久しぶりの会話


「ただいま。」


家に辿り着く。両親は朝はゆっくりだが、夜は遅くなることが多い。日を跨ぐこともあるくらいだ。

階段を登り、自分の部屋に入る。

趣味の読書をするとすごく落ち着く。

ひと段落ついて、休憩しようとすると


「おにーちゃーん!」

「うわっ!なんだ!帰ってきて早々!」


玄関でドアが開いた音がした途端天音が俺の部屋に突撃してきた。


「そんなことより!お兄ちゃん!茜音ちゃんきたよ!一緒に久しぶりにあそぼって!」

「茜音ちゃんが?」


天音の幼馴染である藤波茜音は、かなり長い付き合いで、もちろん中学も同じだ。

そして、小さい時には、俺も何度も遊んだ記憶がある。

お兄ちゃんはジュース持って私の部屋ね!と、言われてしまったので、嵐のように部屋を去っていった天音の言う通りに一旦下に降りた。


「あ……こんにちは」

「こんにちは。久しぶりだね。茜音ちゃん。」


下に降りると、茜音ちゃんは下で待っていた。

……あいつ、言うだけ言って忘れてやがるな?


「あーごめん。茜音ちゃん。あいつ、自分の部屋で待ってるってさ。先行っといてよ。」

「あー、天音ちゃんらしいですね。じゃあ、お先に。」


端的に事情を説明しただけで納得された。あいつらしいけどさ。もしや友達相手にもああなのか? 

