第44話 不穏な空気
「じゃあ、明日、研究所に行きます。どうせ、出発前に充電に行こうと思ってたので」
僕らは手をふって、ワレスさんと別れた。
ところが、中庭をかこむ回廊へ入ったときだ。柱のかげから、ワレスさんを観察する怪しい人物を見かけた。
兵隊なんだけど、マントの色がワレスさんの近衛隊とは違う。と言って、傭兵でもなかった。近衛隊は青いマント。傭兵はマントなし。でも、その兵士は赤いマントをつけてる。ってことは、正規隊か。マントの長いのと短いのがいて、長いほうは隊長だろう。
「なるほど。たしかにまた妙なふるまいを……」
「何をするつもりでしょう?」
「まったく見当もつかん」
「……さまに報告を」
「今のうちに調子に乗っておればいいのだ。どうせ、すぐに……」
僕がじっと見てることに気づくと、二人はあわてて立ち去った。
むーん? 怪しい……。
正規隊がワレスさんをにらんでた。
そう言えば、ボイクド城って派閥争いがあるんだっけ。もしかして、あれがそう? たしか、二つある正規隊のうち、なんとかいう隊長がワレスさんと反発してる。名前忘れたんで、『豪のゴドバ編』を確認してみると、ボルカミック隊長だ。
なんだかイヤな感じだったなぁ。今に見てろ的なすてゼリフ吐いてたし、そこはかとなく陰謀の匂いがする。
忠告しといたほうがいいのかな? 僕が中庭をふりかえると、ワレスさんはこっちに背中をむけたまま手をふってきた。うん。ミラーアイズ! 背後も見えてる。わざわざタレこむ必要はなさそうだ。
のちにこの派閥争いがとんでもない事件になるんだけど、このとき、僕は気づいてなかった。だって、予言者じゃないからねぇ。
「じゃ、僕らは買い物ね」
「あとでシャケ商店にもよってや」
三村くん。また僕になんか売りつける気か……。
ギルドに行くと、ゴライとモッディが酒場で食事中だった。
そういえば、二人は故郷を追われた難民だよな。お金はどうしてるんだろう? ワレスさんに協力してるみたいだから、傭兵あつかいかも?
「二人って、精霊はマスターしてますか?」
「いちおうしたよ。ワレス隊長がどうしてもって言うからさ。しかたなく。ゴライは格闘系の職業以外にはつけないんだ」
「ツボ使っても?」
「ツボでもなんでも」
そんな人もいるんだなぁ。職業って奥が深い。
「じゃあ、モッディさんには、これあげます」
精霊騎士シリーズの武器防具一式を渡す。
「えっ? いいの? おおっ、スゴイいい武器。防具も性能高い」
「いっしょに行くなら、みんな強いほうが有利なんで」
「悪いねぇ。ありがたくもらうよ」
「ついでに、精霊のアミュレットと職業のツボも。モッディさんはなれない基本職ありますか?」
「戦士と魔法使いと僧侶。それに武闘家」
「ええー! 基本中の基本のばっかり! ほんとだ。マスター職が商人、遊び人、詩人、踊り子、盗賊、ニートだ。まじめな職業が商人だけ。歌って踊って、たまに商売しつつ盗む!」
「人聞き悪いなぁ。ははは」
って、ひたいに浮かぶ冷や汗は何?
「じゃあ、はい。戦士と魔法使いと僧侶のツボ。武闘家のツボもあげます。これで、まともな職についてください」
「ははは……」
こんなにたくさんの基本職につけない人、初めて見た。でも、かわりに羊飼いとか、織物師とかの個人職をマスターしてる。ゴライは格闘一本だっていうし、ウールリカの人って適性適職要素が強いのかも?
「あっ、あと、どうせ貧乏なんですよね?」
「グハッ!」
モッディさんは奇声を発して、ナポリタンを鼻から吐きそうになった。
「情け容赦ないな。君は」
「すいません。この世界じゃ大富豪なもんで。二人に一億円ずつあげるんで、銀行に貯金してください。そしたら、貯金額に応じてプレゼントくれます。預かりボックスとか、旅人の帽子とか、流星の腕輪とか、いいものくれるんで。プレゼントもらったあとは、お金は自由に使っていいです」
「ウォーッ! 夢のカジノに行けるじゃないか!」
「……」
ああ、僕の一億円はギャンブルに消えそうだ。
それにしても、ゴライはほんと無口。なんもしゃべらない。モッディさん、よくずっといっしょにいて退屈じゃないな。
一億円ずつ渡したんで、僕は二人と別れた。
モッディさん、いっしょに旅するには、ちょっと不安が残る人だ……。
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