第24話 スリーピングのお姉さん



 キメラ皇帝大王将軍が倒れると、巨大な繭がはじけた。綿糸みたいなのが周囲に舞い散る。


「姉さん! そこにいるの?」


 繭で包まれていた中心に、女の人がうつぶせになってる。スリーピングがかけよるのを見送って、ジョーンズさんが嘆息する。


「おやおや。けっきょく、スリーピングに手助けしたんですねぇ。ユーアーフールです。フール。愚か者ですねぇ」

「三回も言わなくていいからね」


 三村くんが会話に割って入る。


「ぽよちゃん、えろう強くなっとるやんか。もう魔神やで。バケモンや。おれ、必要あれへんな」

「勝手にいなくなって、一人で放浪してたからだよ。僕らといっしょに特訓してたら、めちゃくちゃ強くなれてたのに」

「せやから、キュイキュイ言われてもなぁ」


 前巻は特訓回だったからね。最初から最後まで、数値あげまくった。


 しょうがないんで、スマホを出して、三村くんのステータスを書きかえとく。前に再会したときに、HPに一万、力と体力に五千ずつ足したけど、ポチポチすると、思ったとおりだ。ただの仲間だと数値は二万までしかあげられない。でも、三村くんは現実世界でも友達だから、もっと書きこめた。


「じゃあ、MP、知力、素早さ、器用さ、幸運に三千ずつ、力に一万五千、体力に五千ね。あと、レベルも1にさげとくから、また鍛えてね」

「キュイキュイ言われても」


 えーい、コイツめ。僕がせっかく強くしてあげてるのに。

 おかげで、三村くんのステータスはこうなった。


 レベル1(仕立て屋)

 HP11415、MP3170、力24606、体力10472、知力3460、素早さ3769、器用さ4274、幸運3407


 マスターボーナスや就労ボーナス込みの数字だ。にしても、仕立て屋って職業、どっかで聞いたような?


「あっ、そうだ。前に、たまりんが職業のツボ使ってなってたやつだ。仕立て屋」


 長押しして説明を見ると……なんと! こんな職業特性がある!


 就労中、まれに(0.01%)戦闘後、装備中のアイテムを仕立てて増やす。自動発動。


 おまけに、職業マスターしたあとのボーナス特性はコレ。


 仕立てる まれに(1%)武器防具の数値を5%高める。自動発動。効果は戦闘後も続く。


「装備品を増やしたり、強化できるんだ!」

「キュイキュイ言われても……」


 ああ、もう。


「ジョーンズさん。通訳してください」

「ラジャーですねぇ」

「シャケはここに来る前、大暗殺者だったはずなのに、なんで仕立て屋になってるのかって聞いて」

「オッケーでぇす」


 で、返ってきた答えは、

「気づいたら自然になっとったんや」

「そもそも、なんで、魔王城にいるの?」

「気づいたらおったんや」


 期待した僕がバカだった。

 職業は僕がぽよぽよになってたようなものかな?

 待って。だとしたら、ここは魔界というよりは、もしかして……?


「姉さん! しっかりして!」


 叫び声がしたので、僕はハッと我に返った。急いで、スリーピングとお姉さんのもとに走っていく。そして、目をそらした。


 いったい、どれくらいのあいだ、あの魔封玉に封印されてたんだろう?

 もとはきっとスリーピングに似て美しかったんだろうけど、今はミイラだ。生命力のすべてが失われている。あの玉、力を封じるだけじゃなく、じょじょに吸いとっていく力があったんだ。


 どう見ても、もう生きてはいない……。


「スリーピング……」


 泣き叫ぶスリーピングを前にして、僕らはなぐさめの言葉もない。

 ここにお姉さんを閉じこめたのは、ほんとにユダなのか?

 もしそうなら、ゆるせない。ユークリッドさん。あなたの邪心のほうは、いつかきっと、僕らが倒す。


 そのとき、牢のなかのどっかから、僕を呼ぶ声が。


「おーい。かーくん。こっちだよ。出してくれ」

「ん? 兄ちゃん?」

「うん。兄ちゃんだ」


 その声はまちがいなく、兄の猛!


「どこにいるの?」

「こっち、こっち」


 声のするほうへ行くと、そこにも大きな繭が。

 僕がシャシャッと爪で切り裂くと、これも消えた。


「兄ちゃん! 大丈夫? ミイラになってないよね?」


 問題なかった。

 まだミイラじゃない。


「かっ、かーくん!」

「うん?」

「……可愛いなぁ。モフモフしてもいいか?」

「わあっ、そうだった! 僕、ぽよぽよだったー!」


 感激した兄に抱きしめられて、思いっきり静電気くらってしまった……。

 猛、その静電気体質、異世界でも健在か。

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