Episode02:アダブランカ王国
1
王宮の中は、何もかもが美しくて、新鮮な景色ばかりだった。
大理石の床に、美しい彫刻が施された柱。
天井には、きめ細やかなフレスコ画が描かれており、可愛らしい天使や美しい女神たちが雲の上で楽しそうに遊んでいる。
窓際には、咲いたばかりの花が大きな花瓶いっぱいに活けられていた。
山の中で狩ってきた動物の毛皮を飾っていたグランドール王国とはあまりに違っていて、リーリエは驚きを隠せなかった。
「前王が使っていたものをそのまま使っているから、贅沢な仕様になっているだけだ」
クノリスは退屈そうな表情で、辺りを指さした。
毎日暮らしているから飽き飽きしているといった様子だったが、リーリエはこの美しい城に飽きる気がしなかった。
クノリスの後について、リーリエの滞在する部屋へと向かう途中だった。
片眼鏡をかけた男が、クノリスを見つけると、ものすごい勢いで近寄って来たのである。
「お帰りになったのですね……クノリス王。そしてリーリエ姫。家臣のアンドレアと申します。以後お見知りおきを」
「アンドレア。元気そうで何よりだ」
「元気なわけありませんよ。何ですか、あの手紙は!城中大騒ぎだったんですよ!嫁になる女に会いに行くって書かれただけの紙を机の上に置いて城から消えるなんて言語道断ですよ!あなたは城で待機する予定だったでしょう」
アンドレアと呼ばれた男は、今にも泣きだしそうな表情だ。
リーリエはこの時、アンドレアという男にひどく同情した。
きっと、クノリスに振り回されまくっているのだ。
「まあ、そう騒ぐな。こうして無事に姫を連れてきたじゃないか」
「あなたがいなくなったせいで、大臣たちに私がどれだけ嫌味を言われたかわかりますか?」
「興味がない話だな」
クノリスは、心底興味がないとあっさりと言い切ったので、アンドレアは「ああ……。もう、いつもこの人はこうなんだから……」とブツブツ文句を呟いている。
「あいつのことはほっといて大丈夫だ。行こう」
文句を言って落ち込んでいるアンドレアを無視して、クノリスはリーリエに向かって「行くぞ」と合図をした。
「本当にほっといて大丈夫ですか?」
いくらか心配になったので、リーリエは後ろ髪を引かれるようにクノリスに尋ねた。
「俺意外の男に興味があるとは。もう浮気か?」
クスリと笑うクノリスに、リーリエはわざとらしくため息をついた。
「ここが君の部屋だ」
案内された部屋は、リーリエがグランドール王国の中で見たどの部屋よりも豪華だった。
天蓋つきのベッドに、大きな化粧台。窓にはベッドカバーとお揃いの金の刺繍が施されたピンクベージュのカーテンがかかっている。
「部屋は別なんですね」
「一緒の部屋がよかったのなら、今からでも変更は可能だが?」
「いえ、結構です」
リーリエが間髪を入れずに断ると「連れない奥さんだ」とクノリスは笑った。
「あと、一点。君に約束をしてほしいことがある」
「なんでしょう」
「真夜中の風呂場には、近寄らないでくれ。私と君の部屋は隣にあってね。風呂場だけは共有なんだよ」
とんでもない事実をサラッと言うので、リーリエは目を開き、眉をひそめてクノリスを見た。
「扉一枚って言いました?」
「元々この部屋は俺の部屋だったからな。他国の姫君が知り合いもいない中、夫とも離れて暮らすだなんて寂しいだろう」
確かに、最もなのだが、クノリスが言うと説得力のかけらもなくなるのはなぜだろう。とリーリエは夫となる男の顔を見た。
「分かりました。でもなぜ、真夜中の風呂場に近づいたらいけないんですか?」
「俺が、風呂に入るからだ」
「……そうですか。もしかして、真夜中はモンスターか何かに変身するとか?」
「面白い発想だな。だが違う。背中にひどい怪我があるんだ。君だって惨い傷跡など、わざわざ見たくはないだろう。まあ、俺の裸を覗きたいというのであれば、話は変わってくるのだろうが」
「結構です」
「約束は守ってくれよ」
戦争で戦った後の傷跡だろうかとリーリエは少し気になったが、またクノリスに茶化されそうなので、心配した素振りを見せるのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます