甘えんぼの妹(の友)


「それで、涼斗さん!そのとき、天音ちゃんが!」

「へー……あいつが……」


その後、連絡先を交換した俺と茜音ちゃんはメッセージでやりとりしていた。

……というか、先ほどまではメッセージのやり取りだったが、電話してもいいですか?とのことで、今は電話に移行している。


「というかさ。茜音ちゃん、こんな時間にどうしたの?」


その瞬間、息を呑む音がした。


「ご、ご迷惑でしたか???すぃません。こんな時間に……」

「ちょっと待って!怒ってないから!迷惑じゃないよ!ちょっと気になっただけだから!」


突然とても動揺したように通話を切ろうとする茜音ちゃんを止めた。


「大丈夫だから、ただ、俺、避けられてると思ってたからさ。」

「へ?なんでですか?」

「いや、中学の時、ほぼ話さなくなっただろ?」


ああ、と声を漏らす茜音ちゃん。


「あれは、二つ理由があったんです。一つは、私たちも女の子ですから、遊ぶ場所の中心がお買い物とかになっちゃったからですね。」

「でも、それは家で全く遊ばなくなった理由にはならないんじゃないか?」

「そこで、もう一つの理由なんですけど……。これをいうと天音ちゃんに怒られちゃうので言えません♪」


なんだよ……結局理由はお預けかよ。

少し落胆しつつも、


「ヒントをくれないか?」


と、もう少し粘ってみる。


「うーん、ヒント、ですか。」


茜音ちゃんはうーん、と悩んだ後、


「天音ちゃんったら、かわいいんですよ。でも、わがままで、なんていうか、独占欲が強いっていうんですか?なんなら私もそうできたらなって思っちゃいました。」


と、言った。


「うーん、分からん。」

「それは。わかってもらっては困るので。」


少し静かな時間が流れた。その静寂を破ったのは、茜音ちゃんの鈴を転がすような声だった。


「……ねぇ。少しだけ、わがまま言ってもいいですか?」


茜音ちゃんがわがまま?少なくとも、俺たちの前でそんなそぶりも、要求もしたことのない茜音ちゃんが?

……一体、どんなわがままなんだろう。


「ああ。いいよ。叶えられるかは保証できないけど。」


それでも、できれば叶えてほしいと思った。


「もうちょっと、涼斗さんに甘えたいって。思うんです。」

「……え?」


まるで思ってもいない、とてもかわいい願い事、わがままだった。


「かっ!かわっ!!!」

「??」


やべっ!声出ちまった!


「あー……。そんなことなら全然いいよ。小さい頃遊んだ友達だろ?なんか、年上とか、そんなの気にしなくっていいんだ。」


俺は気を取り直して、本心からの言葉を述べた。その言葉を聞いて、


「!あ、ありがとう。」


うっ!これが敬語なし茜音ちゃん……!強い。かわいい……!


俺の脳内に濃い茶色のセミロングを揺らしながらこちらにやわらかい笑みを浮かべる茜音ちゃんが浮かんだ。


「かわいい。」

「ふぇ!?」


あ、口に出しちゃった。

ああああ!まずった!


「そそそそそ!そういえばさ!明日とか天音と登校するとかどうよ!」

「そそそそ、そうですね!もう天音ちゃんの家に行かない理由も無くなったんですからね!!」


……それから、結構長い静寂があって、


「私、今日楽しかったんです。」


ぽつぽつと語られ始めたのは今日までの経緯だった。


「涼斗さんが中学校に上がる時くらいに遊ばなくなった時、とっても寂しかったんです。もっと遊びたいなって。話したいなって。でも、天音ちゃんって強情だから。なかなか許してくれなかったんです。

それでも、私はどうしても涼斗さんと会いたかったから。本気でお話ししたんです。そしたら、こうして今日会えることになって。こうやってたくさん話せて。」


そして、と一拍おいて、


「私が羨ましいと思ってた涼斗さんに甘えるという行為も許してもらって。

……だから、すっごく今幸せな気持ちなんです。」


……くっ!なんだこの破壊力!眠くなってきたのか、ぽわぽわとした喋り方の茜音ちゃんは、普段なら言わないであろうことを包み隠さず話す。心臓に悪い……!


「……なぁ、茜音ちゃん。眠そうだから寝ようか。明日も朝来てくれるんだろ?」


「そうですね。じゃあ、涼斗くん。おやすみ。」

「……おやすみ。」


プツッと電話が切れる音。


「くっ!!!最後に涼斗くん呼びかよ!!!死ぬっ!」


その日、俺は悶々として眠れなかったのは想像に難くないだろう。


 翌日、朝ご飯を食べて、部屋で登校の準備をしようと、階段を登ろうとするとインターホンが響いた。


「はーい!」

「……っ!」


茜音ちゃんだった。ああ、昨日言った通り来てくれたんだな。


……にしても気まずい。


「涼斗さん。昨日は深夜のテンションで、すいませんでした」

「い、いや。大丈夫だよ。あと、昨日言った言葉は全部本音だから。もっと、楽に接してくれていいからね。」


そう言うと、茜音ちゃんはさっきのが嘘だったかのように顔を笑顔にして、


「は、はい!」


すると、話し声が聞こえてきたのか、急いで降りてきた天音が、


「ご、こめん!いこっか!」


と、くつを履いてあっという間に準備を済ませてしまった。


「じゃあ、お兄ちゃん、行ってくるね。」

「行ってきます!涼斗くん!」

「ああ、いってらっしゃい。」


そこだけを聞けば仲良しの幼馴染の兄のほのぼのした日常に思えるだろう。


「涼斗、くん?」


そう。茜音ちゃんの俺の呼び方以外は。


「ねぇ。どう言うこと?さっきも仲良く話してたよね?なんで?おい?答えろバカ兄貴。」

「あー!聞こえない!聞こえない!」


気付かなくてもいいところに気付いた妹の圧に怯えながら俺は聞こえないふりをして逃走した。後ろで、


「じゃあ、説明してもらおうかな。茜音。」

「ひ、ひぇー!助けて、涼斗くん!」


と言う声が聞こえた気がしたので、


「こら!あんまり茜音ちゃんをいじめるんじゃない。」


と俺が天音に注意すると、


「戻ってきた……!なんでそんなに距離が近くなってるか、しっかり聞かせてもらうからね!」


そっと茜音ちゃんの方を見ると、小悪魔のような笑みで、ごめんね?と口を動かしている様子が見てとれた。


……うん!ちゃんと甘えてこれているようで良し!


その後、貴重な朝の時間に天音によって尋問を受けることになった。




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俺の周りがコメディなので、懐いてくれている妹と妹の友達も巻き込む 雨依 @Amei_udonsoba

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