幽霊列車~冥界の旅 序章_黒月降下

 油断していた...幸せだった...この幸せが永遠に続くと思っていた。たわいもない日々が続いてくれると思っていた。しかし...幸せはあっけなく崩れ去ると思い知らされた。荒れ果てる大地と燃え盛る列車に変わり果てた姿に絶望で目の前が真っ黒になりそうだった。悲惨な光景に取り乱しながら必死に名前を呼んだ。しかし、いくら声を上げても返事が返ってくることはなくその場でへたり込んだ。絶望に侵されてその時に微かに声が聞こえた。その声を頼りに壊れて瓦礫と化した列車をどかしながら進み声の下場所へと向かうとそこには誰もおらずその場には誰かの血痕らしき血だまりと血で染まった帽子があった。それを手に取り持ち主が誰なのかを全てを察し息が出来なくなった。過呼吸になり跪くと嗚咽をしながら血反吐が出るほど叫んだ。叫びすぎて声が出ず喉が痛くなった...その痛みは消えず炎が燃え尽きるまで叫んだ。その悲惨な声は耳にこびり付て離れなかった。


「"あ"あ"あ"あ”あ”あ”あ”あ”あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ""あ"あ"あ".."き"さ".."ら"ぎ..."き"さ"ら"ぎ"い"い"い"い"い"い"い"い"」


全ては数時間前に遡る。全ての始まりは黒い月が堕ちて地獄に異変が起きたことから始まった。


**

 かつて悪魔として生を受け異形差別を受けた孤独な悪魔は他種族の異形から差別と暴力を受けてきた。孤独な悪魔が出会ったのは傷を負い死にかけている天使と天使を襲っている小悪魔だった。彼らと出会ったのが運命か_和解した彼らが居場所となり孤独は悪魔は孤独ではなくなり、ただの悪魔となった。彼らと過ごした悪魔は幸せだった。この幸せが永遠に続くと思っていたが一人の人間が現れたことによって終わりを告げた。悪魔狩りと称して悪人が彼らを襲い多くの血が流れ命を落とす形となった。ただの悪魔は彼らを失い心優しき天使は悪意によって堕ち堕天使になってしまった。全てを失ったただの悪魔は死を望んだがそれも叶わず堕天使はただの悪魔のもとを去り居場所を失いただの悪魔は孤独の悪魔となった。


 孤独の悪魔は人間を恨み居場所を守り傷ついた異形たちを引き入れ居場所に住まわせた。孤独な悪魔は居場所を守りやってくる人間たちを殺して異形たちを守り続けた。そんなある日孤独な悪魔に一人の人間が迷い込んだ。その人間は"きさらぎ"と名乗った。孤独な悪魔はきさらぎを殺そうと考えた。しかし、きさらぎと過ごしていく内に惹かれ殺さず守り傍に居た。孤独な悪魔はきさらぎに名前を貰い悪魔は喜んだ。やがてきさらぎと過ごし数年がたった。きさらぎは孤独な悪魔にとって大切な存在になった。しかし、孤独な悪魔は孤独ではなくなったのに孤独なままだった。孤独な悪魔のもとに一人の異形がやってきた。名を管理人と名乗り堅物な異形であった。孤独な悪魔と人間のきさらぎ、堅物の異形の管理人...種族も性別も何一つ違う彼らの生活な気妙で摩訶不思議なものだった。奇妙な日常は孤独な悪魔にとっては幸せだった。きさらきを救い互いの思いを伝えた孤独な悪魔は孤独ではなくなった。しかし、その幸せも終わりを告げた。悪魔の異形と人間のきさらぎの存在が異形たちに知られてしまった。異形と人間が共に居ることは禁忌であり、二人は処罰されることになった。異形は別の異形として転生する罰を受けるが人間は処刑され魂が消滅する。二人の罰ときさらぎの死を恐れた管理人は二人を逃がした。追ってから二人は逃げて悪魔となった。


 悪魔は追ってから逃亡しきさらぎを連れてとある孤児院に着いた。昼間は姿をきさらぎの陰に潜めて身を隠し、きさらぎが一人の時のみ姿を見せた。悪魔はきさらぎと共に過ごし数年がたった。孤児のきさらぎは心優しい夫婦に引き取られた。きさらぎは心優しい夫婦のもとで育ち悪魔の新たな居場所になった。きさらぎは学校へ行き悪魔は気ままに過ごし、二人は各々が過ごした出来事を話す。この日常が悪魔にとって幸せだった。もう二度と奪われることはないと思っていた。しかし、そんな思いとは裏腹に幸せは残酷に砕けちった。堕天使のはずの異形がきさらぎの元へ現れてことで二人の日常は壊れた。きさらぎは一週間後に命を落とした。きさらぎに異変が起きていた...度重なる不幸が襲いきさらぎは孤独になり不幸は死へと向かった。異変に気付かない悪魔はきさらぎと口論になり傷つけてきさらぎのもとを去った。

悪魔のもとに追手の異形、きさらぎのもとに堕天使が現れ、悪魔は拘束されきさらぎは命を落とした。きさらぎを失った悪魔は孤独な悪魔となった。二人を逃がした管理人と共に罰を受けて管理人はマジシャンに孤独な悪魔は死神となった。


