第43話 中庭の特訓?



 ウールリカ。

 これまで、何度もその名を聞いた。

 位置関係で言えば、ボイクド国の北西にある隣国。陸続きなので、以前は自由に行き来できた。というか、ボイクド、ウールリカ、それに蘭さんの生まれたミルキーは、古くには一つの広大な国だった。現在でも姉妹国として交流が深かった。魔王軍が攻めてくるまでは……。


 その昔、ウールリカには森の人という種族が暮らしていたらしい。以前、たまりんが過去の幻影を見せてくれたけど、たぶん、精霊族。いわゆるエルフなんだろう。

 失われた古代の大国に住んでいたのは、そのエルフのようだ。

 ウールリカの人たちは、エルフ族の血をひいてるんじゃないかな。


 ウールリカへは以前、一度、国境の橋を渡って行ってみようとした。そのときには、橋は関所で封鎖されていて、けっきょくウールリカへは行けなかった。


 ようやく、その場所へ行けるんだ。


「いよいよ、明日ですね。魔王軍に占拠された街へ入っていくのは、ミルキーでも経験ずみだから、問題ないと思いますが。あのときより、僕たち、とても強くなってるし」


 蘭さんはむしろ嬉しそうだ。


「たぶん、廃墟城より強いモンスターがウジャウジャいると思うよ」

「万全に準備しておかないといけませんね」


 というわけで、僕らはボイクド城のある王都シルバースターでお買い物だ。魔法書や職業のツボなど買っておきたい。


 でも、その前に、お城の中庭で兵士たちの特訓してるっていうんで、そこへ行ってみた。ワレスさんがあとで来てくれって言ってたからだ。


 ワレスさんの特訓、厳しそうだなぁ。

 なんて考えてたのに、石畳の中庭に行くと、異様な光景が待っていた。


 剣や槍、弓を手にした兵士たちが、ちっこいおりの前で踊ってる? 「やあ!」とか「おー!」とか、かけ声だけは勇ましいんだけど。

 ほんで、ワレスさんはそのうしろの円卓で、優雅にお茶なんか飲んでるんだ。


「……何してるんですか?」


 たずねると、ふりかえったワレスさんはニヤニヤ笑った。


「おれは後衛援護してるんだよ」

「でも、何と戦ってるんですか?」


 たしかに戦闘音楽はかかってる。

 ワレスさんが親指で示すのは、ちっこい檻だ。よく見ると、なかにぽよぽよが入ってる。野生のぽよぽよらしい。ぽよぽよはにうずもれて、すやすや寝てた。


「……何してるんですか?」


 思わず二度聞き。


「だから、特訓だよ」

「僕には、ぽよぽよあがめて、みんなが原始宗教の舞を踊ってるようにしか見えません」

「なるべく戦闘を長引かせる必要がある」

「ふうん?」

「それにしても、もう少し時間をはぶきたいな。かーくん。お願いがある」

「はい! なんでも聞きますよ!」


 ワレスさんの下僕!


「この特技の『新緑の効果が二倍』ってところを、三倍にしてくれないか?」

「三倍どころか、十倍にしてみせます!」


 僕はスマホをとりだすと、内容を見もせずに、チャチャッと二倍を十倍に書きなおした。小説で書くは便利な技だ。にしても、充電量がいっきに10%もへったな。ふつう、数字をちょっと書きかえるだけなら、ほとんど電力使わないのに? まあ、予備バッテリーもあるし、今日は研究所に行って充電もできる。


 ワレスさんのニヤニヤが止まらない。

「かーくん。おまえは今、とんでもないことをしたぞ? もう二度と、おれに勝てない」

「ええ? 僕らもそうとう強くなりましたよ?」

「それは認める」


 それでも勝てないと? ワレスさん、ミラーアイズでこっちのステは見えてるんだよね?


「まあ、おまえたちも後日、おれと特訓しよう。それまでに全員、精霊をマスターしておくといい。モンスターたちも」

「モンスターも?」


 ぽよちゃんたちはコビット王の剣でつかれてないから、転職できないな。

 すると、ワレスさんは自分の肩から何かをつかんで渡してくる。クピピコだ!


「そっか。クピピコはワレスさんといたんでしたね」


 コビット王の剣を持った身長十センチの小人族だ。コビット王の剣で一回つつくと、その人は小人に。もう一度つつくと、もとのサイズに戻る。

 なぜか、近くにマーダー神官もいて、モンスターたちは強制的に精霊職に。


「そういえば、フェニックスはどうなりましたか? ふえ子たち。さきにつれて帰りましたよね?」

「体力が回復したので、今後は謎の島に住むそうだ。おまえたちによろしくと言っていたよ」


 たしかに、謎の島は自然ゆたかだし、変な人間がいないから、フェニックスも安心して暮らせるよね。


「ところで——」と、ワレスさんが本題を切りだす。

「おまえたちがウールリカへ行くとき、こっちからも応援を出してやろう」

「ありがとうございます」


 誰かなぁ? クルウかな? それとも、ユージイ? ロンドとエンリコかなぁ?

 全部違ってた。


「ホムラが新しく造ったゴーレムを実戦で試したいと言うんだ。明日、出発前にエレキテルの研究所へよってくれ」

「ホムラ先生のゴーレム……」


 大丈夫かなぁ? もちろん、正体は全知全能の魔神だから、すごい科学力を持ってる。この世界をガンガン近代化してくれてるのは、ホムラ先生だ。でも、ギガゴーレムのことがあるからなぁ。また変な機能つけてなきゃいいけど。

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