第20話 牢から手
「ヤダー! オバケー!」
「アニキ。しっかり! 火の玉なら、ぽよが倒すっすよ!」
「火の玉じゃないよぉ。手があるもん」
「ゾ……ゾンビーッ?」
「ぽよちゃーん」
「アニキー」
ふるえて抱きあうぽよぽよ二匹。くどいようだが、そのうち一匹は僕だ。なんか、だんだん、ぽよぽよの自分になれてきた。
黒蓮さんが、冷めた目でつぶやく。
「囚人のようですね。まだ生きています」
……なんだ。生きてるんだ。てっきり死体が動いたのかと。
「へへへ。かーくん、勘違い。どなたですか? 悪い魔物ならお助けできないんですが」
「キュイキュイ言われてもなぁ。わかれへんねんけど」
ん? その大阪弁は? よく聞くと、その声にもおぼえが。ちょっと水分不足でしわがれてるけどさ。
「もしかして、三村くん? いや、違った。こっちの世界では、シャケ」
「いやぁ、せやからな。キュイキュイ言われてもわからんねん。けど、助けてくれへんかぁ? 頼んわ」
「はいはい。今、カギあけるよ。牢屋あけるカギは持ってるんだぁ。万能のカギね」
「おお、助けてくれるんか? おおきにな。えろう可愛いぽよぽよやなぁ——あれ? そっちにいんのは、ぽよちゃんとちゃうか?」
すると、ぽよちゃん。
「アニキの
ハハハ。三村くん、僕の子分だと思われてた。
まあまあ。三村くんなら問題ない。てかさぁ、やっと人間の仲間に会えたよ。なんで、三村くんだけ、魔界の牢屋に入れられてるのかわかんないけど。
ガチャンと万能カギで鉄格子の扉をあけると、三村くんがはいでてきた。いや、一人じゃないぞ? もう一人、うしろからついてくる。
「えっと、シャケ。そっちのは?」
「ああっ? このぽよぽよ、おれの作った服着とる! 背負っとるんも、もしかせんでもミャーコか? なんや、なんや。かーくんの持ちもんやな」
「だって、僕がかーくんだから」
「かーくんの服着たぽよぽよ。そばには、ぽよちゃん……ま、まさか!」
「そうだよ! 僕だよ。かーくんだよ!」
「かーくん、このぽよぽよに食われたんかー!」
「……」
何? その発想? なんで食われる前提? そんな恐ろしいぽよぽよ、この世界にはいないよ?
「なんやいな? バカにされとるみたいな、その目つき?」
「えっと、シャケはほっといて。そっちの人は? 獣人ですね?」
頭はオオカミ。体は人間だ。牢屋にいたんだから、囚人だよね? 悪いことしたのかな? いや、魔王軍で悪事って、人間にとってはいいこと?
「なんか、やらかしたんですか?」
細マッチョで端正な狼男。が、口をひらいたとたん、イメージは音を立ててくずれた。それも、かなりの轟音あげて。
「わあっ、なんてキュートなプーリティーぽよぽよでっすかぁ? わぁたし、こんなの初めて見ましたねぇ。オー、ワタシですかぁ? ウルフマンのミスタ・ジョーンズ言いますねぇ。ヘイユー、よぉろしくお願いしまっす」
「……」
すっごく、うさんくさい! 白々しいほどの外人風日本語。ちょっと前にテレビでよく見かけた外国人の芸人さんみたいだなぁ。
「ワタシ、なんにも悪いおこないしてませんねぇ。戦争はいけないです。戦になれば、ベリー苦しむのは庶民ですねぇ」
「うん。そうだね。戦争反対」
「だから、ワタシ、魔王さまの宝物庫から、トレジャーお借りして、人間界にトラベルしようとしたんですねぇ。バット! ウォーリヤー見つかって捕まってしまいましたぁ。オー、残念でぇーす」
「いやいや、それ、仕える王さまの宝盗んで軍を脱走しようとしたんだよね? 人間の世界でソレしても、捕まるよ?」
「ハハハ。ワタシ、日本語わかりませんねぇ」
盗癖はあるけど平和主義の獣人か。話しかたくどいけど、見すてるわけにもいかない。
「とにかく、僕は兄ちゃんを助けに行かないといけないから、急ぐんだよ」
「オー、グッド。オッケーね。ミスタ・ジョーンズもヘルプしますねぇ」
「なんや。ジョーンズ。ぽよぽよ語わかるんかいな? おれにも教えてんか?」
「オッケー。オッケー。任せてくださいですねぇ」
両手をひろげたり、拍手したり、ゼスチャーだけでも、にぎやかな人だ。三村くんと気があってるみたいだから、信用してもよさそう。
「じゃ、行くよ。早くしないと、猛が処刑されちゃう」
ところがだ。カンテラの明かりを受けた僕らを見て、ジョーンズは急にあとずさった。
「オーノー! 信じられませーん。あなたがた、やっぱり、ワタシの敵ですねぇ!」
もう、急いでるのに、なんなの? このエセ外人?
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