~獏くん。」
肩に乗っかる小さなハムスターの様に見える神獣獏に、指でツンツンしながら話しかけると、それに噛まれた。
「いてっ!!」
「我は、お前の下部か?神獣である俺に向かって、毎回、毎回ーーー!くん付で呼びおって!!」
「良いじゃないか~。それより、早く喰ってあげないとこの人、魂が先に喰われるよ。良いのかい?
摩利支天様のお怒りが下るよ~。」
「ふん。だいたい、人ってやつは、すぐ・・・。まあ、良い。行くぞ!!華。今宵は、満月・・・大物が出る可能性もあるぞ。油断するなよ・・・。」
「へいへい。良い月あかりだ。」
華は、ムッとしているだろう獏を無視して、金剛杵独鈷を掌に乗せ依頼者の方角を探る。
ひらり、ひらりと舞うように揺れてから今度は、クルクルクルクルとどんどんと速度を増し、独鈷が廻りづづける。依頼者を見つけた独鈷がピタリと止まり方角を示した。
「ふーん。また、あの一角か~。どう思う獏くん?」
最近の夢喰い依頼は、必ずと言っていい程、その地域が含まれていた。だが、あまり大きな依頼でもなく様子見の案件ばかりなので放置しているが、なんとなく引っかかる。
「どうもこうもねえ。行くぞ。夜が深いうちに!」
獏の返事は、今日もいつも通り・・・。
「仕方ない・・・了解。」
シュルンシュルンシュルン再び、独鈷が回りだし方角に向けて飛んでいく。その後を追って闇夜の空に『青龍・百虎・朱雀・玄武・空珍・南儒・北斗・三態・玉如・破!!』印を切り、錫杖で空を突いた。
その途端、黒い煙が立ち込めその煙に指で描いて護符を飛ばし、依頼者の夢の中に潜り込む。
「はて?目標物は、どこに行った~?」
『はあーはあーはあー!!た・す・・・け・・・て!!』暗闇の夢の中で、黒い影に追いかけられ逃げ惑う依頼者の姿が見えた。
小袖から更にもう一枚の護符を飛ばす。
護符は剣に変じそれに飛び乗りその空間を猛スピードで、割きながら突き進む。
「見えた!!あそこだ!!獏くん~!!捕縛するよ!!」
ズバッと依頼者の目の前で、華を乗せている剣が黒い影を突き刺し捕縛する。
「捕縛完了!!さあ、わが友、獏くん・・存分に食ってもらおうか~。」
「ふっ満月なのに・・・思ったより小物だな。」
ひた、ひた、ひた・・・とまるで水面を歩くかの様に、ゆっくりと空間を踏み込み前進する大きな神獣獏が姿を現すと、依頼者を呑み込もうと追いかけまわしていた先ほど突き刺した黒い影がそれに気づく。
キーキーキーッとその影は何とも言えない音を鳴らし剣の捕縛から何とか逃げようともがき続ける。
それに対して剣が反応しビュンとうなりをあげて発光して捕縛を強める。
「おん・きりきり・・・おん・きりきり・・・おん・きりうん・きゃくうん!!!さあ、召し上がれ~。わが友、獏くん!!」
「ふむ。いつにもまして、見事な捕縛だ。堪能しよう。」
ペロリと大きな舌なめずりをした後、ゴクリと一飲みにされた影は、一瞬で消え失せた。
「さあ、仕上げにかかりますか?」
「ああ、そっちの方が大事だ。」
神獣獏は、空間から一旦姿を消す。
依頼者は、うずくまりブルブルと身を震わし、何とも言えない恐怖に満ちた形相で面を上げていて、華を凝視するその眼は血走っている。
華は、額の梅に人差し指と中指を立てて当てると梅の香りがほのかに香った。
その依頼者の額に、梅花の烙印を施し『破魔』と一言言うと依頼者からシュルシュルと黒い煙が出て、花火の様に火花を散らせてパンと消えた。
「さて、お嬢さん。依頼は、完了だ。対価を頂こう。」
「た・い・か?対価って?」
「嫌だな~依頼する条件に書いてあったのをちゃんと読んで依頼したんだろう?」
フルフルと頭をふり否定する依頼者の手を取り対価について説明した。
「まったく・・・。いつもこれだ。頼む時だけ必死なんだから。困ったもんだよ。魔法使いじゃないんだ夢喰いは!!アンタの夢に巣食う夢魔を退治しにやって来ているんだ。もともと、この存在を作ったり呼び寄せたりするのは、アンタ自身なんだぜ。対価は、その為に、アンタ自身からもらう寿命だ。今回は、そうだな・・・小物だったから1年ってところか・・・。」
