第71話


 ごとん、ごとん。

 一台の幌馬車が、平原に敷かれた道を走る。

 牽くのは老いたつがいのロバ。手綱を握るのは、老婆。その隣には、彼女の配偶者である老人。


「ばーさんや、ばーさんや」

「なんですか、おじいさん。意地汚いですよ、おやつならさっき食べたでしょう」

「わしはまだ、そこまでもうろくしとらんわっ! あとどれくらいで着きそうか聞いただけじゃ!」

「なにもなければ、二時間もあれば町に着きますよ」


 そう、なにもなければ。


「フ●ック!」

「そうか、そうか。まあ、なにかあっても大丈夫じゃろうよ」

「ファ●ク!」


 そう、なにかあっても。


「あのにいさん方には悪いが、頼ることはないじゃろうとわしは思っとる」

「確か【魔狼の牙団】、でしたっけ? この辺りに出るという、ゴブリンの亜人の強盗団は」

「大事じゃ、出やせんよ。連中、二週間前に討伐されたらしいからの。冒険者ギルドから派遣された討伐隊に」

「「異なった」世界の言葉で言うなら「ざまぁ!」ですねぇ。いい気味ですよ。聞きましたか、おじいさん? 連中、襲った馬車に乗っていた若い娘さんの指を切り落として、はめていた指輪を強奪したそうですよ」

「まったく、恐ろしい話じゃよ。「悪しき」者というのは。【転生者】様が説いたという教えの通りじゃ!」

「ファッ●!」












 ごとん、ごとん。

 一台の荷馬車が、平原に敷かれた道を走る。


「フ●ック!」

「平和ですねえ、おじいさん」

「●ァック!」

「じゃのう、ばーさんや」

「ファ●ク!」

「何か起きるか、久しぶりに賭けますか?」

「……ばーさんや、ばーさん。あんた、博打はもう止めるって、三番目の娘が嫁に行くとき言ったじゃないか」

「そんなこと言われても、ほら」

「ザッケンナこらー! イカサマしてんだろ、デッド・スワロゥ、てめぇこのヤロー!」













 ごとん、ごとん。

 平原に敷かれた道を走る幌馬車の荷台から、不穏な叫びが聞こえてくる。


「そんなこと言っても、ビリーさん。負けは負けですよ」

「お嬢ちゃん、ちょっと黙って! お願いだからっ! そうしないと俺、銃抜きそうだから! ガドリング召喚して、大乱射パーティーやらかしそうだから!

 つーかよ、なんでそう、ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん、フルハウスやらストレートやらロイヤルストレートみたいないい役出せんだよ! どう考えたってイカサマだろ! バカー! この、ど腐レッガー! ●ァック!!」


 ごとん、ごとん。

 ごとん、ごとん。


「賑やかじゃのう、若い者たちは」

「どれ、わたしも参加してきますか。賭け事と聞いて、かつて【賭博場の女神】と謳われたこのビルニャ、封印していた腕を今こそ振るうべきと」

「ばーさん、やめてくれー!」

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