 死神は新たな異形として転生し車掌となった。マジシャンは地獄の門番として地獄に送られる魂を裁く異形となった。死神は魂を導く幽霊列車をマジシャンとともに作り乗組員のバーメイド、料理長を創造した。小神も加わり彼らは前世の魂を解明し導いてきた。やがて魂となったきさらぎが幽霊列車にやってきたが死神は魂を解明することが出来ずやり直して繰り返した。しかし、きさらぎの魂が影響を受け不安定になり死神は運命を受け止めてきさらぎの魂を解明し、前世を導いた。きさらぎの魂を導いたことで役目を終えた幽霊列車は消滅し、創造したバーメイド、料理長らも消えた。小神を通して全てを見ていた閻魔大王によって死神は罰を受けた。罰を受ける死神を待っていたのは魂を導いたはずのきさらぎだった。きさらぎは閻魔大王と全てを反省し自らの命を懸けた堕天使によって異形に転生し"ヴァンパイア"となった。命を落とした堕天使は閻魔の恩情で新たな異形となり、転生したきさらぎは車掌補佐としてヴァンパイアの異形に転生させた。閻魔大王が死神に下した罰は転生したヴァンパイアの異形であるきさらぎとともに死神・車掌として生涯前世の魂を解明し魂を導くことだった。閻魔大王の罰に死神は歓喜し受け入れて再び車掌となった。


 幽霊列車_それは前世を明かす旅。幽霊列車は生死の狭間に存在し、人生を終えた人が魂となり幽霊列車の乗客として幽霊列車に乗車する。乗車した乗客の前世を解明し天国か地獄へと魂を導いている。乗客を導く乗組員は車掌、バーメイド、料理長らの計四名である。彼らは人間ではない...異形である。車掌は死神で前世を解明し、バーメイドは自身の血を飲料に変え提供し、料理長は自慢の料理を提供している。そんな彼らと親しい異形がいる。異形はマジシャンと名乗っているがその正体は地獄の門番である。普段はふざけているがその本性は冷静沈着、冷酷非道で残忍である。マジシャンも含め彼らは協力し合い前世を解明し続けてきた。転生しヴァンパイアとなったの異形となったきさらぎが車掌補佐に加わり小神のネムと共に死神の異形であり車掌のフジニアの旅はまだまだ続く...はずだった。


序章_黒月降下


 「やった...ようやく...見つけた」


 漆黒に染まり薄明り一つない音一つ立たない静寂な空間に"それ"は居た。"それ"は懐からヒビの入った呪われた真珠を取り出した。私怨の籠った言葉を発すると真珠が神々しく光り出した。真珠に醜く光が灯し出すと微かに映りだした。映りだした映像をには異形最強と言われた代行人と彼の側近である代行人の2人が映し出され、望む相手を見ることが出来なかった"それ"は指を動かし映し出す対象を変えた。


 「これじゃない...つぎ...つぎ...」


映し出された異形は望む相手ではなく次々に変えていった。何度も対象の相手を変えて次に映し出されたのは悪魔だった。望む相手ではなく変えようと思ったが映し出された"悪魔"に指を止めた。"それ"は悪魔に興味がわき"悪魔"の人生を覗くことにした。孤独な悪魔の人生だった。悪魔は異形と出会い居場所が出来たが人間に奪われた。人間を恨んだ悪魔が人間に惹かれるなど面白い悪魔だとそれは思った。しかし、それの望みは悪魔ではない。あくまで気晴らしで悪魔の人生を見ているだけだ。この悪魔が死のうが生きようが絶望しようが関係ないのだ。"それ"が望むのは一人の異形のみ。望みの異形を"それ"が手に入れた時始めて"それ"は幸せとなる。


(あいつに邪魔されこの無限牢獄に投獄された恨み...すべてはあの忌々しき最強と言われた代行人の復讐のために...代行人を欺き勝ち取ったその瞬間のために"それ"は存在していた。)


 「****を手に入れてこの手に触れるその瞬間が楽しみだ...早く****を僕の物にしたい...を」


望む異形を手に入れたいと言う私怨にかられた"それ"は真珠から目を離しておりふと真珠を見ると代行人が映し出され目を疑った。代行人が"悪魔"に詰め寄って怒っている。代行人が起こる理由を"それ"は知っていた。その意味を知っている"それ"は自然を笑みがこぼれる。気晴らしで見ていた悪魔の人生がこれほど興味深いものだと思わなかったからだ。映し出す相手を変えなかったのは気晴らしの他に心の中で何かを感じ取っていた。この"悪魔"には何かがあると...それに気づかされ心は踊る。食い入るように"悪魔"の人生を見届けた。


 「なるほど...孤独な悪魔が死神か。中々の人生だな...でも驚いた。あの憎き代行人と...僕の望む****がいるなんて...さいっこう!この悪魔いいな~~~...欲しいな~~~」


"それ"は頬染めて両手に手を当てると笑みを浮かべた。その笑みは狂気じみており正気を感じられなかった。"それ"は真珠に触り再び映像を見直すと興奮し熱を感じた。


 「あちゃ~っ...感じちゃった~本当にいいな~欲しいな~フジニアか~...

