第53話 いきなり役立つ新魔法



 ザコに出会うまもないほど近くにボスがいる。でも、五匹ならんでると思ってたのに、一匹しかいない。

 ならぶっていうか、奥にむかって、じょじょに大きくなっていく同じ形のモンスターが……。

 もしかしてあれ、五カ所に点在してるのか! 真正面だと重なって見えるから、同じ場所にいるのかと思った。つまり、最低五回、ボス戦が連続する波止場。


「ぽよちゃん、遠み——あっ……」

「もう、ぽよがするっすよ?」

「うん。じゃあ、これからも、聞き耳はぽよちゃんの係ね」

「うっす!」


 ぽよちゃんのお耳がピクピク。空間にボスの情報が浮かんでくる。

 ちなみにさ。カンガルーみたいな見ためだ。魔王軍の見張りにしては可愛い。てっきり、ミルキー国のときみたいに火竜でもいるのかなと思ってた。


 レベルは15。ビッグカンガルー(ひまご)なんだそうだ。ひまごって? 卵じゃないの?

 スキルはビッグキック、袋から出す、あばれるだ。袋から出すだけ謎だけど、あばれるとビッグキックは予想がつく。


「ステータスも各1000だね。ボスにしてはチョロいかな?」


 地獄のギガンテスよりは少し強くなってる。それでも、力はギガンテスのほうが強かった。HP1000は少ないなぁ。


「僕のつまみ食いで、ステータスをカラにしてから倒そうか」

「せやなぁ。吸血の指輪のおかげで、どんどん強くなってくわ。でも、ファッションデザイナーもマスターしたんやけどな」

「仕立て屋じゃなかったっけ?」

「仕立て屋の上位職がファッションデザイナーや。けど、就労中しかアイテム増えへんねんな」

「指輪、もうちょっと欲しいから、まだファッションデザイナーでいてほしい」

「うっす!」

「うっすって言うと、ぽよちゃんみたいだからやめて!」

「んなアホな。ぽよちゃんが『うっす』なんて言うわけないやろぉ」


 それが、言うんだよ……。


 そんなのんびりした会話をかわしつつ、僕らはボスの前に立った。えっと、ビッグカンガルーだっけか。ビッグってほど大きくないなぁ。ふつうのカンガルーサイズだよね?


 戦闘音楽がかかって、テロップが告げる。



 ビッグカンガルー(ひまご)が現れた!



 やっぱり、ひまごって言うな。ま、いっか。


「じゃ、僕が倒すね」


 僕はふつうにペロンとつまみ食いして、ポコンとなぐった。カンガルーはあっけなく失神した。敵のスキルを見てるヒマもない。


「さ、次行こ。次〜」


 波止場を進むと、またカンガルー。あれ? でも、さっきのより大きい。今度は体高四メートルはある。さっきの倍だ。


「ん? 数値も倍だ」


 全ステータスが2000ずつ。これは、もしかして?


 とにかく、つまみ食い。ペロン。ペロン。ペロンと2000の数値をいただく。美味い、美味い。


 すると、ホムラ先生が言いだした。


「かーくん。せっかくだから、新しい魔法を試してみてはどうだね?」

「それもそうですね」

「私のお勧めは、持たざる商魂だ」

「ふむふむ」


 持たざる商魂か。商人の特技っぽくて気になってたやつだ。

 どうやって使うのかな?


「まず、呪文を唱えるんだ」


 ホムラ先生にうながされて、「持たざる商魂〜」と僕は叫ぶ。ちなみにこの世界の魔法には、呪文を唱えながらやるべき表情の顔文字がついてる。持たざる商魂は、こんな感じ。


 ♪(´ε` )


 な、なんだ? この口笛吹いて、しめしめって顔は?

 まあ、顔文字の指定だからさ。口笛吹いてみたけど。


「では、次は断捨離だんしゃりを使ってみたまえ」

「断捨離ですか? 持たざる者のスキルですね」


 持たざる者って職業でおぼえる断捨離。すてたお金の額がそのまま自分の素手攻撃力になる。

 ふつうの人なら、ひどいハズレスキルだろう。でも、僕は小銭ひろいで無限にお金ひろうんだよ? ということは、百億すてれば素手攻撃力が百億ダメージになるんだ!


「試しに一億円すててみたまえ」


 ホムラ先生が言うので、僕は一億円をすてた。


「武器を外すと素手の攻撃力をステータス画面で見ることができる」

「あ、見れる。たしかに一億攻撃力だ」

「じゃあ、もう一度、断捨離してみなさい。今度は百億すてるんだ」

「百億ですね?」


 言われるがままだ。百億をすてると、とうぜん、素手攻撃力は百億に……いや、違うぞ? 百一億だ。


「えっ? なんで? 最初にすてたのと二回めのが加算されてる?」


 ハハハと爽やかに笑いながら、僕のすてた百一億円をホムラ先生がひろうのを見た。


「せ、先生! 僕にお金すてさせて、自分のものにするつもりだったんですね?」

「いやいや。ムダにはならん。今後はこの『持たざる商魂』を唱えるたびに、すてた金額が加算されていくのだ」

「えっ?」

「そう。ふだんの断捨離は、その戦闘が終わると、素手攻撃力はリセットされる。だが、持たざる商魂を使えば、リセットされずに加算され続けるのだ」


 なんと!


「じゃあ、僕の素手パンチ力が百一億よりさがることは、今後ないんですね?」

「もっとも、持たざる商魂を唱えなければ、ふつうの断捨離だ。そこは敵にあたえたいダメージで調整すればいい」


 す、スゴイ魔法だ。これまで、すててしまったお金ちゃんたち、哀れな気がしてたんだよね。でもこれなら、お金ちゃんたちは、つねに僕のなかに力として残ってる。さみしくはさせないぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る