第75話 精霊族のエアリーサン
ああ、ボスに突進していく自殺行為中の美少女……。
ここで目立ったらいけないんだけどなぁ。
だけど、ほっとくわけにもいかない。
僕は仲間たちと目を見かわした。ランスもシャケも大きくうなずく。助けようと、その目が言っている。美少女の力は大きい。二人ともオークに化けてるから、ブタ耳、ブタっ鼻なんだけどね。
しょうがないので、
「ランス。隠れ身使えたよね?」
「ああ」
ランスは弓聖になるために、大暗殺者マスターしてるからね。隠れ身は大暗殺者がおぼえる特技だ。
「じゃあ、僕をかかえて、あそこまで行って」
「おれ一人で行ったほうが早くないか?」
「ランス。人間にさわれるの?」
「……わかった」
ランスはおとなしく、僕を抱きあげた。ぽよぽよのときはさわれるんだね。だからって、ついでにナデナデしないでほしい。
馬車のかげで隠れ身を使い、姿を消すと、今しも軍用馬車につっこんでく美少女にかけよる。近づくにつれて戦闘音楽が聞こえる。ボス戦のソレだ。ああ、もう、ボスをさけるために二手にわかれたのに、これじゃ意味ない。なんとか、戦闘離脱しなくちゃ。
「ランス。僕をあの子のほうになげてよ」
「いいけど、おれの姿が見えなくなるぞ?」
「急いで追っかけてきて、僕らを隠して」
たしか、精霊の就労特性は『逃げる』の百パーセント成功だ。それも、ボスにも有効。
僕はランスの腕のなかで、就労特性召喚をとなえた。
「就労特性、精霊召喚!」
その直後、ランスが僕を思いきりなげとばした。矢のようにまっすぐ飛んでく、僕、ぽよぽよ。クルクルと空中で円を描き、美少女の背中にとびつきざま、逃げるを発動させた。
「わっ、こら、ぽよぽよ! 勝手に何すんだ!」
「ごめん。あばれられると見つかっちゃうんで、ちょっとおとなしくなっててね」
コツンと優しく頭突きすると、美少女は目をまわした。あっ、しまった。ぽよぽよ神だから、自動でアルテマハイテンションになるんだったな。死んでなきゃいいけど。
「なんだ? おまえら?」
「この馬車に近づくやつは
「ウジットさまの馬車と知っての
門兵が僕らのまわりにかけよってくる。でも、そのあとすぐ、魔物たちは首をかしげてキョロキョロしだした。ランスか追いついてきて、隠れ身の結界内に入ったのだ。
「今のうちに逃げよう」
僕は女の子をかかえて、その場を後退した。人間一人をらくらく持ちあげるぽよぽよ。力の数値はマックス。
たぶん、門兵にとっては、馬車にかけよる不審者の背後に、とつぜん空中から現れたぽよぽよがひっつき、そのまま美少女もろとも消えた——ように見えただろう。
馬車まで戻ると、まだ気を失ってる女の子を荷台につっこむ。ほろがかかってるから、これで外からは見えない。
そのとき、僕は気がついた。なんてことだ。パーティーに女の子が入ってくれない呪いは継続中だ!
透きとおるような白い肌と銀糸の髪、長いまつげ。アクアストーンの瞳。こんなに美しいのに、どこから見ても美少女なのに! この子、よーく見たら、男の子だ。
むーん。だまされた。まあ、女の子じゃなくても助けるんだけどね? でも、どうせなら女の子でよくない?
軍用馬車はそこにとどまっても意味ないと思ったのか、門を通りぬけていった。
僕らの馬車もなんの問題もなく、無事に通行許可される。ぽっくり。ぽっくり。ぽっくり。やがて、門は遠くなった。
「うーん」とうなり声をあげ、美少女みたいな美少年が目をあける。
「フローラン!」
軍用馬車に捕まったと思ったのか、あたりを見まわして何かを探してる。というか、たぶん、フローランって人だろうね。そういうとこ、かーくん、察しがいい。
「残念だけど、ここはボスの乗ってた馬車じゃないよ」
「ああっ! さっきジャマしたぽよぽよ!」
「僕はかーくん。ぽよぽよ神の僕の前で、あんな無謀な特攻は見すごせないよ」
「ぽよぽよ神……」
すると、美少年は起きあがり、僕の前にひれふした。
「おおいなるウサギの神よ。わが前に降臨したもうた神に祈ります。わが名はエアリーサン。風と日の出の霊を宿す風の精の
あれっ? もしかして、僕、神さま?
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