第76話 さらわれたフローラン



 森の人たちが精霊族の末裔だというのは事実だった。エアリーサンが認めたからだ。

 もともとは精霊の国で暮らしていたものの、はるかいにしえ、魔族が攻めこんできたときに人界へ逃れ、その後ゲートが閉ざされて、もとの世界へ帰れなくなったのだと。


「われらは先祖のまつる大いなる神を今もあがめています。精霊の神、獣の神、よき神がそれです。ぽよぽよ神はわれらの先祖が崇拝していた神の一柱です」


 というわけで、かーくんは精霊にあがめられることが決定した。ふふふ。美少年の子分を手に入れたぞっと。


「じゃあ、もしかして、僕の仲間の大半は、君の信じる神さまかもね」

「というと?」

「うちのパーティーには、ほかにも神獣ライトウルフ、神獣セラフィム、神獣ティアパール、神獣ドールがいるよ」

「なんと!」

「あっ、ちなみに僕は、神獣ソロモーンと神獣白虎も兼任してるんだ」

「おおっ! す、素晴らしい!」


 なんとなくそうじゃないかなって思ってたけど、精霊族っていうのは、自然を愛する人たちなんだね。古代人が山や太陽や自然、動物を神として畏怖いふしたように。そのころのならわしを、近代化で人間は忘れてしまったけど、精霊たちは今もずっと大切にしている。


「では、ぽよぽよ神かーくんさま。われに力をあたえたまえ。なにとぞ、強き戦士にしてください」

「ぽよぽよ職マスターしたら、僕といっしょに戦うとき、ステータスが二倍になるよ。ターン開始時に必ずアルテマハイテンションになれるし」

「われにウサギの力を授けてくださると? ありがたき幸せ!」


 んん? そうなのか? ぽよぽよ、みな仲間的に自動でかかるだけなんだと思ってたけど。僕が授けてる? そう言えなくもないか。


「へへへ。じゃあ、ゴウヨンさん。お金出すんで、エアリーサンをぽよぽよにしてあげて」

「一万円!」

「小銭ないんで、百万円でいい?」

「おおっ、わが職業の神はゆるされた!」


 これで、美少年もぽよぽよに。ひひひ。世界中に増やす、ぽよぽよ友の会。


 エアリーサンは精霊をマスターしてた。けど、それだけだ。精霊戦士ですらない。まだ十三、四だからしかたないのかな?

 レベルはやっぱり12。ステータスはどれもこれも二桁の一般ピープル。HPだけ、かろうじて110。

 精霊職でおぼえるチェンジリングとかのスキルのほか、風属性の生来魔法がいくつか使える。あと生来特技が、サンライズパワー、風読み、木と大地の声。いかにも精霊っぽい特技だなぁ。


「ところで、エアリーサンはなんであの馬車につっこんでったの? やっぱり、フローランって人を助けるため?」

「さすがは神ですね。何も言わなくても、われの願いなどお見通しなのか」

「へへへ」


 いや、単に人の顔色うかがう職業だからさ。アパレルショップの店員さんは観察眼が優れてないと。


「おっしゃるとおりです。この町を統べる魔族のボス、ウジットという悪しきものが、われの幼なじみフローランをさらっていったのです」

「ウジットか。門兵たちも言ってたね」


 ウジットさまの馬車と知っての狼藉ろうぜきか、とかなんとか。ウジットっていうのが、この町の隊長なのか。どんなやつだろう? ジャッケルみたいに妖しい古代魔法を使うのかな?


 エアリーサンは続ける。

「そればかりではありません。魔物どもは近ごろ、われらの村から多くの娘をさらっていくのです。ウールバニアで邪神のいけにえにするのだというウワサです」

「邪神の……なるほどね」

「いけにえには、モンスターより精霊のほうが上等なのだという話です」


 ゴドバも封じられた古代の魔神を蘇らせようとしていた。じっさい、解放されてしまったんだけど。そういう計画がウールリカでも進行してるのかもしれない。


 あのときの魔神は、たぶん、ユークリッドの本体だ。ほかにも、そんなものがいるのかな? 魔王? でも、魔王は四天王のなかの誰かなんだよね?


「とにかく、フローランは助けたいね」

「ええんか? かーくん。せやかて、急いどるんやろ?」


 そうなんだよね。ほんとは一刻も早くさきに進みたいとこなんだけど。

 いけにえを必要とするなんらかの儀式。それに予言の巫女が使われるんじゃないか? たまりんが……危ない。


 だからって、子ども一人、モンスターの闊歩かっぽする町なかに置いてきぼりにできないよ。

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