24 地球環境領域
「そうだ。俺の名はダルマン!
物語りの【魔王】と言うものは、魔族の中の勝ち抜き戦で決まるのか、魔王を倒しても魔皇太子が残っていて後を継ぐのか、倒しても一定期間で復活するものなのか分からないが、定期的に発生するものらしい。
当然、対峙する【勇者】も定期的に必要となる。
この世界に限っては、勇者と魔王は交互に現れるものらしいが。
勇者は自然発生する場合や、勝ち抜きの後の指名もあるが、異世界からの転生や転移、召喚が最近のトレンドだ。
日本のラノベでは、なぜか日本人だけが異世界へと送られ、アメリカ人やロシア人、アフリカの民族からの召喚や転生は皆無だ。
舞台は殆どが西洋風なのに、日本民族だけ呪われているのか?
そして、転移者は殆どが十代だったりする。
地球では、常に世界の何処かで戦争が起きているのだから、実戦経験のある兵士の方が精神的にも体力的にも、技能的にも適している。
だが、ラノベに登場する大半が学生なのは、リアリティよりも読者の精神年齢層に合わせた配慮だと考えると、納得が行く。
ただ、その精神年齢を実際の購入層と比較すると、日本の将来に不安を覚えるが。
いや、【青春】と呼ばれる初期発情期の甘酸っぱい経験を思い出す物語を書きたいのか?
単なる【流行】なのかも知れないが、大人を遊ばせておいて、
だが、統計的に不幸な人間の方が多い現実世界を見ると、どうやら実際の創造主は下衆な存在らしい。
皆が太陽光からエネルギーを得て生きていく世界よりも食物連鎖で殺して喰らう世界をつくっている。
宗教的にも、元から完璧な存在として人間を作らず、苦難や試し、経験を積ませて神の御元へと導く者を選ぶと言う。
では、下衆な作品ほど【リアリティがある】と言えるのだろうか。
この物語りの世界でも、人族と魔族は戦いを運命づけられていた。
【日本刀】を持ち込むのに日本人を呼び寄せるのは合理的だが、今期の勇者も、どうやら日本人らしい。
「じゃあ、この魔族騒ぎは、お前の仕業か?」
「何を言うんだ?材料のオリハルコンを持って君の村に向かっていたら、魔族の大群が居たから倒していたんだよ」
勇者ダルマンの口元は笑っているが、目は笑っていない。
どうやら、アキトラードの力量を確かめる為に、魔族を村へと追い込んでいたらしい。
「ああ、それはありがとう。ついでに魔族を倒したのは、その勇者様って事にしてくれないかな?俺は単なる鍛冶屋として通しているんでね」
「了解だ。同郷の能力者を敵に回す事は、女神様にも言われていないからね」
握手の手を差し出すダルマンに、アキトラードは少し考えてから手を添えた。
「熱っ!」
「やはり、混ざり者か?」
握手を振りほどいたダルマンの手の平は、うっすらと焼けていたが、みるみる元通りに戻っていく。
再生力が凄いのか、隠蔽魔法による見た目だけなのかは分からないが。
「確かに、俺は【混ざり者】と呼ばれる冒険者だ。だが、お前は人間なのか?スキルだけを与えられた普通の人間なのか?」
この世界では、特殊スキルを持っているのは一部の冒険者だけだった。
「ああ、俺は普通の人間だ。ただ、鍛冶屋として生涯を終える為に、身を守るスキルだけは貰った」
「その割りには、かなり強力なスキルだな」
「勇者様よ、敵対しないなら関係無いんだよ。あんたの目的は、オリハルコン製の日本刀なんだろ?」
「確かに・・・」
ダルマンの方も、下手に突っ込むと魔族を追い込んだ事を肯定する事になる。
アキトラードの力は、まだ未知なので、敵に回すべきではないと考えた。
「では、御客様。村へと御案内致します」
アキトラードは、村へと勇者ダルマンをエスコートした。
勇者ダルマンの欲していたのは、ロングソード。
日本刀で言えば大太刀だ。
日本語で、大暴れする事を【
アキトラードの父親達も、日本刀としては小太刀を含めて既に六本目。オリハルコン製としても二本目ともなると、手伝うのも慣れてきている。
村に戻ってきた一同で、再び鍛冶仕事を再開した。
アキトラードと父親と、マルガリータの父親の三人が交代で作業し、町の鍛冶屋ヤベルトは魔力注入を主にして作業は急ピッチで進んだ。
仕上げは、アキトラードが指示しながら、ヤベルトが完成させた。
オリハルコン用の砥石など、加工道具一式をヤベルトが行商人を使って送らせてきたからだ。
約一ヶ月強で仕上がった刀を、ダルマンは軽快に振り回している。
「軽いし、速く振り回せる。これなら大群が来ても、一振りで数人を倒せるな」
追加作業分の後金も貰い、今回の仕事は一応完了となった。
【異世界に日本刀を広める】と言うアキトラードの使命も、ほぼ完了と言える。
