第120話
双方から事情を聞いたシュヴァルの対応は、迅速だった。
「成程、事情は大体わかった。ミウ、チーム【銀の一角獣】の依頼主のところに、大至急手紙を書け。ことの詳細を確認したい。場合によっては、ブレンダの町の冒険者ギルドに来てもらうから、その辺もちゃんと書け。ドゥ、お前にはちょっとひとっ走りしてもらう。ミウが書き上げた手紙を、郵便局に届けてこい。以上、各々早く取りかかれ!」
「わかりました!」
「りょーかいです!」
「ま、待てよ!」
イリアスの声に、焦躁が交じる。
「こっちは被害者なんだぞ!? 装備はこんなんだし、従魔には逃げられちゃったし」
「話を聞く限り、それはお前たちの過失だ。対し、こちらは書面で交わされた正式な依頼であり、金銭と信頼が絡んでいる。それに第一、冒険者ギルドは冒険者同士の争い事に介入しない方針だ」
「で、でも!」
「話は以上だ!」
取り付く島もないとは、このことだ。チーム【ホーリーアックス】は、がっくりと肩を落とした。
「……パパに言いつけてやる!」
「それと、デッド・スワロゥ。ちょっと来てくれ、話がある」
負け犬の遠吠えは、勿論、届かなかった。
「適当に座ってくれ」
そこは、広い部屋だった。
椅子が乱雑に並べられ、中央には大きなテーブルがでんと置かれている。
まだ冒険者になりたての【名無し】の剣士は知らないが、ここはギルドの会議室だ。主に、ギルドの職員たちが意見交換や審議を行う場所だ。
椅子へと腰を下ろすと、シュヴァルはその向かいに座った。
「顔を合わせるのは初めてだな。シュヴァル・エステベスだ。ブレンダの町の冒険者ギルドマスターをやらせてもらっている。話というのはだな……って、何故部外者がいる? 俺が呼んだのは、デッド・スワロゥだけなんだが」
「こいつが冒険者になって日が浅いから、ギルマスは知らないかもしれんけど、こいつはちょっと訳ありでね。喋れねぇのよ」
ビリーの一言に、シュヴァルは目を丸くする。
「……なんだと?」
「だから、この俺ビリー・ザ・キッドとその愉快な連れであるキリちゃんが、代わりに受け答えすべくここにいるのだよ」
「本当か?」
実際そうなので、頷く。
よくよく考えたら、ビリーとキリがいてくれてよかったと思う。
助言なら、ディスコルディアから受けれられるけれども、それを生かすことは何もできないのだから。
「そうか。なら、きみたちには受け答えの仲介を頼みたい」
ビリーは鷹揚に、キリは真面目に深く頷いた。
「早速だが、単刀直入に言う。デッド・スワロゥ、ランクアップ試験を受けるつもりはないか?」
『ランクアップ試験?』
「冒険者ギルド入会の時に聞いたはずだと思うが、冒険者ってのはランク制だ。Fは初心者であることの証明、EとDは経験者、CとBは腕利き、AとSはベテラン。ランクを上げる条件は、貢献度や活躍、依頼達成率ですべて決まる」
【名無し】の剣士が頷くと、シュヴァルは言葉を続ける。
「Fランクは文字通り、最下位のランクだ。初心者、冒険者のタマゴ、駆け出しの称号だ。報酬もそんなに出ないし、回ってくる仕事も小さな雑務がメイン。だが」
シュヴァルは言う。
「ランクアップ試験を受ければ、仕事の幅が広がる。報酬も上がる。人脈も広がる。それに」
「ダンジョンか」
シュヴァルの言葉を、ビリーが遮る。
「確か、入ることできるのDランクからだったっけ?」
「ああ、そうだ」
『ダンジョン?』
聞き慣れない不可解な言葉に、【名無し】の剣士は目をぱちくりさせる。
『なんだ、それ!?』
「フーフフフフ♪ では、この【魔神】ディスコルディアが分かりやすく教えてやろう」
ふわり、と。
ディスコルディアが目の前に降り立つ。
「ダンジョンとは、一言で言うなら、迷宮だ」
『ギリシャの古い伝説に登場する建造物みたいなもんか?』
「いいや」
ディスコルディアは言う。
「あれは伝説である前に、そもそも人によって造られたものだ。この世界におけるダンジョンは違う。ダンジョンは、自然に生まれるのだ。不定期にな」
『生まれる? 建造物が!?』
なにも分からない【名無し】の剣士は、地面から建物がタケノコみたくにょきっと生えて、屋久島の杉みたく太くなりながら、宗教画に描かれるバベルの塔みたくにょきにょき成長していく様を想像した。
『気持ち悪いな』
「……なにか変な誤解しているようだから、きちんと教えてやる。質問は、どしどし受け付けよう」
そして、ディスコルディアが言うにーー
「ダンジョンは、基本、地中に生まれる。【ダンジョンコア】と呼ばれる、超高濃度の魔力を帯びた宝石を中心に生まれるのだ。そして、時間と共に入り組んだ迷路を形成しながら、ダンジョンはどんどん成長していく。この世界を侵食しながらな」
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