第25話 再会、猛!



「兄ちゃんのバカー! 痛いよ。電気バチバチー!」

「あはは。すまん。すまん。かーくんがあんまり可愛いからさ。ずっと、ぽよぽよでいてくれ」

「ヤダ! 絶対ヤダ! そしたら、ずーっと猛の静電気の餌食えじきじゃん」

「悪いなぁ。そこは我慢してくれ」

「ヤダよ!」


 はあっ。猛がミイラじゃなくてよかった。僕はちょっと涙ぐんだけど、そこはナイショだ。


「猛は変わんないねぇ。なんで、僕はぽよぽよに……」


 その答えは一つしかない——気がする。


「それはともかく、かーくん。兄ちゃん、朝になったら処刑されるんだ。早いとこズラかろう」

「どこへ行けば、魔界から逃げだせるの? とりあえず、塔は出るんでしょ?」

「城の端にゲートに通じる架け橋があるんだよな。崖があって」

「崖に、橋か……」


 なんとなく、さっきユークリッドさんと別れた橋を思いだす。


「じゃあ、行こう」


 けど、どうしようかな。スリーピングはまだお姉さんの遺体を抱いたまま泣きくずれてる。

 このまま、ほっといていいの? スリーピングは主君のホウレンに背いて僕らを助けてくれたんだよね? お姉さんを救いだしたいからだったかもしれないけど、猛を逃がしたら、たぶん、キツい罰を受けるんじゃない?


「スリーピング。君もここにいたら困るんじゃないの? 僕らといっしょに逃げない?」


 僕が誘うと、ジョーンズさんは驚愕した。狼男なら、驚愕してもいいか。ぽよぽよよりは似合う。


「ホワイッ? 何言ってるですかぁ? その人は危険なウィッチでぇーす」

「でも、この人だって、なりたくてなったわけじゃないでしょ? このまま、ほっといたら、ホウレンに捕まって罰されるかも」


 僕はけんめいに主張した。けど、スリーピング自身が首をふる。


「わたしはホウレンさまのもとに帰ります」

「でも……」

「牢獄を破壊したのも、見張りを倒したのも、あなたがたです。わたしはかかわってない」


 まあ、そういうことにしとけば問題はないのかもしれないけどさ。

 それだけじゃなくて、ここで別れたら、スリーピングとはいつかまた敵同士として再会するだろう。僕らは魔王を倒すつもりだ。当然、四天王もやっつける。彼女がホウレンの部下であるかぎり、どちらかが倒れるまで戦うしかない。


「お姉さんはもういないよ。君がここに残る意味はないんじゃないの?」

「……わたしはホウレンさまに命を捧げている。あのかたのためになら死んでも悔いはない」

「そう。わかった」


 ホウレンがほんとにいいヤツなのかどうかはともかく、彼女がそこまで思いつめてるなら、しかたない。


「ぽよちゃん。吸血の指輪、渡してくれる?」

「ああ……しゃーないっすね。アネキの形見っすもんね」


 僕はぽよちゃんから吸血の指輪を受けとると、スリーピングの前にさしだした。


「これ、返す」

「いいの?」

「お姉さんのものなんでしょ? 大切な思い出だから」

「ありがとう……」


 ほんとは吸血の指輪は便利だったんだけど、僕だって猛に何かあったら、形見を他人に持っていかれたくないよ。


「じゃあ、かわりに、コレをあげる」


 スリーピングは遺体の指から指輪をぬきとった。


「これね。わたしの両親の指輪なのよ。父と母が結婚のさいに作ったペアリング。村が滅ぼされたとき、わたしと姉にたくされた。わたしは母の指輪を。姉は父の指輪を。そのあと、別々の主君のもとへ行かされることになったから、わたしたち、おたがいの指輪を交換したの。だから、これはわたしにとって、両親と姉の魂でもある」


 つまり、お姉さんがしてたほうは、もともとはスリーピングのものだね。


「そんな大事なもの、いいの?」

「あなたに持っていてほしい。きっと、姉もそのほうが喜ぶ」


 吸血の指輪は赤い石がついてたけど、こっちは黒い石だ。オニキスかなぁ?


「ありがとう。大事にするよ」


 スリーピングは、ほんのり笑った。

 なんかなぁ。心配だなぁ。ほんとにホウレンから罰受けないよね? このあと、変なことにならなきゃいいけど。


 そうだ! お姉さんが生き返ればいいんじゃないか?

 僕は急いでスマホをとりだして、小説を書いた。いつものように、繭のなかから出てきたお姉さんの目がひらく……と書こうとしたけど、できなかった。



 エラーです。書きこめない内容があります。



 やっぱり、そうか。スリーピングのお姉さんなら、魔王軍との戦況に影響してくるもんね。僕の小説ランクでは、魔王軍との戦いに関連のない人の生死しか変えられない。


 ごめん。スリーピング。

 お姉さん、つれもどせなかった……。

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