第43話

 

 銃声!

 銃声! 銃声!

 銃声! 銃声! 銃声!

 轟く、咆哮。

 しかし、響く銃声がその主の命を吹き飛ばす。

 負けじと、他の咆哮が轟く。

 互いの命が、激突し合う。

 互いの本能が、流血を求め合う。












 

畜生フ●ック! だあああぁぁぁぁぁぁぁぁ、畜生フ●ック畜生ファッ●! 畜生ファ●ク畜生●ァック畜生ファッ●畜生ファ●ク畜生●ァック畜生ファッ●! ふざけんな、畜生ジーザス・クライストド畜生がサノバビ●チ!」

「大声でぎゃんぎゃん吠えるんじゃないわよ、盛りのついたメス犬じゃあるまいし」

「うるせぇっ!」


 得物――召喚したコルトM1877を両手に、ビリーは悪態を吐き続けていた。

 言うだけではない。標的に向けて、引き金を引き続けている。


「ビリーさんっ、上ですっ!」


 銃声!


 射出された鉛の弾が、襲い掛かってきた赤ん坊ほどの大きさもある蜂の頭を砕く。

 キラーホーネット――アシュロンの森に生息する魔物だ。尻の毒針で攻撃し、得物を仕留める、獰猛な肉食の蜂。

 これだけでも、常人には十分脅威である。


畜生ファッ●ッ、殺しても殺しても、どんどん湧いてきやがるっ!」

「むしろ、増えているのよ」

「うっせぇわ! ンことくらいわかっとるっつーの!」


 銃声! 銃声!

 新手として現れた魔物――剣牙虎サーベルタイガー刃牙豹ソードパンサーを仕留める。


「原因はおそらく、あの村で行われた虐殺なのよ。流血と死のにおいに、この森の魔物どもが酔っているのよ」


 銃声!













 トルシュ村から逃げたビリーたちを待っていたのは、狂気がハザードしたアシュロンの森だった。

 魔物たちの咆哮が、四方八方から聞こえてくる。

 不気味に轟くそれらは、アシュロンの森の木をみしみしと震わせ、黒い葉をざやざやと鳴らす。

 キリを背後に庇いながら、ビリーは一人戦っていた。

 既に、数多くの魔物たちに囲まれている。

 今はまだ大丈夫だ。【騎士ドラウグル】に成り果てた今、気力と体力は格段上がっている。

 残弾の心配もない。【異能チートスキル】を使えば、銃弾どころか銃そのものをいくらでも召喚できる。

 だが、いつまで持つか。

 ビリーは、自覚している。おそらく、自分は【騎士ドラウグル】の中で最も弱い。

 最期を迎えるはずだった時、目の前に現れた【魔神】イシスと契約を交わし、ビリーは【騎士ドラウグル】に成り果てた。


 正直、ビリーは持て余している。

 高い不死性と戦闘力――供犠くぎとして子宮を奪われ、性別を失った体を。


 銃声! 銃声! 銃声!


「クソッ、数が多すぎる!」


 罵声に、焦りが生じ始める。

騎士ドラウグル】はタフだが、限界がないわけではない。

 無限の体力と気力の持ち合わせがあるわけでもない。

 いつかは、必ず、尽き果てる。

 それだけじゃない。背後には、キリがいる。

 対象を護りながら戦うという馴れない戦法は、思った以上にビリーを疲弊させていた。

 ――いっそのこと、見捨てるか? そうすれば、そうすれば……

 銃声!

 沸き上がってきた誘惑を、銃声で打ち払う。

 裏切りは、最低最悪の行いだ。西部ワイルドウエストの男がやることじゃない。

 それに――

 赤毛の剣士の男の後ろ姿を思い出す。

 自分たちを逃がすため戦場に留まり、【六竜将】という強大な敵と戦ってくれている男から、キリを護ることを託されたのだ。


「胸を揉んできた【騎士ドラウグル】相手に、男相手には相変わらず義理がたいのよ。【騎士ドラウグル】シモ・ヘイへの時もそうだったけど」

「嫌われたく、ないんで、ね……ッ! ……来たれ!」


 弾の切れたコルトM1877を捨て、装填済みのコルトM1877を構える。今は、次弾の装填の間も惜しい。


「かかってこい! 次にぶっ殺されたいのは、どいつだ!」


 ビリーが引き金を引くことはなかった。

 取り囲む魔物たちの動きが、一斉に、止まる。

 瞬間――


「……ッ!?」


 ――ぞくっ! と。

 


 ビリーは、漠然と思った。

 ――ああ、これは……俺、絶対死んだな。

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