第45話 アジ、ナッツの門出



 買い物したり、銀行によぶんなお金預けたり、ギルドに寄付したり、抽選やアレコレ楽しんだあと、蘭さんが言った。


「ねえ、かーくん。今日は僕らも外食にしましょう。今から作るのは、アンドーがたいへんだから」


 で、酒場に戻って、それぞれ注文をする。僕はやっぱり焼肉だよね。焼肉定食。プリンはしばらくいいよ。

 ああ、猛、無事に逃げたかなぁ。焼肉を見ると、わが兄を思いだす不思議。


 その席で、アジが言いだした。


「ねぇ、かーくん。シャケ兄ちゃん。さっき、ウワサで聞いたんだけどさ。故郷の街がだいぶ復興したんだって。それで、むこうでも新しくギルドを作るから、そこで働く人材を探してるって言うんだ」


 ん……この流れは……。


「でさ。おれ、そこで働こうかなって。働きながら学校も行って、将来は医者になりたいんだ」


 ああ、やっぱり、そうなってしまったか。しょうがないよね。アジはまだ子どもだし、魔王軍との戦いにつれまわすより、立派なお医者さんになってもらいたい。


 シャケの弟アジは、貧民街の劣悪な環境で育ったんだけど、とても頭のいい子だ。才能がある。

 それに、ゴドバに支配されてた街は、僕らが魔物を倒して一掃いっそうした。そのあと、ワレスさんがインフラ整えて住みやすい街にすると約束してくれた。僕はまだ見てないんだけど、復興したって話は僕も聞いた。何しろ大富豪の僕が復興資金をふんぱつしたからね。


「あの街には今、才能のある人が必要だ。アジなら計算も得意だし、戦闘でも役に立てる。もしものときにはギルドを守れるね」


 シャケは目をうるませて感動してる。


「アジ。大人になったんやな。兄ちゃん、嬉しいで」

「シャケ兄ちゃんは、かーくんたちの手伝いするんでしょ? 留守のあいだは、おれが家族のめんどう見る。安心してよ」

「うん、うん」


 ほんとに立派になったんだね。いや、アジはもともと思慮深い少年だったんだけどさ。


「じゃあ、アジにはお祝いに百億円あげるよ」

「そ、そんなにいらないよ!」

「貴重な魔法書とか、薬とか、高価なものはたくさんある。それに街の復興にはまだまだお金が必要だ。アジなら大切に使ってくれると思うから。ホワイトフェニックスの羽を手に入れて、フェニックスの灰いらなくなったし、アイテムもいろいろあげる」

「ありがとう! かーくん! 街のみんなが幸せになれたのは、かーくんたちのおかげだよ」


 嬉しそうに輝く少年の顔を見るのはいいもんだ。

 すると、今度は黙って聞いてたナッツまで言いだす。


「そのギルド、おれも働けるかな?」

「ナッツ」

「母ちゃんももとに戻ったし、おれはかーくんたちほど強くない。それにもとの家は魔物にこわされてなくなったから、勤めさきを探さないとね。ギルドなら、母ちゃんといっしょに働けそう。母ちゃんは昔、父ちゃんといっしょに冒険してたんだ」


 ああっ! パーティーから女の子がぬけていく……やっぱり女の子が仲間にならない呪いが……。

 成長して美少女になったナッツが、たまりんと僕をとりあう、みたいな展開はないのか! 残念。まあ、アジをながめるナッツの目を見れば、それはわかってたんだけどさ。


「わかった。ナッツにも百億円あげるよ。豪邸買って、お母さんと幸せに暮らしてね」

「ありがとう!」


 これにて、アジ、ナッツはパーティーから卒業だ。


 アジとはいっしょに武闘大会に出たり、白虎の森で特訓もしたよね。オーク族グレート三兄弟と戦って貧民街を救った。ギガゴーレム戦でも力をあわせた。最初は敵として出会ったけど、ゴドバにナイショで捕虜をこっそり逃がしてるのを見て、心の優しい少年だとわかった。かしこくて努力家で、家族思いで、食いしん坊。武闘大会の屋台でたらふく食ったなぁ。


 ナッツは僕がゴドバにさらわれて、一人でさみしかったときに会ったっけ。行方不明のお母さんを探して旅をしてたんだ。再会するまで、ずっと男の子だと思ってたよ。廃墟城をぬけだすために、暗い地下道をえんえんと歩いたっけなぁ。あのときは僕とアンドーくん、ぽよちゃん、ナッツの四人しかいなかった。

 お母さんがゴドバの実験でモンスターに変えられててさ。つらい思いしたよね。これからはお母さんといっしょに暮らせるし、アジとも友達になれたし、楽しい毎日が待ってるね。


 彼らのその平穏な毎日を守らなくちゃいけない。一日も早く、残りの四天王と魔王を倒して——

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