若干の心配を抱えつつ、言われた通りジュースを注いでいく。

天音お気に入りのみかんジュースをコップに注ぎ終わったら、お盆に乗せ、天音の部屋へ向かった。天音の部屋は、2階部の奥にある天音の部屋をノックした。


「いーよ!お兄ちゃん遅い!」


と中から声がしたので、ドアノブを引いて中に入る。

大体自分の部屋より奥にある以上、ほぼほぼ天音の部屋に入ることはない。

中は意外と整理されており、女の子らしい淡い色の家具が綺麗に置かれていた。


「早く早く!」

「天音ちゃん?急ぎすぎだよ……」


その部屋の主である天音と、茜音ちゃんはその部屋の真ん中に置かれたテーブルに座っている。


「意外と整理されてるんだな。」

「意外にってなんだ!」

俺がそんなことを言いながらジュースの乗せられたお盆を置いて座ると、うがー!と言葉に反抗する天音。


「……にしてもさ、改めて。久しぶりだね。茜音ちゃん。」

「はい。お久しぶりです。涼斗さん。」


最後に茜音ちゃんとまともに話したのはいつだったか。

確か、もう中学にもなる前だったような気がする。

小学生と中学生の間には、思ったよりも大きい壁があり、

中学に上がった途端、一気に交流が減ったことを覚えている。


「今日はごめんね?俺が同席することになってさ。」

「い、いえ、いいんです。私がお願いしたことなので……」

「茜音ちゃんが?」


意外なことに、この突然のお茶会(ジュース)が開かれたのは茜音ちゃん提案らしい。


「わたし、ずっと寂しかったんです。せっかく、たくさん遊んでた涼斗さんと遊べなくなって。」

「あー、まあ、俺が中1の時の一年で、すっかり遊ばなくなったからなぁ。」


天音と茜音ちゃんは、彼女たちが小6、俺が中1のちょうど遊ばなくなった時期から、外を中心に遊ぶようになった。

そのほとんどは買い物だったり、娯楽施設だったりしたらしい。


「でも、俺がいたら楽しめなかっただろうしさ。」

「そんなことありません!」


俺が率直に思ったことを言うと、強い口調で否定される。


「私は……涼斗さんがいたら楽しめないなんて考えたことありません!だから、涼斗さんもそんなこと言わないでください!次言ったら、ほっぺつねりますからね!」


俺はその言葉を聞いて、一気に昔の茜音ちゃんと同じであることを強く認識した。


「怒り方は変わらないんだね。」

「ふ、ふぁ!?も、もう!涼斗さんなんて知りません!」


いじるように言った言葉で、拗ねられてしまったが、それすらも懐かしさを覚え、くつくつと笑いが込み上げる。


「ごめんごめん。」


俺がその髪を撫でると、


「あ……もう!次はないんですからね!」


と、昔と同じように、そう返してくれる。

前もこうだった。たまに茜音ちゃんが拗ねてしまった時は、俺が頭を撫でて宥めていた。

ああ、俺も変わっていなければ、彼女の本質も変わってないんだ。そう強く意識した。

あると思っていた壁なんて、実際はなかったと言うことに気付かされる。


「茜音ちゃん。また、よろしくね。」

「……っ!はい!」


と、久しぶりの会話に心を躍らせていると、


「ねーえ!私暇なんだけど!仲直りしたいって言うから連れてきたのにー!イチャイチャしてんじゃないよー!」


と、天音が飛びかかってきた。


「お兄ちゃんに茜音は渡さないよ!」

「え、えぇ!?天音ちゃん!?」


そういう天音だったが、顔を見ると、とても楽しそうな顔が見れた。

きっと、彼女もなんだかんだ俺たちが再び話せるようになって嬉しいのかもしれない。


「うがー!暇ー!」


……そんなことないかも。


 それからしばらく、天音お気に入りのゲームで遊んだ。

意外だったのは、茜音ちゃんがゲームがうまかったことだ。

俺と天音は全く歯がたたなかった。

その後、もう気付くと7時くらいになっていたことに気付いた。


「茜音ちゃん。7時過ぎたけどまだ居ていいの?親御さん心配しない?」

「だ、大丈夫です。親はなんというか……放任主義的なところがあるので、連絡すれば特に問題ないです。」


茜音ちゃんがスマホを使ってメールを送り、


「これで大丈夫です。」


と言った。


「……え?電話ですらないの?」

「え?はい。連絡すれば大丈夫なので。」


驚いた。まだ中3の女の子がそれでいいのか……。

まあ人の家に口出すのはちょっとと思い、苦言を呈するのはやめておくが。


「まあ、なんかあれば今日は俺が守ったげるから」

「あ、ありがとうございます!」


俺がそう言うと、茜音ちゃんは頬を染めつつ、とても嬉しそうに感謝の言葉を言った。


「ねぇ。お兄ちゃんまた茜音口説いてんの?もしかして年下好き?妹とか後輩とか好きなタイプ?」


ニヤニヤしながらこちらをからかってくる天音。


「ふざけんな。お前襲われてぇのか?」

「きゃー!襲われるー!」


俺が言い返してやると、天音は笑いながら逃げていく。

部屋に残された茜音ちゃんは、


「ふふっ!兄妹仲良いんですね。羨ましいです。」


と、こぼした。その言葉は、一人っ子の茜音ちゃんの寂しさが滲み出ていた。


「いや。茜音ちゃん。君も兄妹みたいなもんだよ。もっと気軽に接してくれてもいいんだ。」


そう言うと、茜音ちゃんは、今日一番のかわいい笑顔で、


「そう言うなら、そうさせてもらいますね!|お兄ちゃん!」


……その揶揄うような笑顔を見て、つい、ドキドキしてしまった。

いや!だめだ!茜音ちゃんは妹の友達だぞ!?

俺は頭を振り気を取り直し、


「あー!腹減ったな。茜音ちゃん。なんか食べ行こう!天音連れて!」


と言った。


「ふふ!照れてますね。涼斗さん。」


うるさいやい。


 天音を連れて、どこに行こうかとなった時に、外食という言葉を出した瞬間天音がとんでもないスピードで「寿司!」と言ったので、どうせならと、回転寿司へ行くことになった。


「わあ!回転寿司なんて久しぶりに来た!」

「わたしもー!なんだかんだくる機会少ないよね!」

「今日は俺の奢りだから好きなだけ食えよ。滅多にこれないからな。食っとくのが得だぞ。」


せっかく久しぶりに茜音ちゃんと話せたわけだし、ぱっーと奢ってやることにした俺は、どうせいくら食おうと大金払うことになるんだから変わらないと割り切ってどんどん自分が食べたいものを注文して行った。


「な、なんでもいいの?」

「本当にいいんですか?」

「おおー!食え食え!」


そう言うと、二人も徐々に自分の食べたいものを注文し出した。


「うーん!美味しい!涼斗さん!ありがとうございます!」

「ありがと!お兄ちゃん!」


人に感謝されるのはなんだかんだ嬉しい。それに兄なんだから、妹達にはこれくらいしてやらなきゃな。


なお、その日の会計で持っていたお金の大半が吹き飛んだ。



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