何を食べるかよりも、どう食べるか

 ビジネスパーソンに限らず、私は仕事柄よく「ご飯は何を食べればよいですか?」とご質問を頂きます。これに対して私はいつも「普段何を食べていますか?」と質問返しをします。これはなにも意地悪ではなく、これが分からないことにはアドバイスのしようがないからです。巷に溢れるダイエット本や、ダイエットアドバイザーを名乗る人たちからは、こういった現状把握というプロセスを無視した状態で話が進められていきます(もちろんまともな人もたくさんおられます)。

 これはビジネスにおいても全く同じことだと思うのですが、「どうやったら稼げますか?」と聞かれても、現状どれだけの仕事があって、どんな仕事をしていて、それがどんなクオリティなのかが分からないとアドバイスできませんよね。これを無視して「こうやったら稼げる!」と言ってしまえばそれはたちまち詐欺まがいのコンサルティングに成り下がります。

 そしてこれもビジネスと共通ですが、「どうなりたいのか?」が分からないと何とも言えません。現状把握と共にあるのは目標設定ですね。その目標も俗にいう5W1Hが明確化されていないとうまく作ることは出来ません。ビジネスパーソンであればこのことは痛いほどご理解されているでしょうから、私から口うるさく言うつもりはありません。ただ、食事についても同じことが言えるのだということを頭に入れておかれるとよいでしょう。

 さて本章の本題に入りましょう。本章のタイトルは「何を食べるかよりも、どう食べるか」。例えばあなたが今朝ごはんに食パンを食べているとしましょう。この食パンを食べるということがよいのかどうかは、また後で述べるとします。その食パンをどうやって食べていますか?これはバターを塗っていますとか、そのまま食べていますとか、焼いていますとか、そういう調理法についてではなく、まさにどんな状況で食べているか?です。ある人はバタバタと朝の準備をしながら食卓に着くことなく食べているかもしれませんね。或いはとりあえず朝の情報番組を見ながら食べているかもしれません。まずもって問題はこういうところに存在します。

 人間は食事をする際には“食事のスイッチ”を入れる必要があります。“食事のスイッチ”とは簡単に言えば、食卓に着いて、背すじを伸ばし、手を合わせて「いただきます」ということです。なんだそんなことか、と思うなかれ。ここの“食事のスイッチ”を入れる作業を怠ると、人間は食べたものをうまく消化できないのです。「あ、今からご飯食べるんだね、OK!準備するね!」と身体に準備してもらうことが大切なのです。

 確かに朝はバタバタしがちです。ビジネスパーソンと言っても、お子さんがいらっしゃる方もおられるでしょうし、1人暮らしの人もおられるでしょう。いずれにしても朝は忙しい。駅に向かう途中で何かを食べている人も偶に遭遇します。まずはこういった食べ方を改めるところから「Shi-ZEN Style」は始まります。

 これは何も朝食に限ったことではありません。多忙なビジネスパーソンは、昼休憩の食事もメールを返しながら、或いはスマホをいじりながら食べている人が多いようです。私もフィットネスクラブの社員をしていたことがありますが、例えばレッスンやパーソナルトレーニング指導の仕事をしていると事務所でPCをチェックする時間がありません。そうすると事務所に戻れるのはシフト上休憩の時のみ。「休憩入りまーす」と言いながら、おにぎりを頬張りつつ業者さんへメールを返したり、上司に報告メールを送ったり、部下のメールに返信をしたり、そんなことは日常茶飯事でした(フィットネスクラブなのに!苦笑)。

 夕食にしてもそうかも知れませんね。帰宅して食卓に着いたのはいいものの、楽しみにしていたドラマを見ながら、或いは最近では動画サイトを見ながらご飯を食べる人は少なくないでしょう。現に、とある「健康定食屋」では普段からテレビが流れていて、しかも同時にラジオが流れています。その中で客の多くはスマホの画面に噛り付いていて、もうご飯を食べているのか何をしているのか分かったものではありません。

 この様に“食事のスイッチ”を入れることなく、食べ物を口に入れるなんてことが日常化してはいないでしょうか?どれだけ健康に気を遣った食材を選択していても、食事のスイッチが入っていない状態ではまともに消化吸収が行われません。この点についてもう少し詳しく見ていきましょう。

 消化吸収のプロセスは咀嚼から始まります。つまり噛むことが全ての始まり。食べ物を噛むと唾液分泌されますが、唾液こそが最初に分泌される消化液です。テレビやスマホを見ながら食事をすると咀嚼回数が顕著に減少することが分かっています。つまり唾液の分泌も減少するのです。

 消化吸収の次のプロセスは、食道を通って胃での消化です。ここから先は私たちが意識的に何かできる範疇を越えてしまいます。自分で胃液の分泌をコントロールできる人はいませんし、その先にある小腸や大腸のこともコントロール不能です。ですから私たちがこの消化吸収のプロセスにおいて何が出来るかと問われれば、よく噛んで唾液を分泌するようにすることしかないのです。もちろん胃や腸を適切に働かせるためにできることはありますが、その働きかけも特殊な手術等を行わない限り、まずは口を通って何かを入れなければ何ともなりません。

 消化器と呼ばれるものは簡単に言えば、口、食道、胃、小腸、大腸です。最後に直腸を経て肛門から便が出るわけですね。繰り返しになりますが私たちが基本的に触れられるものは口ですね。肛門を触ることは出来るかもしれませんが、そこから食べ物を入れるわけではありません。どう考えても口が大事。でも当たり前すぎて忘れてしまっているのです。ですからとりあえずよく噛んでください。

 先述の通りテレビやスマホで見ているものに集中すれば集中するほど咀嚼回数は減るとされています。映画館で映画に集中しすぎていてポップコーンが映画の序盤でなくなってしまって絶望した経験がある人も多いはずです。これは別の視点から考えると、食べることに集中しないで食べている状態、すなわち「ながら食い」をしていると食べる量が増えてしまう可能性が高いということを示唆しています。これは特に自宅で食べる夕食で起こりがちです。朝食はそもそもバタバタしていて食べる時間がなかったり、昼食は仕事中なので物理的に食べる量に限界があったりしますが、夕食はその制限がないことが多いはずですね。ですから夕食を食べる時はテレビやスマホをオフにして、“食事のスイッチ”を入れてよく噛んで食べることに集中すること。「ながら食い」をやめるだけで問題の多くが芋づる式に解決されていく可能性は非常に高いのです。

 ちなみにこれは私の個人的な取り組みですが、もはや我が家にテレビはないのでテレビを見ながら食事を摂ることはまずありません。そして仕事上お客様と連絡を取ったりSNSを触ったりすることが多いのですが、食事の時は身体から離しておくようにしています。唯一触るとしたらブログなどで使う献立の写真を撮影する時ぐらいですが、ブログ等の更新は食事を終えてひと段落してからするようにしています。

 「何を食べるかよりも、どう食べるか」。これはもしかすると多忙なビジネスパーソンの皆様にとっては何より大切な投げかけだったかも知れません。次章ではもう少し詳しくどのようなものを食べることが良いと考えられるのかについてご紹介していきます。

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