いいな~彼の人生...もっともっと...壊したいなあ」


"それ"は熱を覚ますと勢いよく一部が真珠がかかり汚れてしまった。"それ"は余韻のせいか真珠が汚れていても気にも留めていなかった。寧ろ汚れた一部の微かに望む異形が映り満たされた。


 「綺麗だな~早く欲しいな~****」


"それ"は汚れた真珠に触れると掲げた。すると辺り一面に映像が映り望む異形****が映し出された。"それ"は地面に映った異形に触れると頬を撫でた。


 「時は整った...今日君を手に入れる...手始めに君には不幸になってもらうよ...恨むなら僕をここに閉じ込めた彼・代行人を恨んでね...フジニア」


"それ"は映し出されたフジニアを見て呟くと手に持っていた真珠を割った。真珠が割れ映像が消えると再びそこは音一つない静寂の場に戻った。しかし、そこには誰も居なくなっていた。


"それ"がフジニアたちに近づき悲劇の間の手が迫っていた。その魔の手が触れた瞬間、フジニアたちは最悪の未来を痛感し絶望することになる。


数時間後...とある場所にて。"それ"の策略に嵌ったフジニアと代行人たちは****を奪われまいと必死に手を伸ばす。


 「まっ待てくれ!ダメだ!行くな****!」

 「****!そんなことしなくていい!だから!」

 「絶対この手を離さねえ!****離すな!フジニア手を貸せ!」

 「はい!諦めるな****!俺も代行人もお前を見捨てない!この手を離さない。だから諦めるな!**..」

 「フジニア...代行人...ごめんなさい...」


しかし二人に"それ"の攻撃が当たり限界が迫り****は察する。二人は****の切ない笑みを見ると****のこれからの行動を理解し必死に止めようと手を伸ばす。"それ"は大きな口を開き****に迫る。


 「「****!」」

 「もう..こうするしか皆が助かる方法がない...こんな選択しかできなくてごめんなさい...最後にいいたいことが...今まで...」

 「ダメだ!****!」

 「****!」

 「代行人...お...」


ガブリ、ベチャベチャ...ゴリゴリっと醜く骨を砕く音がその場で響き渡る。****が言葉を発しようとしたその瞬間****は二人の目の前で喰い奪われた。目の前で****を喰い奪われたフジニアと代行人は目の前の悲惨な光景に体を絶望で侵されその場で崩れ堕ちた。二人の絶望とは裏腹に一人幸せな"それ"の甲高い歓喜の声がその場を支配した。****を失った代行人の頭を踏み続け潰すと体を蹴り飛ばす。目の前で****を失い頭を潰された代行人を見たフジニアは自身の無力さに心を押しつぶされて涙を流す事しかできない。そんなフジニアを嘲笑いフジニアの髪を乱暴に掴むと持ち上げた。


 「ざま~ないね~悪魔くーん。なーんにも出来なかったね~な~んにもさ!足手纏いで人殺し~!さいっこうだよ君!欲しい****が手に入ったのも憎き代行人を殺せたのも全部君のおかげ~!ねえ~どんな気持ち?足手纏いで何も出来なくて目の前で全てを奪われた気持ち!ねえ~教えて~ねえねえ~ねえってば~」


フジニアの頭を乱暴に掴み揺らすが何も答えず今日が覚めるとその手を離す。無抵抗に落とされたフジニアはその場に無造作に倒れる。"それ"は力任せにフジニアの頭を踏みつけるとフジニアの懐から死神を鎌を取り出すと心臓目がけて振り上げた。心臓を剥き取り持ち上げるとフジニアに見せた。


 「ほ~ら君の心臓だよ~心臓。分かる?悪魔の心臓は初めて見たけど随分きれいだね...美味しそうだな~食べてもいいよね~?ちょうどお腹がすいたし~いただきま~す」


"それ"の腹が鳴る。腹がすきフジニアの心臓に食い入るように見た。涎がこぼれ地面を汚す。何も言わないフジニアを鼻で笑いフジニアの心臓を喰らった。


 「あ~ん!けぷっ...おーいしい!悪魔だからまずいかと思ったけどこんなにおいしいならもっと早く食い殺せばよかった~!」

 「........」

 「あれ~?ああそうか!心臓食べちゃったからもう聞えないか~残念。でもまあ~心臓でここまで美味しいなら君の魂も体も美味しいよね」

 「......」

 「そうだ!いい事思いついた~。あの子の体も魂も手に入ったしあの子の目の前で君のすべてを食い殺してあげるよ~そしたらあの子どんな顔するかな~今から楽しみだよ」

 「......」

 「憎き代行人を殺せて美味しい食事も手に入れて望んだあの子も手に入れた。これで僕は幸せ者だ~!取り上げず君の体をバラバラにしてあの子の場所に連れて行こうっと」

 「......」


心臓を抜かれ喰われたフジニアの意識はそがれていく。無意識に"それ"の足を掴む。"それ"は軽く足を動かしてどかすとフジニアの手を踏みつけた。


 「心配しないでよ。君の一部は残してあげるからさ~そうすればあの子を一生縛れるし、君も傍に居れるでしょ。あの子と一緒、特別に****の傍に居られるから二人共々永遠に一緒だよ。良かったね悪魔くーん」

 「......」


"それ"は鼻歌を歌いながらフジニアの鎌を再び振り上げる。それをフジニアの意識は終わりを告げた。最後に愛する異形の名を残して...


 「****」



 数時間...地獄ではいつものように幽霊列車から導かれた魂たちの罪を閻魔大王と補佐である地獄の門番ことマジシャンは裁いていた。時期も重なり魂の数に追われるはめになる。一呼吸着くころには5時間は経過していた。一区切りしたマジシャンは閻魔と共に茶を飲み休憩した。茶を飲み終えると安堵のせいかため息がこぼれた。


