第46話 とつぜんのシャケ商店



「かーくん。ほんなら、おれ、あとでアジとナッツ、送ってくわ。おれも街がどないなっとるんか、たしかめたいし」と、三村くんが言ったので、僕はうなずいた。


 ウールリカに入れば、ヒノクニのときみたいに、しばらくボイクドには戻ってこれないかもしれない。今夜くらいは家族水入らずでゆっくりさせてあげよう。


 と思ってたら、とつぜん、三村くんが壁ぎわに走ってく。

 ど、どうしたんだろう? 焼肉の途中だったのに?

 僕がとまどってると、三村くんが手招きする。

 あれ? もしかして、あんまり久々で忘れてたけど、この挙動は、アレか?


 歩いていくと、

「へい、らっしゃい。シャケ商店でっせ。武器でっか? 防具でっか?」


 やっぱ、ソレかー!


「今なの?」

「メシすんだら行ってまうさかい、今しか時間ないんや」

「わかった。何があるの?」

「ここんとこやな」


 いつものように、お品書きが渡される。



 ぽよぽよ専用セット 百億円

 クマりん専用セット 百億円

 スライムセット 五十億円

 ケロケロセット 五十億円

 ネコりんセット 五十億円

 ゴーレムセット 五十億円

 コビットセット 五十億円


「なっ! 百億円!」


 ついに友達から百億をぶんどる気になったか。いや、ギルドのゴールド会員専用商店なんか、もっと高いから、ある意味、割安なのか?

 モンスター専用武器防具は三村くんしか作ってくれないしね。たしかに、いつも性能は抜群にいい。


「えっと、じゃあ、このぽよぽよ専用セットってのは?」

「これや」

「ん?」


 出された商品を見て、僕は首をかしげた。今、ぽよちゃんが着てるのは、以前、三村くんから買ったアラビアンセットだ。ああ、見なおしてみると、防御力70とか、ぜんぜん低いな。ぽよちゃん自身がめちゃくちゃ強くなっちゃったから、もうコレの防御力の意味はほぼない。けど、見ためは可愛い。


 なのに、新しく出されたのは細めのスカーフだ。ぽよぽよの首にちょうどいい幅。それに、うしろ足のブーツ。長いお耳を通す穴のあいた帽子。


「デザイン、後退してない?」


 体を覆う部分が今までにくらべて、格段に少ない。


「最初のヨダレかけと大差ないじゃん」

「よう見てや! 性能はこれまでとはダンチなんやで。これこそ、究極のぽよちゃん戦闘服や。最終決戦もこれで行ける!」

「ええ?」


 僕は半信半疑で、その性能をくわしく見る。


「えっと、ぽよぽよスカーフ——よろいなんだ、これ。防御力は、なんだ。10しかない。やっぱ見ためどお……なっ!」


 見ためどおりじゃなかった。たしかに防御力は十だ。でも、付属してる装備品魔法がスゴイ!


「装備品魔法『ぽよぽよガード』? ぽよぽよの動きのジャマにならないデザインで装備者の未知の能力をひきだす。魔法、ブレスダメージを半減!」

「ええやろ〜。ロランの精霊王の盾をヒントにしたんや。無効にまではでけへんかったけどな」

「いいね! じゃあ、ブーツはっと……おおっ! 防御力500。装備者の体力、素早さ、器用さを二倍にする! これも精霊王のブーツの機能だね。帽子はあらゆる即死攻撃無効。防御力も1500か。あっ、でも待ってよ。シャケ。今のアラビアンセット、即死魔法無効のはずだけど、ぽよちゃん、何度か即死攻撃でやられたよ?」

「そりゃそうやろ」

「えっ?」

「即死やからな」

「ああっ、そういうことか。魔法はふせげても、攻撃はふせげなかったんだ」

「今回は即死攻撃無効やで。無効を無効にも効くで」

「はいはい。百億円ねぇ。あっ、くぽちゃんのと二セットで二百億か」


 いや、待てよと僕は考える。

 もしかして、僕はまた、? あの願いの国へ行って?


「えっと、予備でもう一セットもらっとく。三百億ね」

「へい。まいど〜。オマケで妖精の爪デコっとくわ。これで攻撃力も三百増しやぁ」


 キラキラしたストーンをチョチョッとつけただけで攻撃力を三百あげてしまう男、シャケ。三百なんてカスみたいに思うかもしれないが、ふつうなら最強装備だ。


「色は赤、青、ピンクの三色かぁ。バランが赤いマントつけてるから、くぽちゃんに赤のセットね。ぽよちゃんは青が似合うかなぁ」


必然的に、もしも僕が着ることあれば、ピンクだ。


「はい。ぽよちゃん。こっちに着替えようねぇ」

「うっす! スカーフのむすびめが耳の形みたいで、カッコイイっす」

「あれ?」

「なんすか? アニキ」

「ぽよちゃんの言葉がわかる」

「ほんとっすか? ヤッター! 嬉しいっすぅー!」


 あっ、そうか。精霊をマスターしたからか。ビックリした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る