カエル
川谷パルテノン
「お父さん、絶対泣くわよ」
そう言っていた母が泣いている。きっとそれはここに来れなかった父のぶんも含んでいるんだと思う。わたしは今日結婚する。相手は父とは似ても似つかない人だ。優しくてちょっと頼りない。引き出物を何にするかもずっと迷って結局わたしが決めた。
わたしが小さい頃に家の近くの池までカエルを捕まえに父と行ったことがある。わたしの中でカエルはアオガエルのような、小さくて綺麗な色の可愛い生き物だったけれど、父が両手に掴んでいた太ったウシガエルは今でもトラウマでわたしの中のカエルが更新されてしまったことをどこかでちょっと恨んでた。父は普段から物静かな人だけど怒ると怖くて、何かと厳しいことも言われた。そんな父のことをあらためて考えると、あの時ウシガエルをわたしに見せてくれた父の笑顔は善意としてだったんだろうと思う。最後までそのことを感謝出来なかったわたしの後悔は小さな小さなしこりではあったけれどずっと残ってしまうんだろうなと思った。
わたしのドレス姿を見て母は泣いた。生前、父がもし結婚式に出れなかったら、もし自分が生きていなかったら、その時は遺影なんて持って行くなよと言い遺した。辛気臭くなるからって。だけど今はまだ控室で、わたしと母でここでならいいんじゃないなんて話して、一応彼も呼んで四人だけにしてもらった。わたしはそこで父にあらためて彼を紹介する。はじめて会ったときはまだ元気だったもんね。正直反対されるかもって思っていたから彼もビビっちゃって、何話したか覚えてないからあらためてよろしくお願いしますって言いたいんだって。それも意味わかんないよね。ねえ、お父さん。やっぱり泣いてる。それとも笑ってくれますか。あの日、カエルを見せてくれたみたいに。
カエル 川谷パルテノン @pefnk
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