Shi-ZEN Style~ビジネスパーソンの食事術~

まえだたけと

はじめに

 日々飛び交うメールやLINE、その他メッセージ。休みの日でも容赦なくそれらに被弾する時代。そして仕事と言えば今や何か職人的な仕事をしていない限りは、PCやスマートフォンを手放すことは出来ません。つい数年前まではミーティングと言えばMeetingですから文字通り直接会って行うことが主流でしたが、コロナ禍の影響もあってzoomでのミーティングが一般化し、それすらもオンライン化しました。

 この期に及んで、全てのやり取りを電話やファックスでやり取りするなんて面倒で仕方ありませんし、遠方にいる人とリアルタイムで意思疎通がしやすくなったという恩恵は私たちの生活を豊かにしたとも言えるでしょう。

 しかし私たちはこのデジタルな社会に侵されている、いや溺れていると言っても過言ではありません。過剰に浴びるブルーライトは自律神経系の働きにエラーを生じさせ、移動を伴わない生活によって過度な運動不足に陥っています。さらには休憩時間や休日においてもSNSのチェックの為にスマホが手放せない人は少なくないでしょう。

 本来人間というのは地球の、或いは宇宙のリズムと共にあります。太陽の光で目覚め、陽が沈めば休む。時に自然の脅威に晒されながらもその恵みを命とし、命とならなかったものはまた自然に返します。特に我が国日本は自然災害大国ですから、その自然と向き合い続けてきましたが、いつの間にか西洋的な考えが入ってきたことによって自然に対して立ち向かうという姿勢へと変容してきているようです。もちろん自然災害を最小限の被害に留めることは国防の観点から見ても重要なことではあるのですが、自然をコントロールしようなんて愚の骨頂です。

 冷静に考えて自然に勝てるわけなんてありません。そういう意味では自然と真摯に向き合うことと、敵対心を持って立ち向かうことには大きな差があることがお分かり頂けるかと思います。それは2011年の東日本大震災を始めとする自然災害を思い出せば理解できるはずです。いやそんな極端な事例ではなくとも、夏は溶けるほど暑いかと思えば冬は凍えるほど寒いですね。梅雨になれば雨が続きますし、日照りが続くこともあります。海は波が常に寄せては引いていて、凪が続くこともありません。常に自然は何かしらのリズムを持って、私たちに恐怖と恵みをもたらすのです。

 現代人はまずこの事実を改めて認識すべきであると考えています。何もネガティブなことだけではありません。今、ちょうど桜の開花の季節にこれを書いていますが、日本人なら桜は美しいと思うでしょう。夏の海は美しく心地よく、秋の景色だって美しい。豪雪地帯にとって冬は大変なご苦労があるでしょうが、それでも雪原のことを銀世界と比喩するように、私たちは季節ごとに美しさを感じる感性(センス)を持ち合わせています。それはひとえに私たちも自然の一部だからです。

 例えばキャンプに行ったとしましょう。私は昨今のキャンプブームの遥か前に本気のキャンプをしてきた経験がありますから、キャンプというのは非常に良いアクティビティであると確信しています。まず目覚まし時計なんて必要ありません。何故なら太陽が昇れば眩しくて自然と目が覚めるからです。仕事の時間に合わせて設定された目覚まし時計で起きると不快で仕方ありませんが、太陽と共に起きた時は何とも言えない心地よさに包まれた朝を迎える事が出来ます。火をおこし食事を作ります。水は清流を汲んでくるのですが、その水の冷たさと言ったらこれまた心地よく、顔を洗おうものなら誰だったシャキッと目が覚めます。飯盒で炊いたご飯も、味噌汁もその水を使うのですから美味しくないわけがありません。煙が少々目に染みるかもしれませんが、ブルーライトよりはマシでしょうか。そして鳥のさえずりをBGMに朝食を頂きます。食器の片づけは自然を汚してしまわないように最大限の配慮をします。水道へ雑に残飯を流したりすることもありません。もし生ごみが出ればかまどの日で燃やしてしまえばよいでしょう。その後もゆったりと時間が流れます。きっとスマホを見たいとは思わないはずです。

 キャンプ場によっては退去する時間が決まっているなど、何かしらの時間制約がある可能性はありますが、都会の電車の様にそれは厳しくありません。むしろちょっとくらい時間が遅れようと皆心穏やかにキャンプを楽しんでいるでしょうから、そんなことで怒り狂う人もいないはずです。

