乙女ゲームに転生した俺(王子)は転生ヒロインに困惑中

マーチ•メイ

第1話

「だー!! 何でそうなるんだ!!」


生徒会室の窓から見えた人物の行動に思わず口から言葉が出てしまった。





俺は所謂転生者という者。


それに気づいたのは6歳の時。


婚約者である公爵家の令嬢ミランダと対面した時である。


見覚えのある艶のある長い黒い髪、白い肌、少し吊り上がった猫の目のようなアーモンドアイ、瞳の色は空の色のような水色だ。


あの悪役令嬢みたいだな……とぼんやり考える。


はて悪役令嬢とな? と疑問を覚えたら頭痛がした。


ズキズキと痛みがひどくなる。


「うっ……」


「殿下どうされましたか」


侍従に心配されたが何でもないと居住まいを正した。


頭痛は少しづつ治り、そして理解した。


これは……あれだ。


妹がハマってた乙女ゲーム。




 『君との世界に祝福を』の世界だと。





あの後無難に顔合わせを終わらせ一日をやり過ごし自室に戻ったところでゲームについて書き起こすことにした。


確かこれは乙女ゲームだったはず。


舞台は今から9年後の学園。


光属性を持つヒロインが入学するところからスタート。


この世界は魔法が使える。


属性は火•水•風•土があり稀に闇を使えるものが現れ最も少ないのが光だ。


物語が進み魔王が復活し攻略者との愛で覚醒したヒロインが魔王を倒すというゲームだ。


そしてヒロインと攻略者がゴールインしてハッピーエンドだったはず。


いや……よく聞くよ。


ヒロイン転生とか悪役令嬢転生とか……そこは女性に転生してなくて良かったよ。


可愛いお嫁さん確定で良かったよ。


だが俺今王子。


時期国王。


……魔王復活て!!


ボフッと柔らかい枕を叩く。



え? ヒロインとキャッキャウフフするの? ……いやいやいやいや俺ミランダ派だったんだけど。


妹に見せられたパッケージのミランダのキャラデザに一目惚れ。


頼み込んでゲームをさせてもらってその全てをバッドエンドしたぐらいミランダが好きだった。


ゲームの中ではちょっと我儘だったけどね。




……だがしかし、


今はまだ6歳。


あの我儘な性格も治せる時期じゃないか!!!!


ミランダとの結婚……。


それを考えただけで顔が緩んだ。



……よし。 分かった。


ヒロインを俺以外の攻略者とくっつければ良いんだな。


魔王をやっつけてもらって俺はミランダとハッピーエンドになってやる!!


そう心に誓った。




それから9年の年月が過ぎた。


ミランダは無事に俺の婚約者として内定された。


両親に可愛がられ愛でられ我儘放題だったミランダはと言うと……


「どうかなさいましたか?」


隣を見ると不安そうな眼差しで俺を見つめるミランダがいる。


学園の入学式という事でとうとうヒロインとの顔合わせイベントが発生する日である。


イベントの強制力が有ると聞くが、どうなることやらと考えていたら不安がらせてしまったようだ。


……。


可愛い。


お互いに見つめ合い頬を染める。


可愛い。


我儘放題になる予定だった性格は成りを潜めている。


元々の乙女ゲームではミランダの一目惚れでミランダ溺愛の両親の猛プッシュによる政略結婚だった。


ゲームの中の王子は、ミランダについてその他大勢の女性と一緒という括りで大して興味も抱いていなかった。


そんな王子の気を引きたくて、でも興味を持ってもらえなくて、不安で攻撃的な性格になっていってしまったんだ。


だけど今は誰が見ても俺とミランダは相思相愛。


ゲーム内でミランダがどう思うか予習してきた所為もあるがミランダの性格は熟知している。


我儘と攻撃性が無くなったミランダは大変、大変!! 可愛らしい女性へと成長した。


ちなみにミランダは転生者ではなかった。 良かった良かった。


「この後の挨拶が不安で考え込んでしまったよ。 ミランダ励ましてくれるかい?」


ふぅーと息を吐いて心にも無い弱音を吐いてみる。


ミランダの目を見つめてそうお願いすれば……


「……!!」


頬を染めて扇子で顔を隠してしまった。


「か……影から応援しております」


……可愛い!!!!


