第66話 特訓行軍



 そのあとはなんか特訓の様相だ。なったばっかりの神獣を早くマスターしたいしね。


「マスターしたい職業が多すぎて、なかなか人間本来の職業がおぼえられない。僕、早く、オーロラドラゴンと白虎と神獣ソロモーン、マスターしないと」

「僕もまだオーロラドラゴン、マスターしてません」と、蘭さんも。


 僕は提案した。

「一人が戦うにしても、前衛と後衛に七人入っておけば、職業経験値はかせげるよ。みんなでならぼう」


 というわけで、ほかのメンバーは身を守る形で、個人戦はまだまだ続く。


 久々に蘭さんやバランの華麗な戦いを見たけど、ここらへんはぜんぜん問題ない。むしろ、僕と同じでチートすぎる。


 三村くんもめちゃくちゃ数値あがったから、ふつうに素手パンチで楽勝。

 神獣ティアパールは魔法メイン戦法で、水属性をたくさんおぼえるみたいだ。三村くんは魔法の数少なかったから、よかったかも。せっかく知力もあがったし。


 アンドーくんもランスも危なげない。人間は僕が丹念に数値いじってきたからなぁ。

 トーマスの大技は生来特技の竜毒のみだけど、体力高いから、ノーダメージでザコなんて、ひとひねりだ。あとはボス戦用の必殺技が欲しいかな?


 ジョーンズさんはNPCだから詳細は見れなかった。けど、そこそこ強いらしい。神獣になれたんだから、職業もあるていどマスターしてるんだろう。


 おどろいたのは、ヒカルンだ。光スライムのヒカルン。いつも、モリーのオマケみたいな気持ちでいたけど、生来特技がまったく違っていた。


「ねぇ、ロラン。ヒカルンのこの『スライム神変化かみへんげ』って何?」

「わかりません。まだ僕の前で使ったことないので」

「モリーの変身みたいなものかな?」


 森スライムのモリーが使う変身は、パーティーメンバーの誰かに化けれる。ステータスも同じになるし、その人がおぼえたスキルや魔法は全部使える。強い仲間に変身さえすれば、自分が弱くても困らない。


 けど、スライム神変化はわかんないなぁ。


「ヒカルン、これ、やってみてくれる?」

「プルル」


 あっ、まだスライム語は解せない。スライム職をマスターしないといけないのか。精霊語には限界があった。


「プルプルルー!」


 スライム神変化ー! といったんだろうな。たぶん。


 すると、その瞬間だ。チビこいスライムの体がポワポワとふくらんでいく。やっぱり、なんかに化身する技のようだ。


 なんになるのかな? 僕? 蘭さん? それとも、スライムに変身? だとしたら、モリーに?


 違った。バランだ。光り輝くクリスタルでできたバラン。アウトラインだけで誰かわかるね。


「やっぱり仲間に変身するのか。でも、なら、なんでモリーと技名が違うんだろう?」

「かーくん! よく見てください。スライム神変化で化身できるリストがある」


 蘭さんがさし示すところを見ると、そこにはたしかに、リストが。



 スライム神変化(神獣オーロラドラゴン、神獣フラウ、神獣クィーンハピネス、神獣オーパーツ、神獣白虎、神獣ソロモーン、神獣チャーミー、神獣朱雀、神獣ティアパール、神獣ダークウルフ、神獣ライトウルフ、神獣セラフィム、神獣サタン)



「これ、僕らがなったばっかりの神獣だね。でも、山びこはない」

「たぶん、パーティーメンバーで、その職業に就労中の人がいる神獣に化けられるんじゃないですか?」


 残念ながら、数値までマネできるわけじゃなかったけど、就労特性や特技はコピーできるみたいだ。神獣のすべての技が使えるなんて、スゴイぞ!


「じゃ、僕が山びこになったら……あっ、やっぱり、リストに山びこが増えた。でも、ソロモーンが消えてない。一回でも目の前で見た神獣になら変身できるんだ」


 たかがスライムなのに、神獣の技、使いほうだい……。


「じゃ、ヒカルンは数値さえ高くしてあげたら、個人戦もぜんぜんイケるね」


 なんてふうに、いろいろ新発見もあって、敵地なのに楽しい一日だった。


 けど、そのとき、僕はまだ気づいてなかったね。このあと、とんでもない波乱がやってくるなんて。その兆候ちょうこうは、すでにあったんだけど。


「ほかに一人で戦ってない人いたっけ? まあ、ネコりんはトイだけでいいよ。戦法同じだから」

「じゃあ、全員終わったんじゃないですか?」


 終わってなかったんだよね。

 決して忘れてたわけじゃないんだけど、こう人数が増えるとさ。NPCだけでも四人もいるし……。


 僕らは特訓に夢中で、いろんなことに気づいてなかった。

 楽しげにワチャワチャする僕らを見つめる目とか、神獣になれなくていじけてる子とかさ。

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