第81話 ウジットの部屋で



 扉の前に見張りはいなかった。いても僕らの姿は見えないだろうけどね。


 そっと近づき、扉をあける。


「おジャマしまーす」

「しいっ」

「ごめん。ごめん」


 室内はあいかわらず廃墟めいて薄暗い。そういえば、大量爆発物のせいで忘れてたけど、廃墟って出るんじゃ……?


 暗闇にうなり声が響く。

 僕はすくみあがった。


「ぽ、ぽよちゃん」

「ゾ、ゾンビっすかね?」

「怖いよ……」


 ふるえあがるぽよぽよ二匹。だというのに、もう一匹、ノリの悪いやつがいる。


「わが神さま。あれはイビキではないかと思います」


 むーん。あがめたてまつってくれるから可愛いよ? 可愛いんだけどね。オバケ怖がらないなんて、真のぽよぽよじゃなーい! 僕なんか、今、ソロモーンだけど、心はぽよぽよだよ?


 とはいえ、暗闇にとどろくこの音。グゴォー、グゴォーと聞こえるそれは、たしかにイビキ。


 僕は思いきって、カンテラくんをミャーコポシェットから呼びだした。神獣ソロモーンは大きめのハムスターみたいな姿だから、バッグはさらに小さくなってる。カンテラは人間から見たら豆電球サイズだ。


「カンテラくん。もうちょい大きくなって」


 カンテラが照らす室内をながめる。広さは二十畳ていど。廃墟工場のなかで、ここだけ、やけに豪華。キレイな調度品の数々が置かれている。とうとつに王宮に迷いこんだみたいだ。

 それにしても、昼間っから、なんでこんなに暗くしてるんだろう?


 部屋の奥にとばりにおおわれた天蓋てんがいつきベッドがある。よくファンタジーで天井のあるベッドがお嬢さまの部屋に置かれている。あれだ。


 とばりをめくってみる。そのとたん、イビキがやんだ。マズイ。マズイ。あわてて手を離す。するとまた、イビキが始まった。とばりに結界があるのかも?


「どうするの? たぶん、ウジットだと思うんだけど」

「アニキ。気配は一つだけすよ?」

「だよね。強いボスが一体。女の子はいないね」


 エルはガッカリしてる。


 聞き耳すると、レベルは30かな? HP……やっぱり12万もある! ほかの数値は二、三千か。これなら、蘭さんたちが戦っても苦戦はしないだろう。


 あれ? HP12万? もしかして?


 僕はこっそり、つまみ食いを試みる。ストローでしょ。つきさして、チューチューチュー……僕のHPが99999増えた!

 やっぱりだ。上限の99999を超える数値はいっぺんに吸えないんだ。そういえば、ビッグカンガルーをつまみ食いするとき、ひと息に飲めなかったもんな。あれって二回にわけて吸収してたのか。


 どれどれ。ほかの数値ももらっとこうかなぁ。でも、これって、実質、隠れてるけど戦闘中だよね? マズイかな? やめたほうがいい?


 すると、とつぜん、ベッドの上でドタンと音がした。


「だ、誰じゃ?」


 老人っぽいしわがれた声。


 しまったー! ウジットが起きちゃったー!

 ドキドキ。ここで戦闘になるのか? もう作戦めちゃくちゃだね。


 けど、ウジットはベッドからおりてこない。グゴォー、グゴォーと、またイビキが……。


 よかった。鈍感系のやつだ!


「……ウジット」

「グゴォ?」

「今日さらってきた精霊の女の子はどこ?」

「ゴォ……ウールバニア……」


 もうウールバニアに移送したあとだ。

 僕らは急いで部屋を出た。ウジットは追ってこない。


「こ、ここまで来たら安心だね」


 扉が見えないとこまで来て、大きく息をつく。


「もうウールバニアだって。早く追いかけよう」

「うす!」

「フローラン、待ってて。必ず助けるよ」


 ところが、そのときだ。

 廊下のかどをまがって、とつぜん、何かが僕らの目の前に現れる。

 最初、壁かと思った。壁が動いて僕らを閉じこめようとしてるのかなって。でも、よく見ると形が四角じゃない。ギザギザとか、穴があって、これは、アレですよ。歯車に近いかな? いや、歯車そのもの?


「えっ? 歯車?」

「歯車っすね」

「デッカイ……」


 もとが工場だから、天井はやたら高い。その天井に到達するほど巨大な歯車……。



 チャララララ……。

 巨大すぎる部品が現れた!



「ギャー! モンスターだった! しかも爆発物!」


 ヤバイ。これ絶対ヤバイよね?

 ただの部品でもHP10で二千のダメージ負わせてくるのにさ。このサイズ感。コイツ、どんだけ、とびちらかす気だ?

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