第38話 地獄のギガンテス戦3



 終わらない戦い。

 サッと伸びてくる巨大な腕を、ヒョロリとよける、やたらすばしこい、ぽよぽよ。

 これ、絶対、永遠に続く。


「ぽよちゃん、疲れてきたよね?」

「そうすね」

「いったん倒して、休んでから出なおす?」

「そうっすねぇ」


 そういうあいだも、ヒョヒョイっと。


 ギガンテスも僕らの素早さに困りはててるように見える。すごくあせった表情だ。

 なんとなく、コイツ、悪いヤツじゃないなぁ。このちょっととぼけた感じは、以前、出会った水神さまや水守、それに職神さまに通じるものがある。そういえば、地獄ぶんまわしとかいう怖いネーミングの技もあるのに、いっこうにそれを使ってこない。


 僕らもギガンテスも困惑しきっていた、そのとき。


「ミミ〜! ご主人さま!」


 ビックリ。そうだった。こっちの世界ではしゃべるんだったね。ミニコ。


「シルバン兄ちゃんからゴーレム通信キャッチしましたミ〜」


 そうか。シルバンはミニコにとって兄ちゃんなのか。まあ、サイズ的にもそうなのかも。

 それに、ゴーレム通信? そんなのしてるんだ? もしかしたら、定期的に電波をとばしあってる? ありうる。

 いや、てかさ。シルバン、無事なんだ? どこから通信が? ギガンテスの体内?

 いろいろツッコミどころ満載だった。


「えっと、シルバンはなんて?」

「よけちゃいけないミ〜」

「へっ?」

「食われるですミ〜」

「えっ? というと、もしや?」


 僕がぽよぽよの手でギガンテスをさすと、ミニコはうなずいた。


「パクリと?」

「パクリですミ〜」

「パックン?」

「パックン!」

「まるっと?」

「まるっと!」


 何度もしつこいくらい、ギガンテスを指さす僕。

 そのたびにうなずくミニコ。ニコニコ笑う姿は小一の僕。ただし、頭にアンテナがあって、赤いリボンむすんでるけどね。


「なんで?」

「恐れるなー! ですミ〜」

「……」


 僕はぽよちゃんと耳打ちしあった。ぽよぽよどうしだから、長い耳でよく聞こえる。


「ミニコがあんなこと言ってるよ。ぽよちゃん」

「ぽよはアニキの言うとおりにするっすよ!」


 ぽよちゃんは僕に従う、と。

 ミニコはやたらオーバーリアクションで両手のこぶしをふりまわしてる。


「行くですミ〜。まるっと、パクンと、思いきりですミ〜!」


 しょうがないなぁ。いちおう、シルバンが生きてるのは、これでわかった。飲まれても害はないのか?


「じゃあ、ぽよちゃん。行くよ?」

「うっす」


 僕らの会話から、これは飲みこめそうだと察したらしい。話しおわるまで待っててくれたギガンテスの口中へ、僕らは自らとびこんで……いや! やっぱ、ムリ。自らはさすがにムリ。怖いし、キモイ。

 ああ、ヤダなぁ。粘液ベタベタになるのかなぁ? 口臭とかしませんように!


 ギガンテスの手が僕らをつかむ。


「ぽよちゃーん」

「アニキー」

「ミニコもすぐ行くですミ〜」


 ポイポイポイッと口のなかになげこまれる僕たち。

 暗転——


 ………………。

 …………。

 ……。



 *



「……くん。かーくん。起きて。かーくん!」

「かーくん」

「かーくん。大丈夫なで?」


 うーん。みんなの声が聞こえる。

 蘭さん、三村くん、アンドーくん。みんな、食われてギガンテス変化したんじゃなかったの?


 ゆすり起こされて、僕は目をあけた。目の前に、蘭さんや三村くん、アンドーくんたちの顔があって、僕をとりかこんでる。


「あれ? みんな、なんか小さいね」


 あたりを見まわすと、暗闇。まだ地下のどこかにいるようだ。ギガンテスに飲まれたんだけどな。どうなったんだろう?


「よかった! かーくんとぽよちゃんだけ、なかなか来ないから、どうしようかと思った。器用さが高すぎるのも考えものですね」

「へっ?」


 えーと、ギガンテスはどうなった? ぽよちゃんは?


 ぽよちゃんはすぐそばにいた。僕のそばで尻尾ふるワンコのように舌ペロで見あげてる。

 ん? 小さい?


「ぽよちゃんが、小さい……」

「キュイ〜」

「キュイ? ぽよちゃん、どうしたの? アニキ、ぽよはもともとこうっすよって言ってくれないの?」

「キュイ」


 蘭さんがそれはそれは残念そうな顔で僕をながめる。


「かーくん。もとに戻ったんですよ」

「もとに?」


 ハッ! そう言われてみれば、僕の体が大きい。手に指がある! ミャーコもポシェット型だ。こ、これは……この感じ。


「もしかして、人間? 僕、人間に戻ってるっ?」

「そうですよ」


 戻ったー! 鏡、鏡!


「ああー! 鏡、持ってない!」

「僕の貸してあげます」


 蘭さん、さすがは宇宙一美しさを自覚してるナルシスト。手鏡常備だった。

 蘭さんの鏡をのぞくと、二十数年見なれた僕の顔がそこに。


 はぁ……やっと、ぽよぽよから解放された。

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