第20話 「我ら、忌まわしき侵略者にして暴君たる貴殿を、成敗する者なり!」


「これに……」

「ここに……」

「討て、穿て……」

「斬れ、殺せ……」

「これに……これに……」

「ここに……ここに……」


 ローブを纏った老魔術師たちが、一心不乱に呪文を唱えていた。

 呼応するよう、床に描かれた魔法陣が緩やかに光る。

 その中央に、座すものがいた。

 亜麻色の髪を長く伸ばした、若い女だ。金糸と銀糸の刺繍で彩られた白いローブは、宮廷魔術師と正式に認められる者の証である。

 女の名を、ソルカダニという。

姫巫女ひめみこ】の異名を持つ。【鉄馬の王国】の宮廷魔術師だ。

 じっと目を閉じ、手にした魔杖スタッフ緑柱石ベリルを思わせる貴石がはめこまれたそれを、握りしめている。

 魔法陣を構成する魔力、老魔術師たちから送られてくるそれを、己が望む形にすべく、編み上げているのだ。

 おもむろに、ソルカダニは目を開く。

 意志の強さを孕んだ茜色の目が、あらわになる。


「皆、お願いします。【黒竜王国】の悪しき毒婦ベラドンナを、どうか討ち取ってください!!」


【姫巫女】の宿願ねがい、叫びに呼応するよう、魔杖スタッフにはめこまれた貴石が輝く。

 魔法陣を構成する光が、爆発する。













【黒竜帝国】の軍勢は、既に撤退していた――ただ一人を除いて。

 その一人は、ティータイムを楽しんでいた。

 設置された野外用のテーブルには、ティースタンドがあった。

 盛られているのは、草花や鳥獣を象った練りきり、様々な種類のあんでコーティングされた団子、色とりどりの飴細工などなど、異国の情緒を持つ菓子たち。

 ティーカップに注がれるのは、翡翠色の茶。

 竹楊枝に挿した練りきり、牡丹ぼたんを象ったそれを、ベラドンナはぱくりと頬張る。

【転生者】によって、「異なった」世界から伝えられた菓子だ。

 乳と卵を一切使わず、豆と砂糖で繊細に仕上げられた、通称「和菓子ワガシ」は、プリンやアイスクリームといった、通称「洋菓子ヨウガシ」と比べるとマイナーなものである。

 そうであっても、ベラドンナは「和菓子」が大好きだ。

 甘い優しさが、舌に染み込んでくる。緑茶を、口に含む。余計な刺激のない苦みが、口内を潤す。


「ん~~~!!」


 意識せずとも、感嘆の声が漏れる。

 至高にして、至福の時だ。


 しかし、それは、唐突に終わる。


 ベラドンナは、立ち上がった。

 そのまま、そこから大きく跳び退く。


 直後、鉄槌。

 それは、ベラドンナを討つためのもの。


 鉄槌は、拳の形をした黄金だった。

 放ったのは、黄金の機械の巨人である。

 そいつは、ベラドンナを見下すようにして立っていた。


「【黒竜帝国】皇帝、ベラドンナ・オブ・ミッドガルズオルム陛下とお見受けする。 

 れの名は、【雷神らいじん】! 【鉄馬の王国】を守護者まもりしものの要!」

「同じく、【風神ふうじん】!」


 その隣に、もう一体、降り立つ。

 こちらは、白銀の機械の巨人だ。


「我ら、忌まわしき侵略者にして暴君たる貴殿を、成敗する者なり!」

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