 「お前がため息とは珍しいな。だから今日はこんな地獄だったのか」

 「失礼な。万年地獄に居る奴が何言ってるんだよ。地獄で地獄かって洒落かよ寒いな。お前いい年しておやじギャグとか笑えないぞ」

 「誰がおやじだ!」

 「どっからどう見てもおやじじゃねえか。おやじって言うよりジジイか?ひげ生えてるし閻魔だから長寿だしどうせ1000歳くらい軽く超えてるだろう?」

 「ジジイ言うな。これでも気にしているんだからな。最近、年のせいか腰が痛くなって...」

 「お前年中椅子に座りっぱなしだしあの椅子硬そうだもんな」

 「そうだ。閻魔の威厳もあってあの椅子はなかなか変えられないので困っている」

 「だから最近ここで働く看守たちに腰に効く薬草聞いてたのかよ。看守たちがこの世の終わりみたいな顔してるから気になった聞いてみたらそんな理由か...くだらない」

 「くだらないとは何だ。ワシは真面目に仕事しているんだ。それなのにお前は隙を見ればあの死神の元へ行きワシに仕事を押し付けてサボろうとする。そのツケが来たんだ」

 「俺のせいかよ。絶対年だ!」

 「いいや、ワシの頑張りとお前さんのつけじゃ!」


たわいもない雑談から二人は口論になり一発触発しそうになる。地獄の異変に気付いた看守が二人に報告しようとしたが二人の圧が強く萎縮していまい中々伝えられるず困っていると突然地獄に激しい揺れが起こった。二人は事態を察し看守に訳を聞くと揺れの激しい場所へと向かう。するとそこには見たことのない大穴が開いた。調べようにも深く得たいがしれない。地獄を納める者として閻魔が近づくがはじかれてしまい近づくことすらできなかった。地獄の異変にただならぬ気配を感じたマジシャンは渡された時計を使い代行人に報告した。


 「これでよし。直接は伝えられていないが報告はした。あとで気づいたら代行人にも伝わるはずだ。それにしてもこの穴...どこかで...」


大穴を見つめていたマジシャンはふいに近づこうとしており閻魔に止められ我に返った。


 「それ以上近づくな。何が起きるか分からない。ワシがはじかれるなどこの地獄では今までなかった。つまりこの大穴は地獄のモノではない。別の何かだ。迂闊に近づけば命の保証はできない。代行人には伝えたのだろ。彼らからの連絡を待つのだ。さすればこの大穴も何とかしてくれるだろう」

 「それもそうだな。この大穴は代行人にまかせれば...!!」

 「これは何だ!」

 「また地震か?今度はなんだ」


揺れは先ほど閻魔たちが休憩した場所で揺れており急いで二人は戻るとそれにはあり得ない光景が広がっていた。あり得ないはずの数億は余裕で越える魂の数だった。


 「なんだこれ!死者も聖者も関係なく地獄であふれてる」

 「こんなこと今までなかったぞ。こうしていられん!門番よ、急いで幽霊列車に行き車掌を連れてくるのだ。ワシも魂を元に戻すがいくらワシとお前さんでもこの数は無理じゃ!急がないと関係ない無知の魂まで地獄に落ちることになる。そんなことあってはならぬ!地獄で起きている揺れと大穴は今は良い!とにかく魂たちを返すぞ!」

 「分かった!急いで幽霊列車に行く。お前たち、閻魔の補佐頼んだぞ!」


マジシャンは看守に指示を出すと飛んで幽霊列車に向った。


 一方幽霊列車では皆が寝静まり静寂な空間が広がっていた。乗組員たちは皆眠っており車掌ことフジニアも車掌室で横になっていた。フジニアが眠るベットの近くに設置された机にはカチカチと音を鳴らす時計。時計は×時と指された場所になると激しい音が部屋中に響いた。部屋で眠っていた人物は時計のアラーム音に気づくとゆっくりと起き上がり止めた。


 「うっううん...はあ~もう朝か...アラーム止めないと」


アラームを止め欠伸をした後に腕を伸ばしてストレッチをした。ストレッチを終えると目が覚めたきさらぎはフジニアを起こした。


 「フジニア、起きて朝だよ」

 「う..ううん...きさらぎ?もう朝なのか」

 「うん、私も今起きた所。一緒に行こう」


きさらぎに起こされたフジニアは寝ぼけながら起き上がるとゆっくりと頷いた。寝ぼけているフジニアにきさらぎは微笑ましく思うと寝ぐせの髪を軽く掴む。


 「まだ寝ぼけてる。フフッ...フジニア、ここ寝ぐせがついてる。可愛いね」

 「可愛くない...」

 「照れてるフジニア可愛い~」

 「やめろよきさらぎ...」

 「ごめんごめん、許してフジニア」

 「いやだ...」


きさらぎに指摘されたフジニアは顔を枕と布団で顔を隠した。きさらぎはそのしぐさの可愛さに悶えると顔を覗きこんだ。


 「フジニア...こっち向いて」

 「...いやだ」

 「可愛いって言ってごめん。どうしたら出てきてくれる?」

 「もう..可愛いって言うな。恥ずかしいし...それに...きさらぎの方が可愛いだろ...だからその...いつも見たいに寝ぐせ直してくれ...そうしたら出てきてやる...いいか」


耳を赤くしながら少しだけ顔を出して言うフジニアにきさらぎは抱き着いた。


 「フジニア...可愛い~!寝ぐせ、直すね」

 「ああ頼む...って今可愛いっていたな!」

 「可愛いなんて言ってないよ~!」

 「誤魔化すなよきさらぎ!」

 「もう~フジニア、寝坊助なんだから~」

 「寝ぼけてないってこら待て!」

 「待たない~。ほーら着替えるよ!」


フジニアは抗議しようとしたがきさらぎに腕を掴まれベットから出された。しぶしぶクローゼットの前に立たされる。立たされたフジニアは来ていた服を脱ぎ畳む。畳み終えたフジニアはきさらぎを見ると車掌服を持っていた。


