第19話 ホワイトロータス
「姉の名はホワイトロータス。わたしとは双子です。奴隷となってから、わたしはホウレンさまに、姉はユダさまにお仕えしておりました」
ん? でも、ユダはユークリッドで長いあいだ封印されてたんだよね? あっ、そうか。封印される前かな? だとしたら、ずいぶん昔だ。この人、何歳なんだ? どう見ても二十歳前後なんだけどな。ほんとは一億とんで二十歳?
「わたしはとても優しいご主人さまにお仕えできて幸運でした。でも、姉の主人は残酷で
そうだったかなぁ? ユークリッドさんはいい人だったけどな。おもしろいとこもあってさ。
それとも、あれはユークリッドさんの善なる心だったから? 本体のユダは残酷で人を傷つけることを歓びにしてるイヤなヤツなの?
「そのころ、美しい女神さまがおられました。精霊族のお姫さまです。四天王さまは全員、女神さまに恋しておられました。ですが、選ばれるのはお一人です。激しい恋のさやあてがありました。その結果、女神さまの心を射止めたのは、彼らのなかの誰でもない。そのころ誕生したばかりの人間族の王だったのです」
ん? あれれ? いつのまにか、話があの絵本に通ずる内容に……。
「それで、姉はあるとき、ユダさまに隠密の任務を命じられました」
隠密の……いかにも悪い企み。ドキドキ。
「な、何を命令されたの?」
「人の王の暗殺です」
「ええーっ! そんなのただの逆恨みだよ。誰を好きになるかなんて、女神さまの自由でしょ? 僕がさきに好きだったのにぃーってやつ? アレ、言えば言うほど自分がみじめになるだけなのにねー!」
「あの、えっと、姉がそんなふうに思ったのかどうかまではわかりませんが、人の城に侵入し、いざ、暗殺というときに、姉は無邪気に寝ている人の王を見て、ためらったのです。あまりにも無垢な魂だったので。それで、巡回の兵士に見つかり、失敗しました。ユダさまは怒り狂い、姉を罪人の塔へ押しこめました」
なんとぉ。それは思ってたより重罪だなぁ。暗殺の意図があったと気づかれると、両国の関係は悪化するだろうし、主君の命令に逆らったととられるだろうし。
もちろん、暗殺なんていけないよ? しかも、恋愛のもつれなんかが原因でさ。けど、ユダからしてみたら、絶対にゆるせないミスだよね。
本来なら、すぐに処刑じゃないのかな?
でも、その話がほんとなら、裏切ったのは自分じゃないっていうユークリッドの言葉と矛盾してくる。
「うーん。よくわからない」
というか、さっき、黒蓮さん、お姉さんが投獄されたの二年前って言ってなかった? あきらかに古代の話のはずなんだけどな。
チャララララ……。
ミイラ皇帝が現れた!
王家の呪いが現れた!
「わあっ! 急に出た!」
「アルテマハイテンション体当たりっす!」
「ありがとう。ぽよちゃん」
「うっす」
モンスターのおかげで、おちおち考えごともできない。バトルは一瞬で終わるんだけどさ。
これが無双ってやつか。じっさいその状態になっちゃうと、小説としておもしろくないなぁ。今までのシリーズはさ。敵のHPと自分たちの攻撃力、一ターンでいくつけずれるか計算して、自軍のHPが多く残るようにする頭脳戦だった。今、ワンパンだから計算の必要ないもんね。
「あっ、宝箱だぁ。呪いの黄金マスク……これは、いらないや。いちおう持ってはいくけど。こっちの宝箱はぁ、牢獄のハープ。装備品魔法は監獄ロックかぁ」
順調に階層をあがっていく。あとちょっとで最上階だ。今のところ、猛は見つからない。生きてる人も見あたらない。生きてる人も……って? なんだろ? 足にからんで前に進めないぞ? まるで誰かの手が僕の足をつかんでるみたいな……。
「手ェー!」
まるでじゃなかった! つかんでたー!
牢屋から伸びてきた手が格子のあいだから僕の足をー! ぽよぽよのちんまり可愛い僕の足をー!
「ん? てか、猛なの?」
「た、た、た、助けてくれぇ……」
猛じゃなかったー! 声が違う! オバケー! ギャー!
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