【勇者が使っていた武器】となれば、求める者も増えるだろう。
勇者ダルマンは、刀のできを確認して、改めてアキトラードに向き合った。
「アキトラード、俺と一緒に世界を救わないか?お前が居れば百人力だし、将来は王や貴族にもなれる。もっと、良い生活ができるぜ!」
確かに、アキトラードの力があれば、魔族の討伐も楽だろう。
だが、彼は首を横に振る。
「世界を救う?なんで俺が、そんな事をしなくちゃいけないんだ?俺は自分の【のんびりした生活】だけ守れればいいし、それ以外は望んでもいない」
「何を言うんだ。お前だって、この世界を救う為に転生したんだろう?それに、こんな田舎で
特別な力を与えられたアキトラードも、女神に世界を救う様に頼まれたのだとダルマンは勘違いしているのだろう。
「考えが若いな。君の人生経験は何年だ?まるで子供じゃないか?」
「これでも前世と合わせれば40歳近くになる」
アキトラードは、その答えを鼻で笑った。
「40じゃ、まだまだ若蔵だな。立って半畳、寝て一畳。
前世と合わせると80歳を越えるアキトラードには、趣味に生きるのに最低限の物以外は、むしろ煩わしいものでしかない。
アキトラードの言う事は、こうだ。
子供は、寂しくて強くなりたいと思って徒党を組む。
大人は、責任や義務、人間関係が煩わしくて独りになりたがる。
子供は、自分が不安定だから、誰かに認めてもらいたくて目立つ行為をする。
大人は、自分の行動や思想を、邪魔されたくないので目立ちたくない。
「確かに俺の能力は、魔王だろうと勇者だろうと瞬殺できる。だが、それは何にでも無双できる便利な物じゃない」
「いったいソレは、どんな力なんだ?」
「馬鹿なのか?弱点のある能力の詳細を他人に話すわけが無いだろうが!」
一見、周囲の全てを破壊できて無双している様に見えるアキトラードの能力だが、その能力には限定条件がある。
彼は、地球で死んだのを期に、この世界の創造主たる女神にスカウトされ、ファンタジーラノベをコピーした世界に転生した。
転生しての使命は、『この世界に日本刀文化を存在させる』事で、彼が報酬として求めたのは、銃や魔法に脅かされない生活だ。
地球で銃により死去した
だが、銃は兎も角、攻撃魔法のある世界でソレは矛盾する。
苦肉の策として彼に与えられた能力が、最大半径1キロメートルまでの範囲を【地球環境】と同じにする事だ。
この【
魔法は勿論、魔族や魔物、地球に存在しないオリハルコン等の物質は崩壊するのだ。
当然、魔族の血を引く冒険者や、魔物の素材を使った道具も、その部分が崩壊する為に、結果として全体が破壊される結果となる。
だが、逆に地球にも存在する物には一切干渉しない。
何万もの魔族を瞬殺できても、十人の普通の人間には物量で負けるという訳だ。
人は、拳で
刃物で抗えない者に対して銃を作った。
銃で抗えない者に対して大砲や飛行機などを・・・・
人は、こうして武器を開発して己の生存権を、力を、エゴを押し通してきた。
だが、銃以後は使用者の
ただ、ソレは彼が刀鍛冶の家に生まれて刀を愛好していたからの判断かも知れない。
銃における狙撃も、同じ様に研鑽を積まなくてはならないのだろうから。
「この世界の人間を救うのは、お前が女神に受けた使命だろ?だが俺のは違う。お前の使命に、俺を巻き込むな!その件で干渉するなら、俺はお前を含めた冒険者を殲滅して、魔族だけの世界にする事もできる。俺は、この村だけを守れれば、それで満足なんだから」
「そうか・・・・・・分かった。これ以上は言うまい」
ダルマンにとって、アキトラードの能力は未知数だった。
あながち、彼の言う事が不可能でない事は、先の魔族を一掃した件からも理解できる。
これ以上アキトラードと敵対するのは芳しくないと判断したダルマンは、鍛冶屋のヤベルトを連れて町へと帰っていった。
「これで、また日常が帰ってくるな、親父」
「いや、アキトラード。家族も増えて、資産も増えた。お前の活躍のお陰で、以前より良い生活ができそうだ」
アキトラードの母親は、彼が子供の時に魔獣に襲われて死んだ。
それ故に彼の武装も、村人達に納得行く行為ではあった。
村に乱入した魔獣による死者は、彼の母親だけではないが、それ以後、男手一つで子供を育てながら生活していた父親としては、家族に女手が加わる事で少しは楽になるのだろう。
まぁ、転生者であるアキトラードは、大人並みに手間の掛からない子供ではあったが。
こうして世界は平穏に、女神の予定通りに進んでいく。
その裏側で、運命の女神様は頑張っていた様だ。
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