第112話


 スライム。

 それは、【異世界】では割とポピュラーな存在である。

 グミ状の、ぷよんぽよんなまんまるボディを持つ魔物。

 生息域は非常に広く、森や草原、山に荒野に砂漠、洞窟にダンジョン――人が住む場所以外であれば、大抵どこにでもいる。

 とにかく、どこにでも出る。

 見た感じ、無害そうに見えなくもないのだか――


「結構、多いな……」

「厄介だね、全部片付けられればいいけど」

「これは、かなり分裂してるな」

『分裂?』

「スライムは、弱い。だが、やや特殊な生体を持つために、厄介な魔物と見られている」


 ディスコルディアが見る限り、不安そうに言葉を交わし合うチーム【銀の一角獣】の面々の様子に、【名無し】の剣士は「?」な様子だった。

 わからなくもない。

 ディスコルディアが知る限り、スライムは魔物の中でも最弱の部類に入る。

 見た目も相まって、スライムは一見、無害でか弱い存在に見えるだろう。

 

「まあ、見ているがいい」


 唐突に――


「みみみみみみっ!!」


 スライムの一匹が、ぶるるっ! っと大きく震える。


「みみみみーみーみっ、みっみみー!」


 そして――


 ぼぼーんっ!


 文字通り、二つに分かれる。

 分裂し、一体だったスライムが、二体になる。


『……は?』


 あまりの非常識な光景に、【名無し】の剣士は文字通り開いた口が塞がらなかった。


「あの面々も言っていただろう、分裂すると」


 ディスコルディアは言う。


「最弱の魔物故に、ああして種の生存を図るのだ。故に、見つけたら倒し尽くせ。でないと、どんどん増えまくるぞ」






「よし、行くぞ!」

「応っ!」

「わかった!」


 先に動いたのは、チーム【銀の一角獣】の面々だった。

 アランは長剣を抜き、ブロッソンはメイスを構える。ジーヴィーは杖を握りしめる。

 三人は頷き合う。

 先にブロッソンが。次いで、アランが、飛び出す。ジーヴィーはそのまま待機。


「どおおおりゃあああ!」


 掛け声と共に、メイスが振るわれる。

 ぼしゅっ! ぼしゅっ!

 水が詰まった風船が、思い切り割れるような音だった。スライムが潰れる音は。


「みみーっ!」

「みみっ、みーっ!」


 屠られた仲間の姿に、運良く無事だったスライムたちは憤りの声を発する。

 怒りのまま、ブロッソンに飛びかかろうとした。

 だが――

 ばしゅっ!

 そいつらは、真っ二つになる。

 アランだ。


「はあっ!」


 気合の声と共に、長剣を振るうアラン。

 ブロッソンが対処できなかったスライムたちを、叩き斬っていく。


「みみー! みーみみみ!」

「みっ! みみみみみ!」


 スライムたちは、次々と倒されていく。






 チーム【銀の一角獣】の戦いを、ビリーは真剣な眼差しで見物していた。

 正直、新人の冒険者にしては見事な連携プレイだと思う。

 おそらく、ミーティングや修練所での鍛錬を怠っていない。

 ブロッソンが主力戦力、アランがその補佐兼指揮官、ジーヴィーは後衛。

 三人一組ツリーマンセルのチームとして、きちんと成り立っている。

 なにより、依頼主のクレイトンを下がらせたのが一番いい判断だと思った。


「いいチームだな」

「ホントなのよ」


 その傍らで、イシスが頷く。


「何年か後まで、ちゃんとやれていればの話だけど」

「そーゆー夢壊すこと言うの、やめてくれませんかね、イシスさんや」

「あら、昔から言うじゃないのよ。人は三人集まれば派閥が二つできるって」

「まあなー、だけどさぁ……」


 もう一言二言言ってやりたかったーーが、ビリーは止めることにする。

 それもこれも――


「あのぅ」


 ジーヴィーが、こちらを振り返っている。目には、あからさまな当惑。

 ビリーは舌打ちする。

【魔神】は【騎士ドラウグル】以外に認識されない。

 故に、ビリーは空気とお喋りしているようにしか見えないのだ。


「やってもーたわ。まぢホント、慣れねーよなー、こればっかは」


 先日の件を思い出す。

 だから、リーリーというエルフの女同様の目で見られるはず、だった。


「あの、ひょっとしてビリーさん」


 その眼差しに宿る感情は、ビリーが想像していたものではない。

 畏敬、もしくは、憧れ。


「ひょっとして……ビリーさん、精霊契約者なんですか!?」


 ビリーがそれに答えることはなかった。


「アラン! ブロッソン! 今すぐそこから離れろっ!」


 直後――

 轟音!






「きゃあっ!」


 ジーヴィーは杖を抱いたまま、しゃがみ込む。

 文字通り、地を揺らす、轟音。

 アランとブロッソンが戦っていた場所から。

 吹き荒ぶ、熱風。


「アラン! ブロッソン! 大丈夫!?」

「平気だ!」


 アランとブロッソンが、駆け寄ってくる。

 その背後には、火柱があった。


炎嵐フレイムストーム、の魔法!? どこのバカだ! スライム相手に中級炎系攻撃魔法ぶっ放した奴!」

「バカ、とは聞き捨てならないな。助けてあげたっていうのに」

「そうよ、感謝なさい!」


 ビリーの憤りを、そいつらは右から左へ優雅に受け流す。


「スライム相手に、なにをちまちまやっているんだい? チーム【銀の一角獣】は」


 火柱を迂回するように、一組の男女が現れる。


「イリアス、それに、アニエス……」

「うげ、なんであいつらが、「チーム【ホーリー・アックス】がいるんだよ」


 現れた二人を、アランとブロッソンは陸に打ち上げられた魚の腐乱死体を見る目で見ていた。ジーヴィーも、同じく。


「ボンジュール、チーム【銀の一角獣】の皆さん! 相変わらず、依頼に手間をかけていらっしゃるようで」


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