第93話
「おい、新人。そんなに細い腕で、危険続きな冒険者ができるとでも思ってんのか?」
ラガンは、威圧感たっぷりに言い放った。
「つーか、態度と得物だけは一人前だな。ストリートファイトで勝って、いい気になってるかもしれねぇけどよ、それだけじゃゴブリンの亜人のガキどころか、スライムだって斬れないぜ」
対し、相手は無言だ。
その眼は、ラガンの方を向いている。
ただ、それだけ。
「野郎っ……!」
「おい、受付のねーちゃん」
声が飛ぶ。
少し離れた壁際に、相棒らしきエルフの少女を背に庇って立つ冒険者がいた。
ゆったりとしたデザインの黒い服を纏った、黒髪の男だ。銀鎖に通したペンダントの先にある六芒星の形のトップを、片手で神経質そうにいじっている。
「ルーキー君こと、デッド・スワロゥに教えてやってくれよ。冒険者ギルド内において、武器を抜いて襲いかかってきた相手を殺したらどうなる?」
「えっと……明らかに先に武器を向けてきた場合は、防衛のためとして正当防衛となります。冒険者ギルドとしては、特に問題にしません」
話をいきなり振られたミウは「こほんっ!」と一息吐くと、答える。
「ですが、それが過剰すぎると判断された場合、冒険者ギルドからの除名、最悪の場合【奴隷落ち】になることを覚悟してください!」
「だ、そうだ! 聞いたか、デッド・スワロゥ」
黒髪の冒険者は、言い放った。
「冒険者ギルドにおいて、冒険者同士の激突はご法度だ。つーか、その得物をマジで抜き放ったら、お前マジで【奴隷落ち】確定だぜ。悪いことは言わないから、ラガンに謝っちまえよ」
狼の獣人の男の冒険者の名は、ラガンという。
ランクはA。主な武器は、怪力と斧さばき。
時に魔物の最強種をも仕留めるその実力は、冒険者ギルドから認められている。
短気で、粗暴なところはある。しかし、気に入った相手や初心者には的確なアドバイスをしたりすることがあるので、仲良くしている冒険者は多い。
そんなラガンに喧嘩を売ったデッド・スワロゥを見る冒険者たちの目は、当然冷ややかだった。自分の力を過信するバカを見る目で見ていた。
しかし、彼らにとって腑に落ちないことがある。
ラガンがやったことは、当然のことだ。所持している奴隷、それも「悪しき」種族であるダークエルフの亜人に、その存在にふさわしい扱いをしただけだ。
それだけじゃない。
連れであるビリーは、壁に背を預け、腕を組んで見物を決め込んでいる。
連れてきた張本人が、デッド・スワロゥを止めようとしていない。我知らずといった様だ
「上等だ、てめぇ……このイカレが。現実ってモンを教えてやるよ」
ラガンは、ポケットに右手を突っこむ。
手を出した時、その中指には、アクアマリンを思わせる透明度の強い水色の輝石が尖った飾りとしてあしらわれた指輪がはめられていた。
正確に言えば、指輪を模した武器。
ラガンはこれを奥の手として所持し、数々の魔物を、時には最強種の魔物すら倒してきた。
【シアハートアタック】という、マジックアイテムだ。
持ち主の意思に従い、輝石の部分を模した個所が収縮し、対象を殺傷する。
殺傷力はそれほどなく。有効射程距離も短い。
だが、暗器としては有能だ。至近距離まで接近する、もしくは接近されれば、頭蓋を貫ける。
うまいこと使えば、こういう喧嘩で有利になれる。
例えば、相手からなにか攻撃を仕掛けられたら、こいつを発動させればいい。相手は、相応に痛い目に遭う。
仕掛けたラガンは、「攻撃を仕掛けられて、動転してしまったんだ! だから、こいつが動いてしまったんだ!」と、しらを切り通せばいいだけ。
内心、ほくそ笑む。
最早、デッド・スワロゥの【奴隷落ち】は確実だ。
それだけじゃない。
「
ラガンはこの件の一方的な被害者になる。それは、この場にいる冒険者全員が証明してくれる。
そうしたら、加害者であるデッド・スワロゥから慰謝料として日本刀を巻き上げて
やるつもりだった。
「アレルヤ・チート。ナガオカ・バンザイ」
【転生者】を讃える神聖な言葉を呟く。
デッド・スワロゥは、こちらへと歩み寄ってくる。
しばし、向き合う。
そして――
「身の程を知れぇぇぇぇッ!」
――咆哮を、放つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます