第75話
「ビリーさん、あれはなんですか!?」
「フィッシュアンドチップスだよ。白身魚のフライに、ポテトフライを添えたものだ」
「あれはなんですか、ビリーさん!?」
「あれは、チュロスだよ。砂糖とかシナモンをまぶした揚げ菓子だ」
「あれは!?」
「クレープだ。小麦粉を丸く薄焼きにしたものに、バナナとか砂糖漬けの桃をクリームと一緒に包んだ菓子だよ。ツナとかソーセージとか巻いても美味いぞ」
「あれは!?」
「りんご飴。シロップとか飴でリンゴをコーティングしたフルーツ菓子」
「色んなものがあるんですね、町って!」
「まあなー。色々ありすぎて、俺は時々嫌になる時があるけどな。……ほら、着いたぜ」
ビリーの案内で、一行はブレンダの町を歩く。
煮たり焼いたり揚げたりする音やにおい、「おいしいよ」「食べていきなよ」「買ってってよ」という呼び込みの声に満ちた、賑やかな通りを抜けた先に、その建物はあった。
「大きい、ね……」
どんっ! と構えるように建つ、白と赤のレンガ造りの建物は、ものすごく大きかった。
キリにとって世界で一番大きい建物だった、トルシュ村の酒場がすっぽり入ってしまうんじゃないかってくらい。
「冒険者、ギルド?」
そんなものすごく大きい建物の部屋入口に掲げられた看板に書いてあった言葉は、一体どういう意味なのだろう。
「ぶっちゃけ、仕事の斡旋所だな」
「お仕事を? お仕事、ってなんの?」
「入ってみりゃあ嫌でも分かるさ、百聞は一見に如かずって言うだろ?」
入り口を潜ると、だだっ広い空間が広がっていた。
【名無し】の剣士は、目を細める。
室内だというのに、随分明るい。
思うに、窓が広く大きいから、陽光をふんだんに室内に取り入れられるのだろう。
あとは、天井からぶら下がるもの――ガラスの球体の中に、月光を思わせるぼんやりとした白い光が閉じ込められているもののおかげだ。
後でビリーに教えられて知るのだが、これは【
そんな明るい室内では、沢山の人々が老若男女問わず集い、がやがややっていた。
そんな彼ら彼女に、共通するものがある。
「みんな、武器、持ってるね?」
怖がっているのだろう、手を繋ぐキリの手が細かく震えていた。
言われてみれば、男女問わず全員武装している。
革や金属といった様々な素材でできた様々な形状の甲冑を身にまとい、剣や槍、鈍器やその他よくわからないものを帯びて。
『こいつら、兵隊……じゃないよな? そうじゃなけりゃ、なんで戦支度なんかしてんだ?』
「フーフフフ♪ 僭越ながら、この【魔神】ディスコルディアがそのお答えしてあげよう、まだ何も知らぬ【名無し】の剣士よ。こいつらは、冒険者だ」
『冒険者?』
傍らに降り立ったディスコルディアから聞かされた言葉に、【名無し】の剣士は首を傾げる。
「割とありふれた職業の一つだ。一言で言うと、フリーランスの傭兵業をライトにしたようなものだ。主にギルドと呼ばれる組織から仕事を斡旋してもらい、犬の散歩からダンジョンの踏破までなんでもやる……まあ、ぶっちゃけ万事屋だな。そういうものなのだ、分かったか?」
『いや、全然。つーか、フリーランスとかギルドとかダンジョンってなんだよ。日の本の言葉で言えよ』
「ぐぬぬぬぬ……簡単な横文字すら通じぬのが、これほど面倒なことだとは!」
何故か怒ってぶつぶつ言い始めたディスコルディアから、目を離す。下手に声をかけると、ややこしいことになりそうだからだ。
「こっちだ、こっち!」
幸か不幸か、ビリーに呼ばれる。
ビリーは、奥にいた。奥にある、台で仕切られた向こうに立つ人物と話していた。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ!」
小綺麗な服を纏った、若い女だ。カラスの濡れ羽色の髪を、おしとやかに伸ばしている。
獣人だ。頭頂には一対の、ウサギの耳が生えている。
「冒険者登録希望と、ビリーさんから聞きました。早速ですが、簡単な説明とお手続きをさせていただきます。
あ、申し遅れました! わたくし、冒険者ギルド・ブレンダの町支部局員、ミウ・ミルンと申します!」
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