第67話 問題児がいたんだっけ!



 さて、その夜だ。

 僕らは野原で野宿。たき火をかこんで、馬車もあるし、猫車もあるし、強いモンスターは出ないし、もうグウスカ熟睡だよね。なんなら、僕なんかヨダレたらしてた。


 そのころだ。

 人間たちが寝てるかたわらで、ゴソゴソと馬車をおりてくる影が……。


 あっ、ちなみにさ。ここからしばらく、僕視点じゃなくなるからね。これまで何度かやった三人称。

 かーくんは寝てます。おやすみなさ〜い。


 馬車から出てきたのは、水かきのついたポヨンとした足。パーティーのなかで水かきがあるのは、サラマンダーのサンダーと、そう、あの子だけだ。カエルのぬいぐるみ、ケロちゃんである。


「ケロ……」


 力なく肩を落として、野原に着地したケロちゃん。月を見あげるつぶらな瞳から、コロリと涙の粒がこぼれおちる。


 どうでもいいけど、一人称じゃないと、描写が増えるね。


「ケロケロ……」


 すると、ケロちゃんのあとを追って、馬車からもう一人おりてきた。今度の足はピンク色だ。黒いエナメルの厚底サンダルをはいてる。クマりんだ。


「ま〜」


 クマりんはケロちゃんに話しかけた。何してるの? と問いかけたのだ。


「ケロ……」


 ほっといてよと、ケロちゃんは答えた。が、クマりんはケロちゃんのとなりまでやってくる。


 勇者ロランの魅了によって、さきに仲間になったのは、クマりんだ。先輩である。それに、クマりんもケロちゃんも、ぬいぐるみが命を持ったモンスター。パーティーのなかでは二人だけの同種族だ。クマりんにとって、ケロちゃんは手のかかる弟のようなものだった。


「ま〜?」

「ケロ……」


 えっと、このままではわからないので、意訳していこう。


「元気ないね?」

「だって……」

「どうかしたの?」

「みんな、神獣になって、ズルイよ」

「しょうがないよ。あたしたちはドール族だし、人間や生きてるものとは違う」

「でも、ゴーレムだって、ほんとの生き物じゃないよ?」

「あれは魔法生物だから」

「そんなの、おかしいよ」


 さわぎすぎたせいか、猫車から、ぽよちゃんが顔を出した。寝るのが早いから、目がさめるのも、いつも一番だ。もうすぐ夜明けなのだろう。


「寝られないっすか? 悩みがあるなら、ぽよが聞くっす」

「ぽよちゃんにはわかんないよ! ぽよちゃんはかーくんに可愛がられて、ひいきばっかりされてるし、神獣にもなれちゃうし!」


 ケロー、ケローと鳴き……いや、違った。泣きだすケロちゃん。


「ぽよとアニキは同じぽよぽよっすからね」

「ぼくだって神獣なりたい! なりたい! 神獣なりたーい!」


 けっきょく、そこだった。ケロちゃんは自分だけ仲間はずれにされるのが、何より嫌いなのだ。


 ぽよちゃんは考えこんだ。

 しかし、何も思いつかない。ぽよちゃんが神獣になれたのがなぜなのか、自分でもわからないからだ。


「うーん。たくさん修行したら、なれるんじゃないすか?」

「ぼくだって、いっぱい特訓したよ? でも、なれないもん。神獣! 神獣! 神獣! ぼくも神獣なりたいよー!」


 と、サッとクマりんが立ちあがる。黒い手袋をしたパンチが、ドカッとケロちゃんの顔面にめりこんだ。人間だったら骨格が変わってしまいそうな右ストレート。


「甘ったれないで! 泣けば神獣になれるの? そうじゃないでしょ!」

「……うっ」


 ケロちゃんの両眼から、さらに大きな涙の粒がすべりおちる。反省したわけではない。その逆だ。


「わーん! クマりんのバカー!」


 ケロちゃんは泣きながら夜のなかへ走っていった。


「あっ……ケロちゃん!」

「ほっとけばいいのよ。あの子はいつもワガママばっかり。強さっていうのはね。自分で磨かなきゃいけないのよ」


 なかなかクールなテディベア、クマりん。


 しかし、ケロちゃんを一人でほっとくわけにはいかない。まわりには野生のモンスターがいる。それに、もうすぐ夜が明けると、ぽよちゃんは感じていた。みんなが出発してしまう。


「ケロちゃん、待つっす!」


 ぽよちゃんは追いかけた。

 プンプンしていたクマりんも、やはり気にはなるのか追ってくる。


「にゃ〜? 何してるのにゃ? みんな、どこ行くにゃ? トイも行くにゃ」


 猫車のすきまから、トイまで出てくる。

 どうなる? 可愛すぎるモンスターたち。

 以下、次回!

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