第3話 俺の息子が小学校に入学する件について
小学校の入学式の日になった。
最近にしては珍しい学校指定の制服を着て、黒のランドセルを背負った勇人は背筋を伸ばしながら鏡の前で身だしなみを整えていた。
「ふむ、いい感じだな」
「あぁ、似合ってるぞ」
この数日で勇人と色々と話した結果分かったのはどうやら勇人は人間を支配することを目的としているらしい。支配とはこの世界の人間ではなく元居た世界の方の人間でこの世界とは別らしい。しかし、今はまだ魔力が全快ではないらしいことだ。異世界で魔王をやっていた時の10分の1程の魔力しか回復しておらずこのままでは戦闘どころか世界を渡ることも出来ないのだそう。
ここだけ聞くと中二病極まれり、って感じだが目の前で色々な魔法を見せられると信じるしかない。
この数日は勇人の好意で会社までテレポートで送ってくれている。朝の満員電車にゆられることなく快適な出社が出来るのは本当に素晴らしい。
「では行くとするか」
勇人はそういうと目の前に手をかざして魔法陣を展開した。最近見慣れてきたテレポートの魔法陣だ。
「ちょ! ちょっとまった!」
「? なんだ。忘れ物か?」
「テレポートは駄目! さすがに歩いて行かなきゃ」
「なんでだ? 歩く意味が分からん」
「いつも送ってもらっててなんだけど通学は歩いて行かなきゃ。じゃないと勇人の正体がバレちゃうよ」
「あー、そういえばこの世界には魔法が無いんだったな。つい癖でなんでも魔法で解決しそうになるな」
この数日で世の中の常識を一から叩き込んだが今だ魔法を日常的に使うことが当たり前のようだ。
ちなみに俺に前世のことをばらすまでも結構魔法を使ったりしていたらしいのだが俺と妻はまったく気が付かなかった。前提に「魔法」がない以上何か都合がいいことがあっても偶然やラッキー位にしか思っていなかった。
「幼稚園はバスが迎えに来るのに小学校は徒歩なのか」
「体力を付ける目的もあるからね。運動不足にならないように毎日歩くんだよ」
「なるほどな。これほど科学が発展していると確かに自堕落になってしまうな」
どうやらテレポート通学は見直して貰えたみたいだ。
「勇人~準備できた~?」
そんな話をしていると出発の準備をしていた妻が部屋へと入ってきた。
「あら、いいじゃない! カッコいいわよ!」
「ありがとう。母もいつもより綺麗だな」
「あら、も~どこでそんな言葉覚えて来るのかしら。照れちゃうわ」
ほっぺたに手を当てながらくねくねしている。
「それじゃあ行くか」
出発前にバタバタしてしまったが早速入学式へと出かけた。
〇〇〇
道中無事に小学校へたどり着いた我々家族一行はクラスを確認して1年1組の教室へと入室していた。
黒板に張り出された座関表をもとに勇人は自分の席について机の横にランドセルを掛けた。俺たち親は教室の後ろで待機だ。既に教室には10名近い生徒が来ており、その親たちも教室には入りきらず廊下まではみ出してしまっている。
「こっちが緊張するわね~」
全然緊張感の無い声で妻の瞳が俺に話しかける。
「勇人がクラスで浮いてしまわないか不安だ」
なにせ異世界の魔王様だ。肩書が段違いだ。既に他の生徒とは違った雰囲気をまとっている。
ほかの生徒たちは緊張からか落ち着きなくキョロキョロと辺りを見まわしたりそわそわしているのに対して、勇人はどっしりと椅子に座り腕を組んで生徒がそろうのを待っている。もう既に周りから浮いている。
「あの子なら賢いから大丈夫よ~」
あの姿見てなんでそんなこと言えるの?
どう見ても小1の貫禄じゃ無い息子を微妙な心持で見てると残りの生徒たちが入室してきた。最後に教師が入室し教壇に立つ。
「皆さん、入学おめでとうございます!」
元気よくあいさつをした教師はパリっとパンツスーツにみを包んだ若い女性の先生だ。
通る声でのあいさつだったのでそわそわしていた生徒はビクッっとして慌てて前を見る。
「これから体育館で入学式があるので出席番号順で廊下に並んでもらいます。皆さんは私について行動してください」
やや硬そうな説明を見るに新任の教師なのだろう、とてもマニュアルっぽい話し方だ。
「保護者の方は先に体育館へ入っていて下さい。写真は自由ですが通路の妨げになるような場所での撮影などはご遠慮してもらえると助かります」
その他諸々の注意事項を伝えた後保護者だけが先に教室を出て体育館へと向かった。
俺は教室を出る際にもう一度勇人の方を向くと教師が目の前にいるというのに偉そうに腕と足を組んでひょうひょうとした姿に不安を覚えるのだった。
異世界魔王が俺の息子に転生した件について こめかみと @kome-kamito
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