【KAC202211】人類移住計画

リュウ

第1話 人類移住計画

 ある日、父が大きな段ボール箱を持ってきた。

 父は、リビングの床に段ボールを置くと腰に手を当てストレッチをしていた。

 重かったらしい。

 僕と母は、また何か買ってきたと段ボール箱の前に近づいた。

 そんな、雰囲気を察したのか父が僕らを見回した。

「私のじゃないよ。親父の遺品だ。要るものがあるか見てくれ」

 と、言って段ボールを開けた。

 僕と母さんが覗き込む。  

 父の親父、つまり、僕のお爺さんに遺品。

 亡くなってから、三か月たっていた。


 高級そうなカメラ、ゲーム、プラモデル、フィギア人形。

 僕の好きな物ばかりだ。

 段ボール箱の中には、色々なものが入っていた。

 母には、ガラクタにだけど、僕には宝箱に見える。

 一つ一つ取り出し、親父らしいとか、懐かしいと母と父の声が上がる。

「こんなものまで」母が取り出したのは、小さな頃の父が描いた絵や工作だった。

 父はそれを手に取ると遠くを見るように眺めていた。

「見せて、見せて」と僕は父から取り上げた。

 僕の方が父より上手だと思ったが、言わなかった。

「欲しいものあったら、持って行っていいぞ。

 でも、お爺さんの形見だから、大事に出来ないならやめておけ」


 箱の隅に本らしき物があった。

 手に取ってみる。

 本だ、珍しい。本物の本だ。

 今の世の中、本なんてものは存在しない。

 すべて電子化されている。

 人工の革張りで、開いた表紙の裏紙は、色鮮やかなマーブル模様だった。

 素敵だと僕は感動していた。

 開いていくと、どうやらお爺さんの日記帳だとわかった。

 かなり小さい頃から書かれていたみたいだ。

 手で書かれた文字は、綺麗に並んでいて、芸術作品の様に見える。

 これは、小説より面白いかもしれないと僕の興味は広がる一方だった。

 僕は、服の下にそっと隠して、自分の部屋に部屋に持ち帰った。

 父に話すとダメだと言われる気がしたからだ。


 僕は、部屋に入り、椅子でドアを塞いだ。

 僕は、ベッドに腰かけて読み始めた。

 当たり前だが、お爺さんも僕のような子どもの時があって、同じような悩みや遊びをしていたようだ。

 でも、昔の様子や道具が今と全然違っていて、知らない単語や言葉が出るたびネット検索することとなった。

 ある単語が、僕の心を引き付けた。

 それは、”人類移住計画”だ。

 新聞の切り抜きが挟んであった。


”政府、人類移住計画を正式に公表”の見出しだった。

 核を使った世界大戦が勃発寸前である。

 今の移住先は、月や火星が挙げられているが、78億人を移住するには時間と資源と金がかかりすぎるということ。

 そこで、考えられたのが、パラレルワールド移住計画だった。

 我が国は、独自のテクノロジーでパラレルワールドの作成に成功した。

 後は、どのように移住させるかであった。

 我が国は、国民に日記を書くことを推奨した。

 今、居る世界を細かく観察しろと言うことだった。

 看板でも有名なランドマークでも良い。

 とにかく、描写は細かければ細かいほど良いと。

 少しでも、その世界に違和感があれば、それが、パラレルワールドだと言う。

 違和感の代表的感覚は、デジャヴだ。また、様々な霊現象も当てはまると。

 そこに出来るだけ長く滞在すると自分がその世界に定着するのだと。

 政府が作成したパラレルワールドには、いくつかの印を残したと書かれていた。

 僕は、そんな映画みたいなことがあるのかとワクワクしていた。

”墓の矢印の方向を見よ”

 と赤色の走り書きがあった。


 僕は、確かめたかった。

 部屋を出て、リビングにいる父を捕まえた。

 父は、遺品の汚れを取っているところだった。

「父さん、これ」

 父は、日記を受け取った。

「何処にあった?」

「段ボールの中」

「日記だな」

 パラパラとページをめくった。

「あのさ、父さん。ここに書いてある”人類移住計画”っていうの、本当なの?」

 僕は、新聞の切り抜きを広げた。

「人類移住計画?

 ああ、いろんな説があってさ。ネットでは、めちゃくちゃ情報があるんだ。

 爺さんは、超自然とか変な生き残った動物がいるとか、お化けとか好きだからな」

 父は、納得していない僕の顔を見た。

「本当は、わからないんだ。人類が何処から来たかなんて」

 僕の頭を撫ぜた。

「気になるのか?お前はお爺さんに似たんだな」

 

 急にお爺さんのお墓参りに行きことになった。

 父の思い付きだ。

 母は、早くいってくれればと、文句を言いながら用意を始めた。

 僕は、リュックに日記を入れると、父さんの後を追った。


 自動車で一時間くらい。

 コンクリートの街からどんどん離れていく。

 川沿いの道を上っていく、木でモコモコした山に近づいていく。

 トンネルを抜けると、別世界が広がる。

 山の中だ。空気の匂いまで一機に変わる。

 僕は、車の窓を開け、深呼吸する。

 気持ちいい。

 ずーっと昔の人間も同じようにここの空気を吸っていたのだろうかと考えると、心が躍った。


 霊園に到着した。

 色々なお墓が整然と並ぶ。

 こんなに人間が死んだ証拠だ。

「これだな」

 父が、お墓の前で止まり、お墓の掃除を始めた。

 僕も掃除を手伝った。

 墓石の真ん中に小さな矢印が彫られていた。

<これは、何だ?>

 そういえば、この霊園に来た時、何か気になっていた。

 碁盤の目の様に墓が並んでいない。

 周りの墓を見てみると、一点に向かっている気がした。

 中心があるはずだ。

 墓に小さな矢印の方向を見つめた。

 四角い板のようなものが目に入った。

 僕は、吸い寄せられるようにその板を見に行った。

「何処に行く?遠くに行くんじゃないぞ!」

 父の声が、背後から聞こえる。

「わかってる!」

 僕は、振り向かずに答えた。

 何かのモニュメントらしい。

 この墓石の紛れていりので、気が付かなかった。

 石板を眺めながら、指で計測してみる。

 絵の構図を見る要領だ。

 厚さを1とすると、横4、縦が9の比率だった。

 これは、どこかで見たことがある。

 1:4:9

 思い出した。それは、

<モノリス> だった。


 石碑の足元の説明書きの汚れを除くと、文字が現れた。

 ”ここは、安全な世界だ。”

 と、彫られていた。

 僕は、石板を見上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC202211】人類移住計画 リュウ @ryu_labo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