 「はいこれ。今日の車掌服だよ」

 「ありがとなきさらぎ」

 「もうお礼なんていいよ~私がしたいことだし!着替えたらこっちに来てね」


フジニアは返事をすると車掌服に着替えるとヘアブラシやドライヤーを手にしたきさらぎが待っていた。前もって用意された椅子にフジニアを座らせた。


 「待ってたよ~それじゃあその可愛い寝ぐせ直すよ~」

 「また言ったなきさらぎ!」

 「ほーら暴れないでフジニア」

 「...頼むきさらぎ」

 「はーい」


数分後_寝ぐせを直したきさらぎは満足そうに声を上げた。その様子にフジニアは微笑ましそうに見つめた。きさらぎはフジニアと目が合うと付けている帽子とネクタイが曲がっていることに気づきそっと直した。


 「どうしたきさらぎ?」

 「何でもないよ。これでよし...ほーらもっとかっこよくなった」

 「かわい...えっ?かっこいいって」

 「うん、かっこいいよフジニア」


きさらぎに褒められたフジニアは再び耳が赤くなり帽子で顔を隠した。少し動揺したフジニアはあちこちぶつかりながら車掌室を出て行った。


 「ああ...えっと!そろそろ行かないと!」

 「もうフジニアったら...」

 「行っちゃった。そろそろ私も行かないと!」


と言いながらきさらぎはフジニアの後を追いかけて行った。


 幽霊列車_BARにて


 きさらぎはフジニアの後を追いBARへ向かいドアをノックした。数秒待つと中から返事をする声が聞こえて中に入った。BARの中は始業前のせいか薄明りで少し暗い。声の主でありバーメイドのカーナは微笑みを返した。


 「おはよう~きさらぎ。今日も元気そうで何よりよ~」

 「おはようカーナ。カーナも元気そうでよかったよ」

 「おかげさまでね!」


ワインボトルを拭きながらウインクを返す。いつも通りの様子にきさらぎは笑うとカウンター席に座る。


 「今日は何を飲むのかしら?おすすめはほんのり甘いレモンティー、渋くて苦みの美味さがある緑茶、香ばしく美味しい紅茶よ。どれにする?」

 「そうだな...昨日レモンティーを飲んだから今日は..渋くて苦みの美味しさがある緑茶にする」

 「分かったわ~はいどうぞ!」

 「ありがとう。いただきます」

 「はい、召し上がれ~」


きさらぎはカーナから緑茶を受け取り飲んだ。おすすめされた通り渋くて苦みのある美味しさが口の中に広がり体に染み渡る。


(この渋みの美味しさが体に染みて美味しいんだよね。人間の時から好きだったし、またこうして飲めるとは思わなかったな~。死んで魂の時は食欲が湧かなかったから食べも飲めもしなかったし、またこうして緑茶を飲めるとは思わなかった。転生さまさまだな)


カーナは緑茶を堪能している姿を微笑ましそうに見ながらワインボトルを片付けた。


 彼女は乗組員の一人であるバーメイドのカーナ。能力:【自身の血を変化させる能力】である。彼女の担当はBARで血を変化する能力を活かして前世の乗客が望む飲み物を提供するバーメイドとして幽霊列車で働いている。カーナはきさらぎが書いた小説『幽霊列車~前世の旅』のモデルであるバーメイドから作られた存在でその正体は妖夢である。噂では前世の乗客の魂を喰らっていると言う。前世の乗客に飲み物を提供する際、天国は青色・地獄は黒色に変化する。以前_赤色の変化しその乗客が不審死する事件が起きたとか...その真実は不明。そのためフジニア曰く_幽霊列車内で一番信用・信頼できないと言われている。きさらぎの前世が解放され一度消されたが再び作成された。頼りになるが裏が見えず怒らせると恐ろしい異形である。



きさらぎは飲み終えるとフジニアの居場所を聞いた。彼女の入れる酒を飲みにBARを訪れたと思ったが空振りだった。カーナに礼を言ったきさらぎはフジニアの後を追いかけるためBARを後にした。


 「さて、フジニアはどこに行ったんだろう。ネムが居るロビーかグリンのいる料理長室のどっちだろう...」


 悩んだきさらぎはBARから近い料理長室に向かった。料理長室に向かうと楽しそうに料理を作るグリンが居た。グリンはきさらぎに気づくと大きく手を振ってきさらぎの傍にやってきた。


 「ああ~!きさらぎ、おはようーーーーーーーーーー!来てくれたんだね」

 「おはようグリン。今日も元気でよかったよ」

 「うん!今ね皆の分の料理を作ってるから待っててね!きさらぎの好物作るからね!」

 「ありがとう。楽しみにしてるね!」


飛び上がって喜ぶグリンの頭を優しく撫でると頬に何かがついていた。きさらぎは近くに置いてあった布巾で優しくふき取った。


 「ケチャップついてたよ。はい、これでよし」

 「ありがとうきさらぎ!気づかなかったよ」


きさらぎに向けてグーポーズをするとノリノリでキッチンに戻っていた。


 彼は乗組員の一人であり料理長のグリン。彼の担当は料理長室で小柄な子供だが料理の腕はすさまじく幽霊列車では料理を腕を振るい働いている。彼の作る料理はプロ顔負けの絶品であり、ノリが良く子供らしい性格で子神のネムと大の仲良しでよく遊んでいる。きさらぎが書いた小説『幽霊列車~前世の旅』のモデルである料理長から作られた存在でその正体はゾンビである。噂だが人を襲わないが代わりに料理に対する執着で自信を持っているらしい。以前_料理を作っていたグリンに手が空いたフジニア、カーナ、マジシャンは手伝おうとしたが不出来のため皿を割り調味料を間違える事件が起きた。その時の二人を睨むグリンの表情が恐ろしくあのマジシャンでさえ正座し敬語で謝罪した。特にフジニアは顔を真っ青にしてその時のグリンは自身が悪魔時代に代行人に殺されそうになった時や閻魔にきさらぎの前世を解放しろと言われた時よりも恐ろしかったそうだ。そのためフジニア曰く_ある意味、幽霊列車で一番恐ろしく怒らせてはいけないと言われている。きさらぎの前世が解放され一度消されたが再び作成された。普段はわんぱくだが人一倍こだわりがこだわりが強い異形である。


