第23話 「現つ鬼、が……!」
二機の
しかし、彼は舌打ちした。
既に、取り囲まれている。
黒装束に身を包み、仮面を被った暗殺者たちに。
その数、四人。
おそらく、こちらが本命。
遥か後方では、【ラ・ピュッセル・ドルレアン】が、【風神】と激しく斬り結びあっている。
【鉄馬の王国】が誇る
【雷神】は気の毒な結果に終わったが、【風神】は無事役割を果たしてくれた。
ベラドンナの側近、【
残るは、一人。
こちらは、長身の男である。
歳は、三十代半ばあたりだろうか。
ややくせのある髪は、しっとりと艶を帯びた鴉の濡羽色。
切れ長の双眸に収まるのは、割れた黒曜石の鋭さの中に強い意思を宿した黒い瞳。
腰に帯びる得物は、形状から察するに、日本刀。
戦場に赴く覚悟の証といえる軍服を、痩せ型だが鋼のように引き締まった身に纏い、その上にコートを颯爽と流している。
背に背負うのは、不吉な死のシンボルにして祭具たる、漆黒の棺桶。
己が物として従えるのは、男性の美しさとストイックさ、戦士としての凛々しさと厳しさ――そして、殺す者としての異質さと虚無。
暗殺者たちは、帯びていた小剣を一斉に抜いた。
陽光を受けた刃が、ぎらりと鈍く光る。
対し、男は動かなかった。
抱えていたベラドンナを、物みたくぞんざいに手放し――
その場から、かき消える。
「なッ!?」
驚愕の声を上げることができたのは、ただ運がよかった。ただ、それだけだ。
一人は、胴を横薙ぎにされ。
一人は、首が胴から離れる。
ほんの一瞬で、仲間が二人、殺られる。
更にもう一人、袈裟斬りに遭う。
速い、なんてレベルじゃない。
肉眼では、超高速の領域に達したスピードを、捉えられないのだ。
だが、それだけ分かれば十分だ。
最後の一人となった暗殺者は、小剣の柄を捻った。柄頭が開き、中に納められていた
ためらうことなく、右腿に突き刺した。
抜刀!
瞬く間に、三人を斬り捨てる。
敵は、暗殺者。
彼に言わせれば、かつて生きた「異なった」世界で
所詮、暗殺者など、行動理由は違おうともどこの世界でもこんなものなのだろう。
そんな連中を斬り捨てる理由に勝る、許す理由がどこにある?
がぎゃん!
一斬必殺の斬撃が、相手に受け止められる。
ことを成し得た左手には、既に短剣が装着されていた。
しかし、短剣――と一言で言い表すには、奇妙な形状をしている。
コの字型をした柄、平行な二本の枠の間に、握りが刃と垂直になるよう渡されているその武器は、見ようによっては、拳から剣が生えているように見えなくもない。
確かこの武器は……ジャマダハルだ。
「……!!」
咄嗟の判断で、後方に跳ぶ。
コートが、浅く斬られていた。
見れば、既に右手にも同様の武器が装着されている。
本来、刺突攻撃に用いる武器だ。しかし、熟練の使い手の中には、両手に装着することで格闘技のような戦法をとる者もいるのだという。
ちょうど今、相対する敵のように。
「ごヴぅぁああぁぁぁぁぁぁああッッッ!!!」
ひび割れた咆哮が上がった。
一瞬で、間合いを詰められる。
仮面の奥から見える目は、充血し、ぶっ飛んでいた。
おそらく、なにかやばいクスリでもキめたのだろう。
ぶつけられるのは、むき出しの殺意。
そして襲い来るのは、目にも留まらぬ斬撃の群。
このままでは、間違いなく押し切られる。
ただ、それだけだ。
全てかい潜れは、なにも問題ない。
ばがんっ!
彼の斬撃が、相手を捉える。
被っていた仮面が、粉々に吹っ飛ぶ。
その衝撃で、相手は地に崩れ落ちた。
致命傷は負わせていない。
久しぶりの強敵だ。
彼をあなどることなく、ここまで追い詰めてくれた。
故に、応えるべきだと判断したのだ。
「殺し合える」敵には、敬意を払うべきだからだ。
だが――
立ち上がってくることさえも。
「
あらわになった素顔は、恐怖に歪んでいた。
偽りであれ、強さを打ち砕かれた絶望が表れた顔だ。
「それがお前で、【
「つまらねぇ、しまらねぇ、くっだらねぇ……また」
彼は、【
「勝者に成り下がっちまったじゃねぇか」
✟✟✟✟✟✟
「この世に人間の姿で現れた鬼」を意味する言葉。
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