目を見開き驚きを隠せない依頼者は、振るい立って近寄って来たかと思うと、ふいに袖にしがみついて来て言う。
「私が・・・作ったなんて・・・。それに、寿命なんて・・・どうやって払うんですか?」
小首を傾げながら、やれやれと言った感じで答えてやる。
「獏に1年の命を食べてもらう・・・ただそれだけさ。さっき見てただろう。影をパクリと食べた獏を。」
依頼者は、藁にもすがる思いなのかしがみ付いた袖を更に握りしめて引っ張り、コクリと頷いて答えた。
「もう、あの夢は、見ないんですよね?だったら、1年ぐらいあげる。そのぐらい平気・・・だって、たった1年だもの。」
「ふーん。たったか・・・。じゃ、きっちりもらうぜ。獏くん、準備できたかい?」
「ああ。」
パチリと指を鳴らし掌を開くと天に光の梅花が咲き、1本の蝋燭が輝きながら掌に向かって降りてくる。
「さあ、これが、アンタの命の蝋燭だ。今からアンタの1年分の命が消える。ちゃんと見てな。」
コクコクと頷き、蝋燭を見つめる依頼者。
「契約完了!!ウンタキウンジャク、ウンタキウンジャク・・・・・・・。ノウマクサラバタタギャテイビャク、サラバボッケイビャク、サラバタ、タラタ、センダ、マカロシャダ、ケンギャキギャキ、サラバビキナン、ウンタラタ、カンマン!!」
その呪の声と共に再び、依頼者の前をどこからともなく、獏の長い舌が伸びてきて蝋燭の灯を摺るように舐め、灯が一瞬消えそうになった。
依頼者は、そのたった一摺りの一瞬で膝をつき倒れ込み、握りしめていた袖から手が離れて崩れ落ちて、消え入りそうな声で訴える。
「なんで?たった1年でしょ?どうしてこんなに手が・・・体が老いているの?」
コクリと頷いて答えてやる。
「対価の1年だけをきっちり頂いた。たった・・・なのか?どうかは、残りの寿命によるさ。アンタの寿命が後どれくらいあるかなんて、知らないからね。この空間での体は、寿命そのものを表しているからな~。」
依頼者は、下を向き奇妙な声で笑い始めたかと思うと今度は、面を上げて睨みつけて始めの頃の恐怖とは違う引きつった表情で聞き返してきた。
「ふふ、ふあ、あははっははっはは・・・。騙したのね。知ってて残り少ない命を取ったんでしょ!!」
「っったく、さっき、言ったよな。知らないって。夢喰いは、夢を喰ってその対価に寿命をもらうのみ。あずかり知らぬ事で罵られる筋合いはない。」
「そんな・・そんな・・・。後どれくらい?どれくらい生きられるの?こんな風に体が老いているなんて・・・。アーーーーーー!!」
「アンタさ、どんな風に生きたか考えて見な。恨み、辛み、妬み、嫉み、嫌み、僻み、やっかみ・・・七味全てばかりに費やしただっただろう?そいつが、夢魔を作り出した。」
「だって、だって、みんな・・・みんな・・・。私ばっかり、苦労してるのよ!!」
「そいつだ・・・。その感情を捨てなければ、また、夢魔に襲われる。この街から出な。少なくとも、残りをまっとうに過ごせるはずだ。」
「嫌よ!!苦労してここまで来たのよ!!あとちょっと・・・そうよ。きっともうすぐ夢が叶うはずだもの。」
「やれやれ・・・忠告はしたぜ。契約は完了だ。じゃあな。」
「えっ待って、待ってーーーーーー!!」
絶叫する依頼者を後に、会話を切り上げ錫杖をトンと下に向かって、突くとその空間は一瞬で消え失せた。
「あの女・・・前も喰ったような・・・?同じような依頼者が多すぎて、定かじゃないけどさ・・・。」
「さあ?そうだったかな・・・。預かり知らぬ事に首を突っ込むつもりはない。」
「ははは。そうだな、次だ、次の方が厄介だよ。獏くん。」
「ああ。最近の転生交換の夢喰いか・・・。あれは、不味いからな。だが、対価は大きい。」
「さあ、行こう!!」
人は、自分の負の感情で夢魔を作り向かい入れる。それを相手に飛ばす者もいる。
仏の顔も三度まで・・・。
摩利支天の御用人、梅花華と神獣獏は、次の依頼者に向かって闇夜をかける・・・。
『夢喰い依頼受け付けます・・・』
夢喰い依頼受け付けます 華楓月涼 @Tamaya78
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