 さて、何が言いたいか。私たちはデジタル化された社会の中で、とんでもなく便利な武器を手に入れたそのトレードオフとして、自然な何かを失ったということです。少し不謹慎ですが海で溺れるというのはある意味では自然でも、デジタル社会に溺れるというのは不自然極まりなく、かつ自業自得。自然には勝てませんが、所詮人間が作り出したデジタル社会から逃れるのは難しくとも、溺れるまでには至らないで済むように工夫が可能なはずです。ちなみに海では溺れればすぐさま命を落としますが、デジタル社会では溺れてから命を落とすまで相当な時間がかかります。私はこれを“緩慢なる自死”と呼んでいます。また先に「侵されている」のではなく「溺れている」と表現したのも、スマホやPCは自ら私たちに襲い掛かって来るわけではないからです。明らかに自らその沼にハマり、溺れていっているのです。これは自死の序章なのです。

 今回は「ビジネスパーソンの食事術」ということで、皆様がより健康にそしてより豊かに仕事を進めていく為に、何が出来るかをご紹介して参りますが、まず全体的な概念からお話を進め、具体的な献立やテクニック等は後半に記すこととしました。私の意図としては概念を共有してからテクニックを実践して頂きたいということですが、多忙なビジネスパーソンの皆様にとってそれはまどろっこしいかも知れません。連載シリーズですがそれほど長引く予定ではありませんので、完結した暁には後ろから読んで頂いても大いに結構です。

 全編通してのキーワードは「自然」です。自“然”体へ回帰することで、心身の状態を改“善”することができます。そこに“全”身運動を取り入れれば、人生は“前”進すると私は信じています。この、然、善、全、前の4つのZENを包括した「Shi-ZEN Style」が、私の提唱する健康法の中心となる概念です。この概念が理解できればデジタル社会で溺れ、“緩慢なる自死”を招くことはありません。

 それは他でもない私たちにあるはずの感性(センス)を取り戻す旅でもあるのです。


 そうだ、申し遅れました。私はパーソナルトレーナーのまえだたけとと申します。普段はプライベートジムで、経営者、会社員、主婦、その他様々なお仕事をされている方々に対して、ボディメイクや、不定愁訴の改善、身体の使い方と言ったことをテーマにパーソナルトレーニングセッションをご提供しています。また専門スポーツは陸上競技の短距離でして、そのご縁で陸上競技選手に対して指導する仕事も承っています。ですから実は食事に関しての専門家なのかと言われると、それは違うという答えになります。栄養関連の資格を持っているわけでもありませんし、自炊はしますがそれで店が出せるレベルではありません。

 しかし身体作りも不定愁訴の改善も、スポーツのパフォーマンスアップも食事に関することを抜きには語れませんから、簡単なアドバイスは常日頃から行っています。これはビジネスパーソンがより良い仕事が出来る為にも、食事に関することを蔑ろにすることは出来ないことと同じです。ですからパーソナルトレーナーとして食に関することは当然勉強をしていますし、より実践的なアドバイスが出来るように心掛けています。そうでなければこんなものは書きませんね。

 さて昨今では栄養学にしても他の学問にしても、研究が進みすぎて細かいことが分かりすぎています。研究者としてはそれでよいのかも知れませんが、そうでない人間にとってはそんなに細かいことが分かったところでどうしようもないという現状があります。しかも最近ではそんな細かいデータを導き出した論文や研究データがネットを介して手軽に読めるようにもなっていて、あらゆる指導者と呼ばれる人間が「こんなエビデンスがある!」とたちまち騒ぎはじめ、一般人を混乱させている風潮があります。確かに細かいことが分かるのは今後の為にも良い側面があるのでしょうが、そんな細かいことばかり気にして日常生活を送るのはいかがなものかと思います。栄養素のバランスや食事のカロリーを常日頃から計算して、毎日体重計に乗って、日々の運動のデータを細かく分析するなんて、普通の人からすればストレスでしかありません。

 先に申し上げた通り、私たちは既に多大なストレスに晒されがちな社会に生きています。本書の目的はそんな無駄なストレスから解放され、必要なストレスのみを成長の糧にする為の思考を手に入れることです。

 それでは「Shi-ZEN Style」によって、感性(センス)を取り戻す旅を始めましょう。

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