第37話 地獄のギガンテス戦2



 ギガンテスのターン。

 ヤツはニヤリと笑うと、太くて長い腕を伸ばした。

 ああー! 食われるー!

 と思ったものの、その手は僕らの上を通りこしていった。ん? 何を狙ってるの?


「ヒヒーン!」


 馬だったー! 後衛メンバーの乗りこんだ馬が、車ごとパクリと丸飲みにされる。続いて、ひかえモンスターのいる猫車まで。


 ヤツは二台の乗り物とそこに乗った人たちを飲みこんで、満足そうに笑う。


 もう前衛メンバーだけだ。

 アンドーくんとトーマスが飲まれちゃったから、代打として、バランとぽよちゃんが前に出てた。僕、蘭さん、バラン、ぽよちゃん。この四人だけしかいない。いや、正確にはジョーンズさんもいるんだけど。


「あ。ヤバくない? このままだと全滅だよ?」

「……」


 うーん。蘭さん、返事なしか。急にやってきた反抗期? 僕がぽよぽよだから?


「ぽよちゃーん」

「アニキー」

「怖いよ」

「怖いっす」


 おびえて身をよせあうぽよぽよ二匹。

 僕はいつまで、ぽよぽよなのか? 一生? まあ、一生ギガンテスと一体よりは、一生ぽよぽよのほうがいいな。ぽよぽよバンザイ!


 次は僕らの番か?

 でも、ギガンテスはそのまま立ちつくした。


「あっ、行動終わったんだ。僕らほど素早くないから。ロラン? 反撃するの? アイツ、たぶん、こっちが無抵抗だと丸飲みしかしないよ?」

「ですね」


 見ると、丸飲み(トーマス、アンドー、アジ、シャケ、ラフランス、スズラン、クマりん、ケロちゃん、モリー、ヒカルン、シルバン、ラブ、トイ、タイガ、シア、馬、トラっち、馬車、猫車)になってる。いっぱい飲んだなぁ。


「飲まれた人たちの名前が増えてる。この書きこみ、なんだろ?」

「もしかして……」


 意味深につぶやく蘭さん。

 けど、そのとき、業を煮やしたようすで、ジョーンズさんがとびだした。


「ユーたち、何してるですか! 戦うですねぇ。丸飲みされて全滅するだけでぇーす」


 ウルフクローとかなんとか技名を言って、ジョーンズさんはギガンテスのお腹を切り裂いた。

 ああっ、残酷ー! やめてぇー。冒険録は残酷描写のレイティングつけてないんだよー?


 あっ、でも、なんか変だぞ?

 ジョーンズさんがギガンテスのお腹を裂いた瞬間、パクリとひらいたその穴から光と風が……こっちに吹きつけてくる風じゃない。反対に僕らの体が吸引されていく。


「ぽよちゃーん!」

「アニキー!」


 抱きあって、必死にふんばる僕ら。体重で言えば、かるがる浮いちゃうはずだけど、そこは力の数値の高さで、ふんばれた。


「うわー!」と悲鳴をあげて風にまきこまれたのは、ジョーンズさんだ。哀れ。ギガンテスのお腹に吸いこまれる。


「やっぱり、そうだ! きっと……」


 蘭さんはそうつぶやいたあと、急に力をぬいたように見えた。当然、体が浮きあがって、ギガンテスのお腹に吸いこまれてしまう。


 ああー! 仲間が、勇者が……勇者が食べられたよ。この物語、ここで終わってしまうのか? ほかのメンバーは、もちろん、いなくなったら悲しい。けど、魔王との戦いで言えば、代えがきく。でも、ロランは勇者なんだよ? 唯一無二の僕らの希望だ。


「かーくんさん。すみません。わたしも、もう……」


 今度はバランが犠牲に!

 その直後、ギガンテスのお腹の傷がふさがった。光と風がやんで、僕とぽよちゃんだけが残される。いや、ミニコもいることはいるんだけど。


「どうしよう。ぽよちゃん」

「みんな、いなくなったっす……」

「このまま倒しちゃう?」

「ぽよ、わかんないっす」


 倒しても、どうせまたここに戻ってくるだけだ。

 飲みこまれた仲間はどうなったんだろう?

 勇者がいなくなったら、この世界はどうなっちゃうんだ?


 僕らのターンが終わった。

 ギガンテスが腕を伸ばしてくる。僕とぽよちゃんを飲みこもうとして。


 けどね。僕とぽよちゃんは器用さがマックスなんだ。器用さの数値が高いほど回避率があがる。マックスって、つまり、! 


「うおー!」


 ヒョイ。


「おっ?」


 ヒョイ。


「ふがっ!」


 ヒョヒョイ!


「うーん。このまま終わらない感じ? いつまでこうしてればいいの?」


 ヒョイっとな。


「えーと、終わらない気がするっす」


 ヒョコっとな。


「だよね」


 飲まれるのはイヤ。でも、戦闘を終わらせることもできない。

 何が正解なんだか、サッパリわからないよー!


 困りはてて、ヒョコヒョコとびまわる、ぽよぽよ二匹……。

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