何この可愛い子!!


もう……張り切る!! こんな子に応援されたら頑張るしか無いぞ!!


ミランダにカッコ悪い姿なんか見せられん!!


そうして新入生代表挨拶を完璧に終わらせクラスへと赴いた。






席に着いちゃった。


あれ? 可笑しくないか? イベントどこ行った?


確か首席挨拶中に乱入するんじゃなかったのか?


はて、と首を傾げていると机の周りには大勢の人がやって来ていた。


ちなみに隣の席はもちろんミランダだ。


「殿下におかれましては拝謁の栄誉を賜り至極恐悦に存じます」


「同輩になれまして嬉しく存じます」


「ミランダ様なんと美しい……」


と挨拶祭りが繰り広げられた。


キャ……何あれ……。


あれは……光魔法の使い手と噂の……?


……何してるのかしら?


挨拶の合間からそんな声が聞こえて来た。


ん? と疑問に思い人の合間からそちらの方を見る。


……。


……なにやってんの?


そこには教室の入り口で跪きこちらの方を拝んでるヒロインがいた。


こんなイベントあったっけ?


ってか女の子跪かせるイベントって誰のイベントよ!?


結局教師が現れるまでヒロインはずっと跪いたままだった。





数日経ってもヒロインの奇行は続いていた。


あの後も学内の説明を受けている際もずっと手を組み拝んでいた。


その姿は確かに聖女っぽかった。


最後の方はツーッと静かに涙を流したもんだからヒロインの隣に座っていた子がビックリしてた。


そして何となく理由がわかった。


なぜならあの乙女ゲームに出ていた攻略者を見ては拝むを繰り返していたからだ。


これは転生者だなと確信した。


ならば話は早いんじゃないか?


これから魔王が復活することもわかってるだろうし自分の役割も分かってるはず。


ならば俺は思う存分ミランダとイチャイチャ出来る。


よっしゃーと楽観出来たのはここまでだった。





まずは攻略者について教えておこう。


騎士の息子 アーサー=ウィリアムズ 元気いっぱいの正義感に溢れた熱血な青年だ。


宰相の息子 ルクス=キャンロム。 所謂クール枠だ。薄い紫の長髪を後ろに一つに結んでいる。もちろん眼鏡をかけてるぞ。


ヒロインの年下の義弟 ジュリウス=ブラウス。 腹黒枠だ。黒髪でサラサラの美少年。確かヒロインの2つ下なはずだ。


王子の俺 


担任の先生 マリオン=デュラー。 赤毛で優しいぞ。 穏やかな先生だ。


魔術の先生 アンドレア=カディック。 黒髪で人形みたいに綺麗な顔してる。 魔術一筋の変わった先生だな。 落とすのは大変そうだ。




オリエンテーションも終わり通常の授業も始まった。


ヒロインとのイベントも無いことから俺のルートでは無いと油断していた。


そしたらとんでも無いことになっていた。




それに気づいたのはヒロインイベントだ。


階段から落ちてくるヒロインを助けるシーン。


実際のところいつ落ちてくるかなんて分かりやしない。


その日も普通に階段を登ろうとした。


そしたら落ちてきたんだ。




聞いたら荷物を持って階段を登ったら足を滑らせたとの事。


その時はそうなんだと思った。


次はゲームではヒロインと共に資料室に閉じ込められるシーン。


と共に閉じ込められた。


そう。


俺だけヒロインのところが先生マリオンに置き換わってたんだ……。


それから何気なく生徒会室から外を見た時のこと。


生徒会室から見える花壇でアーサーがなぜか花に水やりをしていた。


通りかかったルクスに水をかけてしまって自分が持っていたハンカチで拭うと言うことをやっていた。


そしてそれを木陰から覗いているヒロイン含めた令嬢の群れが居た。


そこから一本繋がった気がして背中がゾワッとした。







もしかしてあいつヒロインこれを乙女BLゲームにしようとしている……!?







そして俺と聖女ヒロインの戦いが始まった。

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