25 神を演じる者

 運命の女神様は頑張っていた様だ。


〔確かに女神様は頑張っていた。最初のうちはなぁ〕


 ぼやいているのは、この世界の意思であり、システムでもある管理者【メタトロン】だ。

 メタトロンとは、元々が偉大すぎる神の声を人間に伝える為の天使の名前だ。


 彼は創造主については言動が制限されている為に、ここは代わって解説せねばなるまい。






 周知の通り【世界】とは、創造主の娯楽である。

 簡単に言えば、小学生の教材にある【アリの巣観察キット】に近い。

 ある程度の物資と環境を与えてやれば勝手に変化し、発展して社会を作り、色々なドラマを産み出す。


 創造主はソレを観察して変化を楽しむ。

 たまに、手を加えてみる事もあるが基本的には放置で、気に入らなければ滅ぼす。

 後半は、気に入った場面をテレビや映画を観る様に鑑賞しているだけなのだ。


 確かに、全知全能の創造主は世界を見守り、【番組】として愛しているが、登場する個々を愛している訳ではない。

 むしろ、【他人の不幸は蜜の味】とばかりに、多くの不幸な登場人物を見て喜んでいる傾向がある。


 その証拠にスポーツなどでは、トップは常に一人なのに、多くの者にトップ望ませ、争わせ、数多の【夢の破れし者】を生み出す。

 皆が幸せになる事を望むならば、トップの辛さばかりをピックアップして周知しやすい法則性を構築していれば良いのだから。


 宗教にしても、望めば登場人物の思考や運命さえ操れる創造主に、キャストの自発的な信仰心など必要がないのだ。

 それどころか信仰心ゆえに身を持ち崩し、運命に翻弄される者の方が、視聴者の居る物語りとしては好まれるだろう。


 あなたの世界にも、この様な傾向は無いだろうか?


 この様に、創造主の娯楽として造られた【世界】は、色々な物語りを楽しむ為に、パラレルワールドとして複製されたり、多少の設定を変えて新鮮さを求められて数を増やしていった。


「だが、いい加減にマンネリだな!」


 干渉しない事により、不確定性を楽しんできたが、創造主も似た物語りばかりには飽きてくる。


 そこで見付けたのが、一つの世界/宇宙で一瞬だけ存在した点【地球】。

 その点の様な惑星で、一時的に栄えた猿が作り出した【小説】と言う物だ。

 ある意味でソレは、小さな架空の宇宙を作り出す事に似ていた。


「この設定を、そのまま宇宙創造に使えば、新しいバリエーションが得られるかも?」


 退屈した創造主が、そう思っても不思議はないだろう。


 だが、登用した物語りの一部には、あまりに想定通りに進まない物があった。


 何の因果関係もなく、多くの事件に巻き込まれる学生探偵。

 『鍛えた』と言う言葉だけで、周辺の物理法則を越える破壊力や耐久力を備えた、普通の人間。

 確実に、本人の肉体的キャパシティを越えた力を内包した、一握りの主人公達。

 特に選ばれた訳でもないのに、美形や特殊技能を持つ者達が所属する集団。

 【魔法】と言う言葉だけで、何のリスクも損失も準備も必要の無い、バランス崩壊した世界。


 現実化には問題が有りすぎる作品が多かったのだ。


 消してしまうのは容易い。だが、生まれた世界を鑑賞していたのは、生み出した創造主だけではなかった。


 複数存在する世界を創造して鑑賞する者達。



 地球においても、多くの宗教や神話で、原初の存在は複数存在する。


 ヒンズー教におけるヴィシュヌ、シヴァ、ブラフマー。

 ギリシア神話におけるクロノスとガイア。

 北欧神話のアース神族・ヴァン神族・ヨトゥン氏族。

 日本古事記の天之御中主神アメノミナカヌシ高御産巣日神タカミムスビ神産巣日神カムムスビ


 一神教と名乗っているユダヤ系ですら、創世記の記述には『我々』と、複数系の記述があるのだ。


 宇宙を創造できる存在が複数居ても不思議は無いだろう。



「おいおいっ!見てる奴が居るんだから、勝手に消すなよ!」


 クレームをもらった創造主に出来るのは、干渉を放棄して【世界】を放置するか、時間を巻き戻してリメイクするか、小さく設定して軌道修正していくか。


 この【ラノベをコピーした『剣と魔法の世界』】は、異世界人による魔王伝説までは創造主/【女神様】が今のトレンドらしい/が関わって微調整していたが、細かい修正が面倒になったのか、メタトロンを作って、この世界の微調整と【女神代行】を押し付けていた。





〔で、魔王もどきが愛用した魔剣ってぇのが、どう見ても日本刀なんだが、その起源はどうするのだろうか?仕方がない・・・〕


 そんな理由で、現地時間を数百年巻き戻して異世界転生させたのが、アキトラードこと、日本人【八神やがみ明人あきと/往年65歳】だった。


 日本刀を作る事ができて、殺し合いのある世界で生きていけて、目的達成の行動力のある人間は、なかなか居ない。


 やっと見つけたのが、鍛冶屋の三男で、日本刀を振り回す事が好きな八神明人だ。

 彼は、ヤクザに日本刀を売ったり、組どうしの抗争に巻き込まれたり、影で試し斬りをしたりとダーティな鍛冶師だった。


 当然、本当の異世界転移や異世界転生はできないので、肉体や魂、記憶といった物を、この世界で再現している。

 実際に異世界から持ってきてしまうと、エネルギーや質量維持の法則が維持できなくなり、その裂け目から宇宙自体が崩壊する可能性すらあるからだ。


 だが、造られた当人にとっては、同じ事だろう。


〔この【世界】は、直径が10光年程の固定閉鎖空間だから、管理が楽だが、こんな修正箇所が多すぎるのだよ〕


 だから、この剣と魔法の世界には、宇宙人の来訪や小惑星による絶滅は発生しない。


 コピーした八神明人には、魔王/勇者システムに干渉しない様に思考制御を加えているから、与えたスキルが世界全体に影響する事は無いだろう。

 元より、オリジナルの思考回路は、冒険やイベントを望む様には成っていなかったが。


〔管理を手放したとは言え、女神様も見ておられるんだろうな〕


 少し、特殊な展開を見せている、この【異世界】にも、オーナーである女神をはじめ、少なからず見ている存在が居るらしい。


〔さて、女神様に帰ってきてもらうには、世界をもっと面白くしなくてはならないが、やはり限界はある。さてさて、どうしたものか?少し、元になった地球のラノベを調べて研究をしようか〕


 女神の代行をしているメタトロンも、そろそろ世界の運営に疲れてきたようだった。




続く・・・・・・かな?

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ラノベからの新世界 刀人編 二合 富由美(ふあい ふゆみ) @WhoYouMe

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