第18話 罪人の塔



「へへへ。ぽよぽよは肉がやわらかくて美味いんだよな。もも肉がとくに美味い。塩焼きにするといいんだ」

「そうか? おれは耳の甘辛煮も好物だぜ?」

「耳もコリコリして美味いよなぁ」


 なんて話しながら、僕らの前を歩く門番たち。

 暗がりの物陰まで来ると、ゾンビ大王と竜近衛兵はふりかえった。


「けど、やっぱ、頭からバリバリ生かじりが一番だ!」

「ぽよぽよちゃーん。いっただきますーす」



 チャララララ……。


「アルテマハイテンション爪の舞!」

「アルテマハイテンション爪の舞っす!」



 戦闘に勝利した!

 一ターン以内で連続五百回以上勝利したため、かーくんには『瞬殺王』の称号が授与された。ぽよちゃんには『瞬殺王』の称号が授与された。特技、瞬殺の呼吸が使えるようになった!



 わっ。ビックリした。見たこともないテロップが出てきた。ギルドで称号が授与されるのは知ってたけど、戦闘でもちょくせつ、もらえるんだ。


「瞬殺の呼吸かぁ。えっと、とぎすまされたハンターの目により、敵の先制攻撃、または特技『のっとる』を50%の確率で回避する——わあっ、のっとる回避だって。けっこう役立つね」

「ヤッタっすね!」


 哀れ。竜近衛兵とゾンビ大王は床にノビてる。

 僕らはそのよこをすりぬけて、罪人の塔に入っていった。うしろから、黒蓮さんが追いかけてくる。


「うまくいきましたね」

 僕が話しかけると、黒蓮さんは、ほんのり笑った。

「やつらはいつも腹をすかせていますからね」

「ぽよぽよを食べるなんてゆるせないね。力の数値、吸いとってやればよかった」


 とは言え、今は急がないと。


「夜明けまで、あと何時間かな?」

「三時間です」と、黒蓮。


 そっか。今って真夜中なんだ。夜明けが五時半ごろとして、二時半。迷路でもさんざん迷ってたし、そうなるよね。


「あれ? ぽよちゃん、眠くないの?」

「平気っすよ?」

「だって、いつも夜の戦闘のときは寝てるじゃん」

「んん? 今日は眠くないっす」


 それならいいんだけど。二人しかいないパーティーメンバーのうち一人が寝てしまったら、残された僕はどうしたらいいのか。戦闘も厳しいけど、何より話し相手がいなくなる! ぼ、僕って、つねにしゃべっていたい派だったー!


「急ぎましょう」


 黒蓮さんが言うので、僕らは歩きだした。

 塔のなかは牢屋だね。ぐるっと螺旋らせん階段があって、その両側に格子戸の牢がつらなってる。階段はのぼる一方なので、道に迷う心配はない。


 とはいえ、牢獄は気が滅入るなぁ。暗くて、陰気で、魔王城のなかでも、とくに陰惨な感じ。ギャーッて、どっかから叫び声が聞こえてくるし、小部屋のなかには腐りかけた死体が放置されてる。


「あの悲鳴が猛じゃないといいなぁ。兄ちゃんが心配」

「アニキのアニキっすね」

「だいたい、猛の強さなら、すぐに逃げだせそうなもんなのに」

「強かったっすよね」


 グルグルと目のまわりそうな階段。死体の放つ腐臭。サビの匂いは血の流れたあとかなぁ? たまに出るモンスターは、また、さまよえる魂系になった。それとゾンビ。


 すると、僕らの会話を聞いて、黒蓮が口をはさんでくる。


「あなたにも兄弟がいるんですね」


 偽者のユダがそうだって言ったら、この人、どうするんだろう? まあ、助けに行く算段してる時点でバレてるかな?


「お兄さんとは仲がいいんですか?」

「じゃないと助けに行かないです」

「自分の命が危なくなったとしても?」

「もちろんです! 兄ちゃんなんだから」


 黒蓮さんはため息をついた。

「なんだか、わたしと、わたしの姉を見ているようですね」


 そうだった。黒蓮さんもお姉さんが捕まってるんだっけ。


「お姉さん、心配ですね」

「ええ……」


 愚問だった。心配でないわけないんだ。しかも、つれていかれたのが二年前って、ほんとに大丈夫なの? さっきから牢のなかに死体はあるけど、生きてる人なんて見かけないよ。ちゃんとまだ生きてるのかな? 黒蓮さんのお姉さん。


「あの……」

「はい?」

「ブラックロータスさんのお姉さんは、なんでつれていかれたんですか? ミスって?」


 黒蓮さんは黙りこんだ。やっぱり、プライバシーに立ち入りすぎたか。

 と思った瞬間、黒蓮さんは語りだした。あっ、話してくれるんだ?

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