 「♪~今日もおいしいクッキング!作って美味しいクッキング♪」

 「グリン、ノリノリで鼻歌歌ってる」


きさらぎはカウンターからフジニアの居場所を聞くが料理長室には来ていなかった。どうやらフジニアはロビーに居る様だ。グリンに一声かけると料理長室を出て料理長室に向かった。


 ロビーに付いたきさらぎはフジニアを探すと足元に何かがぶつかる衝撃がして下を向くと子神のネムが居た。


 「ママ...おはよう!」

 「ネム~びっくりした。おはよう!」


きさらぎはネムの頭を撫でるとネムは嬉しそうに腕を広げた。その可愛らしい仕草に悶えながら抱き上げた。


 彼女は乗組員の一人で子神のネム。能力:【夢を糧とし悪夢を消し去る能力】である。正真正銘子供の神様略して子神。片方が天使の女の子でもう片方が悪魔の男の子である。ネムはきさらぎが書いた小説『幽霊列車~前世の旅』とは無関係だがフジニアが悪魔時代に出会った小悪魔の子供がモデルでフジニアときさらぎの監視目的として閻魔大王によって創作された異形である。グリンとは大の仲良しでよく遊んでいる。大人には懐かないがきさらぎにはよく懐いている。きさらぎの魂を解放した際に役目を終えて喪失したがきさらぎが転生した際に新たな存在として記憶を引き継いだまま生まれ変わった。噂だが生まれ変わったことでネムはきさらぎのことは母親だと思っており正式にフジニアときさらぎの子供となったとか...フジニア曰く_自身に少しづつ懐き始めており「パパ」と呼ばれた時は泣きそうになったそうだ。普段は大人しいが二人に甘える可愛らしい異形である。


 「ママ...」

 「もう~ほっぺすりすりしてかっわいい~!」


静かに甘えてくるネムに頬ずりし返すときさらぎに力強く抱き着いた。優しく抱きしめ返したきさらぎはロビー内を見回してフジニアを探す。探していたフジニアはロビーの奥のテラスに居た。きさらぎはネムを抱き抱えたままフジニアの元へ行き声をかけた。


 「ここに居たのね。フジニア」

 「きさらぎ、後を追いかけてきたのか?」

 「うん。色々さがしたよ。BARか料理長室に居ると思ったけどやっぱりここに居たんだね。フジニア」

 「まあな。ここは俺が担当する仕事場だけどそれ以外でもよく利用する場所だから落ち着くんだよ」

 「このテラスがお気に入りだものね」

 「コクコク...」

 「ネムもお気に入りだって言ってるよ」

 「最近はネムのあそび場みたいだからな」

 「コクコク...」


嬉々として右手を上げるネムの頭をフジニアは優しく撫でた。撫でられたネムはよっぽど嬉しかったのか鳥が軽やかに舞うようにロビー内を飛び回った。


 「相当嬉しかったみたいだね」

 「そうだな。仕事まで時間あるし、そろそろグリンの料理が出来る時間だろう。料理が出来るまで座って待つか」

 「そうだね。座って待とうか」


フジニアに手招きされて二人でテラスに座り料理完成のベルが鳴るまでネムの飛ぶ姿を見届けた。



 ベルが鳴りフジニアたちは料理長室に向かうとグリンが作った出来立て料理を仲良く食べた。料理を食べ終えたフジニアたちは各担当場所へ行き、食べ終えた食器類をサクッと洗い終えるとそそくさと乗客の料理を作り始めた。


 「それじゃあ、私もBARに戻るわ~。フジニア、きさらぎ、ネム~今日も一日お互いに頑張りましょうね!」

 「コクコク...」

 「ああ。お前もな」

 「ありがとう!カーナも頑張ってね!」


と言ったきさらぎたちにウインクで返すとカーナはBARへ入っていった。フジニアはロビーにきさらぎとネムは一緒に幽霊列車の入り口に向かい待機した。


 「よし、ついた!今日も一日頑張ろうねネム」

 「コクコク...」


近くに設置されている時計を見ると×時を指しゆっくりと幽霊列車が動き始めた。これから乗客の前世を解明する旅が始まると全員が思っていた。スピードを上げた幽霊列車がゆっくりと減速し止まった。


 「止まった着いた」

 「コクコク...」


幽霊列車が駅に着き前世を解明する乗客がやってくる。カーナとグリンで料理や飲み物でもてなし、フジニアときさらぎとネムで乗客の前世を解明するのだ。しかし、列車が止まり駅についても一向に扉が開かない。この異常事態にフジニアたちを動揺が襲う。一度ロビーに集合したフジニアたちは異変について話し合った。


 「どうして列車が止まったのに扉が開かないの?」

 「アナウンスもないわ~こんなのいくらなんでもおかしいわ」

 「原因が分からないよ」

 「反応が何もない。こんなの異常だ。何かが可笑しい...」

 「コクコク...」

 「「「フジニア...」」」

 「......」


この異常事態を悩んだ末にフジニアが下した判断_マジシャンに報告ことだった。地獄の門番として元管理人であるマジシャンはフジニアよりも知識が豊富で異常事態でも適切な判断をすることが出来る。その有無をきさらぎたちに伝えると話しを聞いたきさらぎたちは納得し、マジシャンに連絡を試みようとしたその時だった。激しい音と共に地震が起き車内は揺れた。


 「何だこの音!」

 「えっ何怖いよ!フジニア、きさらぎ、カーナ、ネム!」

 「ちょっとグリン。前が見えないわ!」

 「ママ...」

 「大丈夫だよネム」

 「きさらぎ!ネム!」


激しい揺れに幽霊列車の電気が点滅し数個のライトが割れる事態に見舞われた。カーナは机を掴み堪えていたが怖がったグリンが顔をに飛びついた。しりもちを着いたカーナは顔に飛びついたグリンを引き剝がすと慌てて机の下に隠れた。ネムは激しい揺れに怖がりきさらぎの足を掴んだ。きさらぎはネムが怖がっていることに気づくとしゃがみ込み頭を支えて抱きしめる。すぐにフジニアは二人に近づき二人を守る様に車掌服のマントで二人に被せ抱き寄せる。二人を庇うように上から覆いかかり揺れを耐えた。しばらく揺れは続いたが収まりロビーのライトが割れただけで怪我人はいなかった。脅威は去りフジニアは安堵のため息をした。


 「皆無事か?怪我はないか?」

 「コクコク...」

 「私は大丈夫だよフジニア。フジニアが私とネムを守ってくれたから」

 「なら良かった。カーナとグリンは無事か!」

 「なんとかね!怖かったけど怪我はしてないよ!」

 「私も何とか~。怪我と言ってもグリンが怖がって飛びついてきた時にしりもちをついた程度よ~」

 「「えっ!」」

 「それ大丈夫か?」

 「ごめんカーナ。びっくりして飛びついて怪我大丈夫?」

 「大丈夫よ。もう居たくないから~」

 「なら良かった。それにしても...」


フジニアは多い被さっていた二人から退けると車掌服のマントを外す。改めてロビーを見ると変わり果てたライトの残骸がそこら中に散らばっていた。


 「酷いなこりゃ...片付けるに手がかかりそうだ」


余りの惨状に唖然としているフジニアは現状を確認するため通路を見回すと案の定通路のライトは全て壊れていた。


 「こっちもか。前世を解明するはずなのに駅についてもアナウンスが鳴らない、扉も開かず乗客もこない、挙句の果てにライトが壊れてその後片づけか...」

 「まあまあ...原因は分からないし仕方ないよ。さっきの揺れでライトは壊れたけど皆無事だったんだから良しとしようよ」

 「それもそうだな...片付けるか」

 「僕、掃除道具持ってくるよ!」

 「危ないから私も一緒に行くわ~。私たちは掃除用具を持ってくるからフジニアたちは列車内の状況を確認してきてくれるかしら?」

 「分かった。カーナたちも気をつけろよ。被害の規模がまだ分かったないからな」

 「心配ありがとう~。フジニアの言う通り気を付けてるわ~。そっちはお願いね!」


カーナはフジニアにウインクをし、フジニアは手を振りきさらぎ、ネムを連れて列車内の被害を確認した。列車内はあちこち家具や物が崩れ落ち散乱していたが奇跡的に全て壊れてはいなかった。三人にで協力し元の位置に戻しながらBAR、料理長室、車掌室へ向かった。BARと料理長室は窓はおろかワインや皿すら割れておらずフジニアときさらぎは感心した。


 「驚いたな。流石と言うんべきか...グリンもカーナの担当するBARや料理長室はどこも被害はないとはな」

 「お皿の一つ、ワインの一つ割れていないなんて凄いね」

 「コクコク...」

 「あの二人...どこか抜けてたり落ち着いているようで隙が無いし裏が見えない所があるからな。少しぐらい被害はあると思ったが流石は幽霊列車の乗組員だな」

 「そうだね。私も感心したよ。カーナのワインもそうだけど仮に料理長室でお皿の一つが割れていたと思うとゾッとする」


 過去に料理長室でフジニア、カーナ、マジシャンの三人がグリンを怒らせた惨状を思い出したフジニアとネムはきさらぎの言葉に深く共感し激しく首を縦に振った。


 (そうだ...あの時のグリンは恐ろしくて生きた心地がしなかった。被害が無くて良かった...)

 (あの時にグリンは怖かったな。我ながら作った作品の登場人物がモデルだとしても怖かった。普段怒らない温厚な人が怒るとこんな怖いんだって思ったもん)


 「と、とにかく次の部屋に行くか?」

 「それもそうだよね。は、早く行こうか」

 「コクコク...」


料理長室をそそくさ出た三人は廊下に出ると安堵のため息がこぼれた。


 「はあ...何も悪いことしてないのに罪を犯している気分だったぜ」

 「そうだね...あちこち散乱している廊下が心無しか良く見えるよ。本当に何も無くて良かった」

 「そうだな。もし...何かあったらグリンにばれないように誤魔化すつもりだったし...」

 「「え...!」」

 「だってグリンだぞ!この料理長室にホコリの一カケラでもあれば...分かるだろう」

 「う、うん...鬼の形相で掃除し出すのが目に見えた」

 「まああいつは鬼じゃないからゾンビの形相か?」

 「どちらにしても怖えーよ!」

 「......車掌室いこうか」

 「ソウダナ...イコウ」

 「コクコク...」


料理長室から離れた三人は車掌室に着くと車掌室の中は無事でどこも被害は無かった。


 「良かった~!ベットもクローゼットも全部無事!」

 「散乱したり転倒している物が無くて本当に良かったな」

 「ええ!これで全部確認できたから一旦ロビーに戻ろうか」

 「それもそうだな...あれ?ネムは」


ネムを探すと二人が使用している机の傍に立っていた。名前を呼ぶが返事は無く何かに集中してこちらに気づいていない様子だった。二人は顔を見合わせるとネムの傍に行き覗くとネムがある物を見ていたことが分かった。そのある物とは"フジニアときさらぎの二人が映っている写真"だった。写真立てに入っている二人の写真を見ていたのだ。


 「ネム何して...これは私とフジニアの写真。見てたの?」

 「コクコク...」

 「成程なー。それで俺たちが読んでも気づかなったんだな」

 「コクコク...」

 「この写真気になる?」

 「コクコク...」

 「この写真はね。私がヴァンパイアの異形に転生して幽霊列車の車掌補佐として働くことになったその日に撮った写真なんだ。この時のフジニアは嬉しさと衝撃と悲しさの色んな感情がこみあげて全然写真取れなかったんだ」

 「仕方ないだろ。自分が魂を解放したとは言えもう二度と会えないと思っていたし、車掌じゃなくてただの死神になったんだ。前回悪魔のこともあって確実に殺されるか処刑だと思ってたんだぞ」

 「それが違くてマジシャンに連れて来られたと思ったら目の前で幽霊列車がやってくるわ、きさらぎ生きてるわ、ヴァンパイアの異形に転生して車掌補佐になってるわで脳内がキャバオーバーして感情グチャグチャで大変だったんだからな!」

 「それは...ごめんね。私もフジニアと二度と会えないと思っていたし、魂は地獄に送られるからもっとひどい扱いをされると思っていたし、転生してヴァンパイアの異形になると思わなかったよ」

 「あの時...本当は私も色んな感情がこみあげてきて大変だったんだ。でもフジニアの顔を見たら嬉しくて泣いちゃったよ」

 「俺もだよ...あの時はきさらぎに縋り付いて泣いたもんな。きさらぎの前では恰好付けたかったけど出来なかった」

 「その後幽霊列車に乗って仕事が終わったらマジシャンが来て撮ってくれたんだ」

 「俺が余りに泣くもんだから中々進まなくて奇跡的に取れたのがその一枚なんだ」

 「フジニア、かっこよく映ってるでしょ?」

 「コクコク...」

 「私も緊張してたんだけどフジニアが余りにも泣くし、写真を怖がるしで大変だったんだ」


 フジニアは元悪魔であるが写真は見たことが無く、写真家の異形のカメラを怖がってきさらぎとマジシャンから離れなかった。フジニア曰く_写真を取ると魂を悪魔に取られるという迷信を信じていたのだ。その話しを聞いたマジシャンは呆れて「お前は仮にも元悪魔だろう?元悪魔が迷信とは言え悪魔を怖がるなよ」と言うのに対し、フジニアは「マジシャンは地獄の門番だから平気なだけだ。元管理人ならそれぐらい分かるだろう」と駄々を捏ねる。いつまで経っても進まない状況に堪忍袋の緒が切れたマジシャンはフジニアを強制的に写真を取ることに決め引きずった。


 「マジシャン、待て!待て!待て!お前は悪魔か!」

 「それはお前だろう。俺はこの後地獄でやらなきゃいけないことでいっぱいなんだ。お前の駄々っ子に付き合うつもりはない。写真撮ってやるからこっち向け」

 「待って!それで撮ったら魂が!」

 「お前は死神でほとんど魂なんてないようなもんだろう?魂を管理する元悪魔が何言ってるんだ。ほら撮ってやる。3..2..1...」

 「あああああああああああああああ」


その後大量に撮られたフジニアは魂が抜けたように動かなくなりきさらぎに助けを求めた。きさらぎがフジニアの頭を優しく撫でて慰めてから約2時間後に写真を撮ることに成功したのである。


 「あれは怖い体験だった...」

 「まだ言ってる」

 「怖いもんは怖いんだよ!でも..まあ、こうして形が残るのも悪くはないけどな」

 「でしょ?ねえ、ネムこの写真いい写真でしょ」

 「コクコク...」

 「私、この写真お気に入りなんだ」


と言うきさらぎは首から下げているロケットを見せるとそこには"この写真"が飾られていた。幸せそうに見つめるきさらぎの手をネムは掴むと写真を指さした。ネムも写真に映りたいようで、二人はフジニア、きさらぎ、ネムの三人やカーナたち乗組員の皆で写真を撮る約束を決めた。


 「皆で取ろうねネム」

 「コクコク...」

 「わ、分かった...ネムの頼みだ。撮ろうな写真」


明らかに青ざめながらフジニアは言うとネムは喜び飛びついた。ネムを落とさないように支える。三人は車掌室を出るとロビーに向かった。


三人が扉を閉めて誰もいなくなった車掌室では醜く鈍い音が小さき響く渡る。それが限界に来た時パリンと何かが割れる音がする。割れたのは【フジニアときさらぎが映った写真】だった。きさらぎの部分だけが割れており写真立てがパタンと音を立てて倒れた。


 その数分後_マジシャンが幽霊列車にやってくる。さらに数分後_悲劇は起きた。






 


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幽霊列車〜前世の旅 《冥界の旅編始動》 時雨白黒 @siguresiguro

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